上田精肉店

「上田の鹿はうまい」絶対的な定評を得る超本気の肉屋。エゾ鹿肉にかけるこだわりとは【北海道新得町】

北海道の真ん中に位置し、山々に囲まれ十勝川の源流が流れる自然豊かな町、新得町。この新得町には“超本気”で肉屋を営む「上田精肉店」があります。社長の上田隆史さんにお話を伺いました。

歴史ある佇まいが「ウエダ」の自慢です

昭和初期に新得町のお隣・清水町にあった「上田精肉店」は、現在の社長上田隆史さんの祖父が始めました。新得町に移ってきたのは昭和35年。町のお肉屋さんとして愛されていた中、平成元年に隆史さんが加わりました。ちょうど「上田精肉店」が鹿肉の販売に力を入れ始め、加工場を新たに整えたころでした。

隆史さんが加わった当時は、ご両親と職人さんと4人での作業。肉の仕事は技術もさながら体力を要する重労働でもあります。それでも肉質に対するこだわりを貫き続け、じわじわとその味の評判が広まっていきました。

日本各地で行われる百貨店での物産展に参加したり、平成17年ごろからはネットショップでの販売を開始したりしました。システムエンジニアの友人の手を借りながら、ホームページを立ち上げ、デジタルビジネスの充実も図ってきました。

鹿肉の始まりは何気ないひと言から

上田精肉店

ずらり並ぶ鹿肉製品。どれも気になります 出典: 北海道Likers

鹿肉の取り扱いを始めたきっかけは、「十勝サホロリゾート」の料理長からの一言でした。当時はバブル期で、ニュージーランドの『赤鹿』と呼ばれる赤身の鹿肉が流行っていたこともあり、「鹿肉できないの?」という料理長からの問いに応えるべく始めたそうです。

といっても枝肉を一本買っても商品になるのはロースやヒレなどのごく一部。モモなどは需要がなく、数年間は買えば買うだけマイナスになる、そんな日が続いていたそうです。

上田精肉店

かつては人気のなかったというモモ肉。処理の仕方ひとつで美味しさが変わります 出典: 北海道Likers

それでも需要のない部分はハンバーグにしてみるなど試行錯誤。決して諦めることはありませんでした。

運送会社のホームページで紹介されたり、自身で始めたネット販売などで情報を拡散していくうちにメディアにも取り上げられたりするようになり、有名ホテルやレストランからの引き合いが来るようになったといいます。

鹿肉へのこだわり

上田精肉店

建築当時からある内装と新たに作った暖簾がベストマッチ 出典: 北海道Likers

今では「上田精肉店の鹿は美味しい」と絶対的な定評があります。その裏には、とことん鹿を研究してきた隆史さんのこだわりが。

鹿の美味しい時期は秋から冬にかけての短い期間だけ。夏は私たち人間同様、水分を多くとるため「ドリップ」と呼ばれる肉のうまみ成分が詰まっている汁が多く出てしまうといいます。秋口になると脂が乗り、肉質もしまったものへと変化していくそうで、「上田精肉店」では、この時のものしか取り扱いません。また撃ち方や運ぶ時期などにも細かく取り決めがあり、それは30人ほどいるハンターたちにも伝え、そのうえで持ち込んでもらっています。かつては「大きな角を付けた鹿を撃った」というのがハンターの間でのステータスだったそうですが、大きな角のある鹿、つまり牡鹿を美味しくいただける時期はごくごく限られているため、「上田精肉店」ではさらに牡鹿の受け入れ期間を限定しています。

鹿の受け入れは日の出から始まります。秋の日の出時刻は5時前後。ハンターがいつ鹿を見つけ、撃って持ち込むかはわかりません。時間が重なるときもあります。撃ってから1時間半以内というのが受け入れ条件のひとつ。受け入れた鹿を手早く査定して処理をするという作業が夕方まで続きます。

こだわっていることはもちろん品質、そして鮮度。何よりも大切なところです。そのためには技術の向上も欠かせません。これからの人材を育てるための環境づくりにも力を入れています。

最後にお店を通して伝えたいことを伺うと、「肉の良さを伝えたい」と即答してくださいました。そのために職人を育て、働きやすい環境を作ることが自分の使命だと隆史さんはいいます。

隆史さんは背が高く、堂々とした頼もしい声で、マスクをするとより際立つ力強いまなざしの社長さんです。スタッフも肉を扱う屈強な男性が多いためか、初めての方が一人で来られるとちょっとひるんでしまうこともあるとか。

でも筆者が「こんにちは~」と入っていくと、みなさんにこやかに応対してくださり、素晴らしいお肉を手にした喜び以上にお店に来てよかったとほくほくした気分にさせてくれます。

隆史さんが作る“環境”がお店の雰囲気、ひいては「美味しい」と喜ぶお客様の笑顔を作っているんだなと取材を通して感じました。「上田精肉店」にぜひ足を運んでみてください。

<店舗情報>
■店舗名:上田精肉店
■住所:上川郡新得町1条南2丁目7番地
■電話番号:0156-64-5107
■インスタグラム:@meat.ueda

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