北海道の馬産地で活躍する写真家・内藤律子さん。浦河町に移住し「いま伝える想い」
浦河町は、日高山脈のふもとの太平洋に面した町のひとつで、室蘭市から太平洋沿岸を進む国道235号線の終点の地域です。漁業が盛んで、新鮮な海産物が手に入る地域であるとともに、古くからサラブレッドなど競走馬たちのふるさととして知られています。
浦河町は、なんと「5000人町民乗馬」というスローガンがあるほど、町をあげて乗馬が盛ん。「浦河町乗馬公園」には町民が気軽に乗馬の練習に参加できる乗馬教室や乗馬サークルがあるなど、馬に親しむ環境がたくさんあります。
「浦河町立図書館」では、毎年夏にサラブレッド写真家として有名な内藤律子さんの写真展が開催されます。今年で23回目となる写真展の見どころなどを、内藤さんにインタビューしました。
内藤律子(ないとうりつこ)。埼玉県出身。1970年代より競馬場でレースカメラマンを務める。1970年代後半より、撮影のため競馬先進国であるアメリカや欧州へ渡る。現在のようにSNSなどを通じて世界と自由に繋がることができるようになるはるか前に、現地のさまざまな情報をカメラマンとして伝えてきた競馬界のレジェンド。また国内では、同じく1970年代後半より北海道の生産牧場をたびたび訪問し、母馬と仔馬の親子の撮影などを続ける。サラブレッド写真家として数々の功績が称えられ、1990年に女性で初の『JRA賞馬事文化賞』を受賞。1997年に浦河町へ移住。ライフワークとして、現在も精力的に馬産地のサラブレッドの撮影を続けている。
何気ない毎日を見てほしい。サラブレッド写真家・内藤律子さん
北海道LikersライターKawahara:毎年開催されている写真展について教えてください。どのようなきっかけで始まったのでしょうか?
内藤さん:浦河町教育委員会からのご提案とのことで、「浦河町立図書館」の職員さんから「観光客が多い夏のシーズンに、図書館内でサラブレッドの写真展を開いてくれませんか?」とお誘いをいただいたことがきっかけで始めました。
北海道LikersライターKawahara:どのような写真を展示されていますか?
内藤さん:第一に、競馬に興味がなくても、「馬が好き、動物が好き」という方にお楽しみいただける写真を展示することを心掛けています。
ほぼ毎年のように発行している『サラブレッドカレンダー』に選んだ写真、そして“私の写真歴”として過去に撮影をした作品を少しずつ展示しています。2022年の写真展は、オグリキャップが現役を引退した後ののんびりとした姿を撮影した作品を展示しましたが、今年(2023年)はオグリキャップの没後、2011~2016年ごろまでに浦河町で撮影した写真を中心に展示する予定です。
また今年は、地元浦河町の方にもより身近に感じていただけるように、どの牧場で撮影した写真かということを併せて記したいと思っています。
撮影で一番大切なのは「馬たちとの信頼関係」
北海道LikersライターKawahara:内藤さんの作品には、ほかの写真にはない独特の臨場感があると感じます。どのような工夫をされているのでしょうか?
内藤さん:撮影を受けてくださる生産牧場さんとの信頼関係を築くところから始まります。
その次にサラブレッドたちの撮影となりますが、撮影を開始して間もないころは、見知らぬ私の存在は馬たちにとってとても興味深いようで、たくさんの馬たちに囲まれ、真正面や不自然な姿の写真しか撮れません。しかし、何度も牧場へ通って撮影を続けていくうちに、馬たちも私の存在に慣れて、気にせず自然な姿で遊ぶようになっていきます。そのときがシャッターチャンスです。
日々、「生産牧場にいるサラブレッドたちはどのように生活しているのか」をお見せしたいと思って撮影に臨んでいます。生産牧場の人にも馬にも信用してもらって初めて、自然体の姿が撮影できるようになると思っています。
北海道LikersライターKawahara:臨場感のある撮影のなかで大変なことは、どんなことですか?
内藤さん:馬たちのいる放牧地へ入って撮影をするので、仔馬といる母馬に警戒されたり馬たちに囲まれたりして、過去に大きなけがをしたこともあります。すべて自己責任です。
また、これから競走馬となるサラブレッドたちの撮影なので、「絶対にけがをさせてはいけない」と、ときに緊張が走ることもあります。
でも、馬たちが自然な姿を見せてくれるのは、ありがたいことです。
サラブレッドのふるさと「浦河町」でいつまでも撮影を続けていきたい
北海道LikersライターKawahara:内藤さんは1997年に浦河町へ移住されました。なぜ移住されたのですか? 移住後はどのような生活を送られていますか?
内藤さん:移住前は、浦河町で現在は閉場した牧場の女子寮をお借りして、1年のうち10か月ほど撮影をしていました。そして、いざ閉場となったとき、「やはり、この浦河の地で撮影を続けていきたい」という気持ちが強く、牧場地帯の一軒家に住むことにしました。
私のサラブレッド写真集『神威の星』のモデルとなった、ハギノシンボルという馬を引き取って近所の牧場へ預託をし、余生を最期まで見届けました。ハギノシンボルの手入れをしたり、乗馬をしたり、家の庭で栽培したニンジンをあげたりしたことは、とても良い思い出です。
この土地の空気を吸い、この土地のものを食べ、なじんだからこそ撮れる写真があると思っています。浦河町は移住者へのサポートが手厚いことで有名ですし、馬が好きな人にはとても良い地だと思います。
北海道LikersライターKawahara:最後に、みなさまへメッセージをお願いします。
内藤さん:「浦河町立図書館」には、馬に関する書籍がたくさんあります。小説や、「JRA日本中央競馬会」が発行しているもの、馬券の本などもあります。私のサラブレッド写真集もご覧いただけますので、写真展と併せてお楽しみいただきたいです。私も週に何日かは写真展会場に顔を出し、写真の説明などをしております。ぜひお越しください! 浦河町でお待ちしております。
馬たちは生産牧場の財産
日高エリアには、サラブレッドやばん馬などの生産牧場がたくさんあり、夏の時期は、母馬と仔馬がのんびりと草をはむ姿を見ることができます。広大な北海道ならではの牧歌的な光景に、心を奪われる人も多いことでしょう。筆者もそのひとりです。
ただ、ここで注意したいのは、“ここにいる馬たちは生産牧場の財産である”ということ。
かわいい仔馬たちのほとんどは、いずれ馬主さんの手に渡り、競馬のレースで走る競走馬になります。また、多くの母馬は次の年にも仔馬を出産し、生産牧場を支えていきます。牧場の外から撮影したり、勝手に敷地に侵入したり、馬になんらかのアクションを起こしたりすることは、見ず知らずの人の家に勝手に入っていくことと同様、大変危険な行為です。
浦河町には、観光客が乗馬などを楽しめる「うらかわ優駿ビレッジAERU(アエル)」などがあります。馬たちとのふれあいは専用の施設で楽しんでいただき、生産牧場は、車窓から眺める美しい景色として、ぜひそっと心のなかでお楽しみいただければと願います。
内藤さんの写真展は、「馬の親子の普段の表情や、仔馬が放牧地を楽しそうに跳ねる姿を“まるで自分の目で見ているような臨場感”で鑑賞できる」と大変ファンの多い展示会です。今年の夏は、ぜひ内藤律子さんの世界に触れてみてくださいね。
<イベント情報>
■内藤律子写真展
■開催期間:2023年7月27日(木)~8月31日(木)
■会場:浦河町立図書館(北海道浦河郡浦河町大通3-52)
■電話番号:0146-22-2347(浦河町立図書館)
■休館日:毎週月曜、2023年8月25日(金)臨時休館
【画像】内藤律子さん
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