北海道旅行は冒険だ。世界中で広がりを見せる「アドベンチャートラベル」とは

“アドベンチャートラベル”という言葉をご存じでしょうか。“自然とのふれあい”“文化交流”“アクティビティ”のうち2つ以上の要素を持つ旅行です。欧米を中心に世界中で人気が広がりを見せており、日本においても新しい旅のスタイルを楽しむ機運が高まっています。

なかでも北海道は欧米とは異なる自然や野生動物の多様さが、アドベンチャートラベルに向いているとされているそう。

「北海道アドベンチャートラベル協議会」会長の荒井一洋さんにお話を聞きながら、アドベンチャートラベルの魅力に迫っていきましょう。

「アドベンチャートラベル」とは何か

然別湖 カヤック

提供:北海道アドベンチャートラベル協議会

アドベンチャートラベルは、自然を舞台としたアクティビティや異文化体験を通じて、自らの内面が変わっていくことを目的とした旅行スタイルです。“自然”“アクティビティ”“文化体験”の3要素のうち2つ以上で構成される旅行を指します。

例えばトレッキングやラフティング、野生動物の観察や異文化とのコミュニケーションといった能動的体験が含まれます。旅行を通じて自分自身の変化や視野の拡大、学び等を得ることが目的とされており、その地域ならではの体験が求められています。

阿寒 鶴

提供:北海道観光振興機構

2023年には北海道で「アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2023」の開催が予定されるなど、日本も世界から注目を集めています。コンパクトな土地に自然や食、文化が集まっていることが魅力の一つ。

とくに北海道は、多様な野生動物が生息していたり、歴史的・文化的な本州と対照的にアウトドア向きの自然があったりと、世界でもその存在感が認知され始めているのです。

日本人にとって北海道は広いイメージがありますが、スケールが大きい土地に住み、各地を巡る欧米人旅行者にとってはコンパクトな土地。登山やラフティングなどのアクティビティを楽しんだ日の夜に繁華街で食事ができるという環境は、世界中を見渡しても稀だと言われています。

⇒北海道での“アドベンチャートラベル”の楽しみ方をチェックする

北海道アドベンチャートラベル協議会会長・荒井一洋さんに聞く「アドベンチャートラベル」の魅力

荒井さん

今回の取材はオンラインで行いました

“自然を舞台としたアクティビティや異文化体験を通じて、自らの内面が変わっていくことを目的とした旅行”とは、いったいどのような旅行なのか。「北海道アドベンチャートラベル協議会会長」の荒井一洋さんに教えていただきます。

荒井一洋(あらい・かずひろ)。1977年生まれ。北海道札幌市出身。2000年に東川町へ移住しNPO法人『ねおす』のメンバーとして活動。翌年に同法人の東川支店として『大雪山自然学校』設立し、代表を務める。『北海道アドベンチャートラベル協議会』会長。インバウンド向けにアドベンチャートラベルを提供する『Adventure Hokkaido 合同会社』取締役。

東川町の豊かな自然に心惹かれた

荒井さん

提供:Adventure Hokkaido 合同会社

荒井さんは、“人と自然が共生する持続可能で豊かな暮らし”をビジョンに掲げる「NPO法人大雪山自然学校」の代表理事やインバウンド向けにアドベンチャートラベルを提供する「Adventure Hokkaido 合同会社」取締役を務める、ネイチャーガイド。

北海道札幌市出身の荒井さんは、両親の影響で自然に触れ合う機会が多い幼少期を過ごし、高校・大学時にニュージーランドに留学。そこでアウトドアの楽しさに引き込まれました。「私は英語が堪能ではないので、現地の人と会話でコミュニケーションを取るのが苦手でした。しかし一緒にアクティビティをすることで、言葉に頼らず楽しさを共有できました」と、当時を振り返ります。

大学卒業後、北海道各地で自然体験活動を実施する「NPO法人ねおす」に所属しながら、北海道東川町の「旭岳ビジターセンター」に勤務します。東川町は旭川市の隣に位置し、旭岳の麓に広がる自然が豊かな町。「旭岳ビジターセンター」での活動は1年間と決まっていましたが、荒井さんは豊かな自然と温かい人が多い東川町を後にする決心がつきません。「働く場所は自分で作ればいい」と考え、2001年に「NPO法人ねおす」の東川支店として「大雪山自然学校(2015年からNPO法人大雪山自然学校)」を設立。地域づくりや環境保全を目的とした、エコツーリズムや子どもキャンプなどを開始しました。

「恰好よく言えば『自然が好き』ということになりますが、食べていくための手段を作らなければ東川町に住み続けることができなかったのです。現在に至るライフスタイルは、こうしてスタートしました」

アドベンチャートラベルは「異文化の日常」

海外でアウトドアを学び、東川町の魅力に引き込まれた荒井さん。今では、「北海道アドベンチャートラベル協議会」の会長を担っています。まずは、アドベンチャートラベルが生まれた背景を聞きました。

「2000年代始めは、旅行業界にとって転換期と言えるでしょう。旅行のスタイルが“団体から個人”、“観光から体験”にシフトしていきます。かつて登山といえば、大学や社会人の山岳部や山岳会の活動が中心でしたが、このころから中高年の登山ブームが起こりました。2002年には、国連により『国際エコツーリズム年』が制定されるなど、旅行者用のパッケージではなく、自然や暮らし、文化などに関心が寄せられるようになりました」

アドベンチャートラベル 雪合戦

提供:Adventure Hokkaido 合同会社

「大雪山自然学校」で取り組んでいた“地域づくりや環境保全”も、いつしか「アドベンチャートラベル」と捉えられるようになります。しかし、グリーンツーリズムやエコツーリズムなどに既に取り組んでいたにも関わらず、新しい言葉を使うことに抵抗を感じる人もいたそうです。

「アドベンチャートラベルを難しく考える必要はありません。自らの体験を『アドベンチャー(冒険)だ!』と感じたら、それがアドベンチャートラベルなのです」と荒井さんは言います。

「雪が降らない国の人が冬の北海道で雪合戦をすることや、ワサビのツーンとした刺激を体験することも“アドベンチャー”。大切なのは、それが地元の人たちの日常の延長線上にある“ほんもの”の体験であることです。観光客向けに作られた体験では『アドベンチャーだ!』という感動は味わえないでしょう」

さらに、「“ほんもの”とは“地域の普段づかい”」と荒井さん。

そして、“普段づかいのおすそ分け”がほんものの体験と言える。

「スウェーデンを旅行した時に、日本人ツーリスト向けにマウンテンバイクのツアーが用意されていました。スウェーデンには“国民全員が自然を享受する権利がある”という考え方があり、観光用のルートだけでなく、素晴らしい景観なら私有地にも立ち入ることが認められていました。観光用のルートよりも、日常的にスウェーデン国民が普段づかいしている所へ行ってみたいですよね」

荒井さんが代表を務める「大雪山自然学校」では、子ども自然体験プログラム『森のようちえん』を行っており、毎日12人の子どもたちが森で遊んだり馬の世話をしたりしています。ランチタイムにはオーガニックの給食をみんなで美味しくいただく。海外のアドベンチャートラベラーにも、子どもたちと同じ体験を用意しているそう。

「これって“ほんもの”なんですよね。そこに住む人が普段体験している“ほんもの”の日常のおすそ分けです。そして普段のことですから、持続可能な旅行商品と言えるんですよね」

その土地に住む人が訪れる場所に行く、その土地で育てられた米や野菜を使った料理を、田畑を見ながら食べる。これこそが“ほんもの”であり“普段づかいのおすそ分け”。「そうした情報を旅行者個人が得ることは難しい。地域に精通するガイドが必要不可欠なのです」

アドベンチャートラベル 大雪山

提供:Adventure Hokkaido 合同会社

最近実施した『大雪山国立公園3つの環境をめぐる旅』は、「個人の登山ではできない体験ができた」と好評でした。この企画は荒井さん自身が旅行で感じた不便な体験がヒントになっています。

「カナダのバンフ国立公園を巡ろうとしたときに、交通機関や入園料などを自分で調べなくてはならないうえに、公園内に見どころが分散しており、移動に辟易しました。公園に精通したガイドが見どころを案内してくれたり、地元のおすすめのカフェでランチが食べられたりするプランがあったらいいなと思いました」

自然環境は資源から資産への転換が必要

美しい景観が日常になっている者にとって、地元の良さを見つけるのは難しいことです。ニセコエリアを例にすると、優れた観光資源になりうる価値を見出し、世界的リゾートに発展させたのは外資系企業でした。

荒井さんは大学院で「エコツアーのコスト構造とシャドーワーク」について研究しており、自然環境との関わりを、資源から資産に転換することを提唱しています。

大雪山 ハイキング

提供:Adventure Hokkaido 合同会社

「これまでの旅行業界は、“環境”という“資源”を使って集客し、そこに関わる者に利益をもたらすスタイルでした。地元への還元は少なく、自然を摂取し尽くし、資源の価値がなくなれば廃棄されてしまう。そうではなく、自然環境は地域の“資産”であるべきです。大掛かりな開発をするのではなく、地域の人々が価値を見出し、永続的に管理することで、資産としての価値を高めていくことが重要です」

「大雪山自然学校」では、札幌や旭川に住む会員を対象に、エコツアーを開催しています。参加者の多くは50代以上の女性で“知的好奇心”“健康維持”“コミュニティ”などを求めて参加されているそう。

「この年代は、若いころからアクティブに活動してきた方々です。もしも高齢になって、一人で出かけることが困難になったときでも、私たちがサポートすることで自然を楽しむことができます。また、遠方に出向くのが困難になった場合でも、これまでの習慣から、近くの自然に触れることを求めることでしょう。それによって地域の良さに気づき、自然を大切にしようという気持ちが広がっていく。小さなことですが、そうした取り組みが将来的に地域の資産価値を高める活動に繋がると思っています」

「アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2023」開催

サミット

提供:北海道観光振興機構

2023年9月11日~14日に「アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2023」が北海道で開催されます。世界中のアドベンチャートラベル関係者が一堂に会する国際会議で、旅行会社、メディア、アウトドアメーカー、観光局・観光協会、ガイドなど、約60カ国から約800名が参加し、4日間にわたってアドベンチャートラベル体験、商談会、セミナー等が行われます。アジア・オセアニア地域では、北海道が初開催。

「旅行者にアドベンチャートラベルを理解してもらうためには、地域の人々が他の地域のアドベンチャートラベルに参加することが不可欠」と荒井さんは言います。

2023年2月から英語表記のみだった「アドベンチャートラベル北海道」の公式ホームページが日本語表記になるなど、アドベンチャートラベルが世界から、日本、そして地域に広がっています。

 

今回実施されるサミットが、北海道におけるアドベンチャートラベルにどのように貢献するのか。今後の展開に期待が高まります。

【2月3日オープン】「アドベンチャートラベル北海道」の日本語版サイト

Sponsored by 北海道観光振興機構