余市リキュールファクトリーお店の前

地域のフルーツを甘くとろけるリキュールに。「主役は農家さん」元杜氏の酒づくり【余市町】

2022.08.27

りんご、ぶどう、梨などフルーツがとても有名な余市町。JR余市駅を降りて少し歩みを進めたところに、パッと見ではなんのお店かわからない、素敵な雰囲気をまとうお店があります。

そのお店は「余市リキュールファクトリー」。2019年に元杜氏(日本酒づくりの最高責任者のこと)の寺尾光司さんが「出身地である余市のフルーツを使ったお酒をつくりたい」と立ち上げました。

今回は寺尾さんがいれてくださったお酒を楽しみながら、寺尾さんのお酒やまち、農家さんに対する想いに迫ります。

寺尾光司(てらお・こうじ)。北海道余市町出身。 日本酒製造に15年間携わる。南部杜氏、酒造技能士1級。
日本酒、焼酎、ワインなどあらゆるお酒をつくることができるが、余市町のフルーツをお酒にすべく、リキュール製造を選択した。町内の全ての農家のフルーツを酒にしようと試みている最中。目標はその試みを北海道全域に拡げること。お酒の主役はフルーツであり原料をつくった農業者。フレッシュで飲みやすく心から美味しいといわれるお酒をつくりたい。

原点は「日本酒づくり」

「余市リキュールファクトリー」の開業の原点は“日本酒づくり”だそう。寺尾さんは語ります。「前職は日本酒をつくる杜氏で、日本酒で独立をしたいという夢がありました。ただ、免許が何十年も下りていないという障壁があり……。ずっと独立したいと思っていたので、出身地である余市のフルーツを使って飲みやすいお酒をつくろうとリキュールファクトリーを開きました」

酒造会社で、日本酒づくりに加えてフルーツ担当として商品開発をしていた寺尾さんは、自分でゼロからリキュールづくりを始めました。日本酒づくりのときの原料処理やろ過の技術が今のリキュールづくりに役立っているのだそう。日本酒とリキュールの結びつき、興味深いですね。

農家さんとのつながりの環が新しいリキュールを生み出す

寺尾さんのつくるリキュールの材料は余市の農家さんのフルーツ。りんごやぶどうを中心に使っています。

最近では、農家さんから話をもらって採用したフランボワーズやトマト、自分の畑で育てているブルーベリーも使っているそうです。

おすすめのりんご、黒ぶどう、トマトのリキュールを試飲しました。これが本当に甘く溶けるような感覚。言葉に表せないほどです。試飲ができなかったブルーベリーのお酒はお土産に購入。

「余市町は“ワイン特区(リキュールも含む)”の認定を受けているため、リキュールの材料には余市の特産品しか使えません。そこで、去年12月にはリキュールづくりのためにトマトを特産品に登録してもらいました。珍しいトマトのリキュールが起爆剤になるのではないかと思っています」と寺尾さん。

こうして動いていると、いろいろなところから話がくるようになったそうです。フランボワーズのリキュールは、「そうせい農園」の若手の農家さんから「フランボワーズが15kg余っているから使ってください」という話をもらいつくりました。桃も知り合いからもらってつくり始めたところ、農家さんから提供いただけるように。

農家さんからの評価も上々です。「この前、フルーツを提供してくれている農家さんが買いにきてくれました。自分の農園の名前で出ている商品は気になるそうで、誰かにプレゼントするときも一番に選ばれるみたいです。買ってくれたお酒の宣伝までしてくれていますね」

農家さんとのつながりと農家さんのチャレンジ精神があるからこそ、寺尾さんの新しいラインナップが増えていくのかもしれません。

目指すは「リキュールを通じた北海道内の地域特産品づくり」

寺尾さんの中期目標は「リキュールを通じて北海道内の地域特産品づくりをすること」だそう。まだまだ想像は膨らみます。

「まずは余市のイチゴやメロンなどのフルーツを中心にしていきたいですね。農家さんって面白くて、必ず隠している果物があるんです。たとえば、リンゴ農家さんが少量のフランボワーズをつくっていたり、リンゴを提供してくれている“泉谷果樹園”がプラムを持っていたり。いずれは“余市リキュールファクトリーシリーズ”を道内各地につくってみるのも面白いかもしれないですね」

どれだけ成長しても「主役は農家さん」

挑戦を続ける寺尾さんですが、どれだけ成長してもぶれない軸があります。それは、“主役は農家さん”ということ。

「“ここの農家さんの果物をお酒にしたらこんな味になりました”ということをずっとやっていきたいと思っています。お酒をつくっている人は“俺の酒を飲め”という考えの人が多いですが、農家さんを主役にしてお酒づくりに参入してくれたら、もっと面白くなると思います」

おすすめのリキュールを持つ寺尾さん

寺尾さんおすすめの1本とパシャリ。泉谷果樹園のりんごリキュール『つがる』1,650円(税込) 出典: 北海道Likers

さらに寺尾さんは続けます。「大きい酒造メーカーも、特産品の農産物にスポットを当ててお酒をつくっていますが、私は“この地域に住んでいるこの人にスポットを当てたい”です。農家さんは前に出ることがあまりなくて、もじもじしていることも多いですが、お酒を通じて一歩前に出てほしいと思っています。テレビに映ったりするのも、絶対楽しいと思います」

 

おすすめのお酒を持つ寺尾さん(奥さま)

最後に、妻・亜美さんもおすすめを教えてくれました。『ブルーベリーリキュール』1,650円(税込) 出典: 北海道Likers

とても明るく話してくれた寺尾さん。その明るいコミュニケーションで紡ぐ余市のリキュールが筆者も楽しみで仕方ありません。ぜひ、いろいろなお酒を試飲してみてください!

<店舗情報>
■余市リキュールファクトリー
■住所:北海道余市郡余市町黒川町8丁目2 1階
■電話番号:090-9526-9773
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