北海道経済連合会 真弓明彦会長

空飛ぶ車も夢じゃない!? 「北海道と宇宙産業のポテンシャル」とは【北海道経済連合会・真弓明彦会長インタビュー】

北海道の未来を考える新連載「HOKKAIDO 2040」。2040年には100兆円の市場規模になるといわれている宇宙産業。これまで『北海道Likers』でも取り上げてきたように、北海道では大樹町を中心に宇宙産業が盛り上がりをみせています。本連載では、北海道の宇宙産業の発展をリードする方々にインタビューを行い、宇宙産業を通して変化する未来、2040年の北海道の姿をお届けします。

第1回の今回は、北海道の経済界をリードする北海道経済連合会(以下、道経連)の真弓明彦会長にお話を伺いました。

真弓明彦(まゆみ・あきひこ)。1954年北海道旭川市生まれ。1979年北海道大学工学部電気工学科卒業、北海道電力株式会社入社。2008年理事工務部長、2012年常務取締役、2014年取締役副社長を経て、同年9月取締役社長就任。2019年6月より同社取締役会長(現任)、北海道経済連合会会長(現任)。

40年ほど続く北海道と宇宙とのかかわり

北海道経済連合会 真弓明彦会長

※取材はマスクを着用し十分な距離を確保したうえで実施しました 出典: 北海道Likers

北海道Likersライター遠藤 嵩大@ISC(以下、遠藤):まずは道経連についての紹介と、宇宙産業とのかかわりについて教えていただけますでしょうか?

真弓会長:道経連は2022年で設立48年の団体です。510社を超える会員企業で成り立っており、北海道経済の発展への貢献を目的として国や自治体への要望活動を中心に行っています。会員企業の声を国・北海道などに伝えていく役割を担っています。

そして道経連と宇宙産業とのかかわりですが、2014年からロケット射場を誘致するために国や北海道への要望を実施しています。北海道と宇宙産業のかかわりでいうとより古く、1984年に当時の北海道東北開発公庫(現 日本政策投資銀行)が『北海道大規模航空宇宙産業基地構想』を発表したことが出発点となっています。

北海道Likersライター遠藤:北海道と宇宙には40年近い歴史があるんですね。今後の北海道における宇宙産業の可能性についてはどのようにお考えでしょうか?

真弓会長:道経連として、北海道大樹町に射場を整備した場合の道内への経済効果を算出しました。小型ロケットを年10回、観測ロケットを年2回の打上げ想定で年間267億円の効果が見込まれています。これは射場の経費や観光客のみの試算で、波及効果は含めていませんし、ゆくゆくは大樹町に3,000メートル級の滑走路建設が予定されていますが、それも試算には反映されていません。世界での市場規模は2030年に70兆円、2040年に120兆円という試算もありますし、北海道において、大きな産業となる可能性を秘めています。

宇宙産業には、“新しい産業を創り出す”という側面もありますが、人工衛星からの地球観測データを利用することによって、さまざまな産業における労働力の不足を補うことができることを考えると、すそ野の広い産業だと思います。“宇宙産業の6次産業化”が実現すれば、さまざまな企業が北海道に集まり、米国のシリコンバレーのように大きく花開くのではないかと期待しています。

宇宙産業における6次産業化を実現する

北海道Likersライター遠藤:6次産業化*という言葉が出ました。農業の分野でよくいわれる言葉かと思いますが、宇宙産業における6次産業化とはなんでしょうか?

*農林漁業の6次産業化・・・1次産業としての農林漁業と、2次産業としての製造業、3次産業としての小売業等の事業との総合的かつ一体的な推進を図り、農山漁村の豊かな地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取組(農林水産省ホームページより引用)

真弓会長:1次産業がロケットの射場だとすれば、2次産業がロケット・衛星などの製造業、3次産業が人工衛星から取得できる地球観測データの利活用に当たります。道経連では、これらをベースに、大樹町を起点とした『宇宙版シリコンバレー』構想を掲げており、TOYOTAが構想する未来都市『Woven City(ウーブン・シティ)』のように夢のある取り組みにしたいと考えています。

北海道Likersライター遠藤:宇宙産業の6次産業化、および『宇宙版シリコンバレー』実現に向けて現状や展望を教えていただけますでしょうか?

真弓会長:まずは1次産業としての射場ですが、大樹町は南と東に大きく開けていることなどから射場としてのポテンシャルが非常に高く、日本を代表して世界各国が利用する射場になりうるものと考えています。この点についてはすでに「北海道スペースポート」が本格的に始動していますし、ふるさと納税や地方創生拠点整備交付金などで資金の確保もできているため1次産業化のスタートを順調に切ることができました。

次に2次産業としてのロケット・衛星などの製造は、既に道内の企業や大学が大樹町で進めている事例もありますし、この動きを拡大していくことが大事だと考えています。こういった動きが広がると人の動きも出てきます。大樹町の周辺は豊かな自然に囲まれていますし、それを活かした観光も加わって大きな変化になるのではないでしょうか。

3次産業については、打ち上げた衛星から取得できるデータの利活用です。人口減少や少子高齢化に起因する北海道のさまざまな課題を衛星データ利活用によって解決することができると考えています。既に利用されている例もありますし、これからリモートセンシング技術が発展すれば、農業や物流も含めてさまざまなところで衛星データが社会インフラとして活用されていくでしょう。

知の活用で「オール北海道」の動きをつくりだす

北海道Likersライター遠藤:これから道経連は具体的にどのような役割を担っていくのでしょうか。

真弓会長:2022年4月には、帯広畜産大学、北見工業大学、小樽商科大学の3つの国立大学が法人統合して北海道国立大学機構ができました。その拠点は帯広市にあり、十勝に新たな、“大きな知”ができたといえます。また、室蘭工業大学は既に大樹町で研究を進めていますし、今後は、北見工業大学も含めて十勝全体で技術的なサポート体制を整えることができると思います。帯広畜産大学では農業の生産性向上に関する研究を進めていますが、衛星データを活用することで、土壌の特性調査や植物の病気の診断、収穫時期がいつになるかの予測、ピンポイントでの除草剤・肥料散布などができる時代になってきています。

我々としては、こうした道内の“知の活用”を進めることが重要だと考えているので、宇宙産業というすそ野の広い産業のあらゆる場面で、知の活用と連携を支援していきたいと考えています。具体的には、要望活動などを通じて“オール北海道”の動きを作り出すサポート役を担いたいと考えています。

北海道Likersライター遠藤:6次産業化や道経連の動きについてよくわかりました。道経連では『2050北海道ビジョン』を作られていますが、宇宙産業とその6次産業化を踏まえて2050年をどうとらえているのでしょうか?

真弓会長:『2050北海道ビジョン』を作った背景からご説明します。北海道は、人口減少や少子高齢化が日本の他の地域よりも10年進んでいるといわれています。人口減少などに起因して、労働者不足や後継者不足、買物困難者、交通弱者などさまざまな課題が顕在化しつつあります。こうした課題を放っておけばどんどん悪くなる負のスパイラルに陥る危機感がありました。そうならないようにするため、2050年のありたい姿を描いた上で、バックキャスティングするかたちで何をすべきかを取りまとめたのが『2050北海道ビジョン』です。

2050年というとずいぶん先になりますので、2030年をマイルストーンとして6つの目標と47の取り組み項目を立て、昨年の6月に公表しました。我々としては、一番先に苦しんでいる北海道が先行して課題を解決していけば、その解決策は国内のほかの地域や他国に展開できるようになると、前向きに取り組んでいこうと進めています。今の北海道もありがたいことに、日本だけではなく世界の方々からも「行ってみたい先は北海道だ」と言われるようになっています。そういったなかにDXやカーボンニュートラルなどの取り組みを掛け算していくことによって、北海道の魅力がさらに高まっていくだろうと考えています。

そのビジョンにおける取り組みのなかでも、課題解決の方策として宇宙は大きな位置づけになると考えています。空飛ぶ車や自動運転などの技術は宇宙からの衛星データの利活用が不可欠です。たとえば、北海道の冬道は大変危険で、毎年のようにホワイトアウトによる自動車事故が起きています。そこで、衛星データを活用することで車の流れをコントロールすることができれば、安心安全な冬を実現できるというわけです。このように、衛星データは重要な社会インフラになると想像しています。

我々道経連では、2022年1月に宇宙プロジェクトチームを立ち上げました。2030年の宇宙産業の集積を目標に、宇宙産業の6次産業化に関わる会員企業の他、行政の方々にも参加いただき、現状と課題、宇宙産業を育てていく方向性を取りまとめているところです。アクションプランを決めてさまざまな動きを進めていきたいと考えています。また、道外の力を借りたいとも考えています。たとえば中部経済連合会*は、もともと航空宇宙産業が強い地域です。そういった方々に視察してもらい、大樹町についてのアドバイスをいただくとともに、コミュニケーションネットワークの創出ができればと考えています。

*長野・岐阜・静岡・愛知・三重の中部5県を活動エリアとする総合経済団体

北海道Likersライター遠藤:宇宙を活用することでより豊かな北海道を実現されようと取り組まれているのですね。ありがとうございました!

連載「HOKKAIDO 2040」では、“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマに、大樹町を中心に盛り上がりを見せている宇宙産業の関係者へインタビュー。宇宙利用によって変わる北海道の未来を広く発信します。連載記事一覧はこちらから。

【参考】
「2050北海道ビジョン」 / 北海道経済連合会
農林漁業の6次産業化 / 農林水産省

【画像】 北海道経済連合会 、北海道スペースポート

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