現役9人目、通算1,000勝を達成!「長澤の舞・長澤スコーピオン」で人気・長澤幸太騎手の本音

2023.09.09

世界で唯一、北海道帯広市だけで行われているばんえい競馬。体重1トン余りの大きなばん馬たちが、大小2つの障害がある直線200mのコースで、重いソリを曳いて速さや力を競います。レースの勝敗に大きく関わるのが、息を入れる(馬を止める)タイミングと障害の山を登るタイミングです。ばんえい競馬の騎手は、それらを馬に指示するプロ。

今回は、『長澤の舞』や『長澤スコーピオン』といったパフォーマンスがばんえい競馬ファンのなかでも有名で、2023年7月8日に通算1,000勝を達成された長澤幸太騎手にお話を伺いました。

長澤幸太(ながさわ・こうた)。1988年生まれ、北海道浜中町出身。2009年1月10日に騎手デビュー。2023年7月8日にはマツノタイガー号に騎乗して優勝し、通算1,000勝を達成した。1,000勝達成はばんえい競馬史上29人目、現役では9人目。

祖父がばん馬の馬主!小学4年生から服部厩舎に。

インタビュー中

取材時の様子 出典: 北海道Likers

北海道Likersライターたてかわ:騎手を目指したきっかけを教えてください。

長澤幸太騎手:もともと祖父がばん馬の馬主だったんです。家にも生産馬がいたので、馬に関わることがすごく多くて。祖父にばんえい競馬へ連れて行ってもらったり、お世話を手伝ううちに、騎手になってみたいと思うようになりました。草競馬も小学校高学年くらいからやっていて、ポニーから大きい馬まで乗っていたんです。練習は、家ですることもあれば、近くにいる馬主さんの手伝いに行ってすることもありました。

現在所属する服部(義幸)厩舎には、小学4・5年生から中学3年生まで、夏休み・冬休み・春休みの間ずっと行っていました。

北海道Likersライターたてかわ:休みの間というのは、最初から最後までですか?

長澤騎手:そうですね、休みの間、1日中ずっとです。朝起きて作業をし、1頭くらい馬を曳かせてもらいました。本当は高校へ行かず騎手になろうと思っていたのですが、そのときはばんえい競馬がほぼ潰れかかっていたときだったので……。服部先生にも「もし潰れたら大変だから、高校だけは行っておけ」と言われました。

北海道Likersライターたてかわ:騎手試験の勉強も高校に通いながらしていたのですか?

長澤騎手:本格的に勉強し始めたのは、高校を卒業してからです。実技は小さいときからやっていましたが。

長澤騎手のレースの様子 出典: ばんえい十勝

北海道Likersライターたてかわ:高校時代の部活はなにをされていたのですか?

長澤騎手:野球です。

北海道Likersライターたてかわ:噂で、今も野球をされていると聞きました。

長澤騎手:そうですね。騎手だと、利貴(金田利貴騎手)・新(島津新騎手)・菊(菊池一樹騎手)と一緒にやっています。タケさん(阿部武臣騎手)はボール拾いとかをしてくれていて、だいたい4~5人は集まっていますね。野球は小学1年生からずっとやっているので好きです。

北海道Likersライターたてかわ:ばんえい競馬と同じぐらい長くやられているのですね。野球は体幹もすごく鍛えられそうですね。

長澤騎手:そうですね。でも今はもう、あまり思いきり走り過ぎると筋肉痛になってしまいます(笑)

毎日野球の練習をしているわけではないので、試合の日の1~2週間前ぐらいからメンバーと一緒に河川敷でちょくちょく身体を動かしています。もともとフットサルやサッカーをやっていたんですが、利貴から「野球やりましょうよ」と誘われました。最初は試合もなしにただキャッチボールをしていましたが、のちに利貴の友達を相手に試合をするようにもなりました。

コロナ禍で調教師さんの息子さんが、中学校で対外試合ができなくなったのも野球を始めた理由の1つです。だから最初は中学生を相手に試合をしていました。子どもたちから「サインください!」と言われることもあって、少し驚きましたが嬉しかったですね。

2023年7月8日に通算1,000勝達成!長澤騎手といえば…

北海道Likersライターたてかわ:思い出の馬やレースはありますか?

長澤騎手: どれも覚えていますが、やっぱりテンマデトドケですかね。重賞も取って強かったと思いますし、普通の馬とパワーのレベルが違っていました。とても気分屋だけど、真剣に向かったときのパワーがすごかったですね。

1,000勝達成時のセレモニー 出典: ばんえい十勝

北海道Likersライターたてかわ:先日1,000勝を達成されましたが、達成したときはどのようなお気持ちでしたか。

長澤騎手:あまり意識していませんでした。周りの人から「あと2つだな」などと言われましたが、とくに気にしていなくて。「先週達成したかな」くらいです。

自分より遅くデビューした騎手が1,000勝を達成しているなかで「やったー!」と喜んでも「もうすでに抜かされてるやん」と思ってしまいます(笑) 成績が出てしまうのも、なかなか大変な仕事ですね。

北海道Likersライターたてかわ:1,000勝されたあとすぐ1,001勝されていましたが、そのときもとくに気にされなかったのですか?

長澤騎手:「また勝てたな」くらいの感じです(笑)

1,000勝達成時のレースの様子 出典: ばんえい十勝

長澤騎手:でもみんなそうだと思います。一つずつ積み重ねた勝利がちょうど1,000勝だ、みたいな。だから次はなにを目標にするかと聞かれても、おそらく次のレースをコツコツと勝っていくしかないんです。

大きいレースも勝ち取りたいなと思いますが、馬との巡り合わせもあるのでなんとも言えませんね。

長澤の舞 出典: ばんえい十勝

北海道Likersライターたてかわ:長澤騎手といえば1R騎乗時のルーティーン*や『長澤の舞』、『長澤スコーピオン』などのパフォーマンスが有名ですね。始めたきっかけはあったのでしょうか?

長澤騎手:ただ目立ちたかっただけかなと思います。1R騎乗時、大谷翔平選手が勝った際にホームランを打つ真似をしたり、オリンピックの時期にスキージャンプの真似をしたりと、スポーツネタを最初からいろいろやっていたんですよね。苦情が来て裁決に呼ばれたり、なんの意味があるんだと怒られたりしたこともありましたが、やり続けて今のかたちに落ち着きました。

目立つのは良いことだと思います。レースを見ていたら気づくと思いますが、勝つ際に行うルーティーンはほかの騎手にも結構あるんです。

初めてばん馬を見たときに、変わった名前の馬を見て「なんだこの馬、変な名前だな」と興味を持つ人もいるわけですよね。走っているブチオ*を見て「なんだこの馬、変わっているな」と思い、次もう1回走ったときに「あ、また走ってる。見てみようか」となる人もいる。

騎手も同じで、変な動きをしていると、「なんだこの騎手!?」と興味を持ってもらえます。パフォーマンスがばんえい競馬を見るきっかけになって、ちょっとでも注目して見てくれるようになれば良いなと思いますね。

*長澤騎手の1R騎乗時のルーティーン・・・1R騎乗前、ゲート前でクリスティアーノ・ロナウド選手(サッカー選手)のゴールパフォーマンスを真似する。
*ブチオ:体幹部に大きな白斑があるブチ毛のばんえい競馬元競走馬。

ばんえい競馬のレースはぜひ現地で楽しんで!

北海道Likersライターたてかわ:長澤騎手が思うばんえい競馬の魅力はなんですか?

長澤騎手:逆になんだと思いますか?

北海道Likersライターたてかわ:初めて見たときは、馬の大きさに驚きました。レース中、一緒に横を歩けるというのもほかの競馬にはない魅力だと思います。

長澤騎手:私もそう思います。やっぱりレースは、インターネット上の映像で見るのではなくて、絶対に競馬場へ来て見てほしいですね。帯広に住んでいても競馬場に行ったことがない人は、かなりいるんじゃないでしょうか。行きづらい、入りづらいというイメージがあるのかもしれませんが、今は若い人も増えたなと思います。

ぜひ現地に来て、紙馬券を買ってほしいですね!

 

ーーー普段の様子からもとても明るい方だという印象はありましたが、インタビュー中も常に明るく、とても楽しいインタビューでした。『長澤の舞』からの『長澤スコーピオン』といったパフォーマンスを含め、今後の長澤騎手の活躍に注目です!

連載「ばんえい競馬ではたらく人」では、ばんえい競馬を支える仕事に就くさまざまな人の魅力に迫ります。お仕事と記事の一覧はこちらから。

【画像】ばんえい十勝

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