トラックマン定政紀宏さんに聞く!2021年度「ばんえい記念」の注目ポイント

2022.03.14

北海道帯広市では、世界で唯一のばんえい競馬が行われています。毎年3月下旬に開催される『ばんえい記念』は、ばんえい競馬の1年を締めくくる最大のレースです。

今回はばんえい競馬のトラックマン(競馬新聞の記者)である定政紀宏さんに、2021年度『ばんえい記念』のポイントをお聞きしました。

定政紀宏(さだまさ・のりひろ)。1971年生まれ、北海道出身。競馬専門紙『競馬ブック』ばんえい競馬・本紙担当。入社以来約30年間、ばんえい競馬一筋。ばんえい競馬の特徴である障害を重視した、的中率の高い予想が人気。

今シーズンのばんえい競馬を振り返って

定政さん

今回の取材はオンラインで行いました。 出典: 北海道Likers

北海道Likersライター早羽太:今シーズンのばんえい競馬を振り返って、印象をお聞かせください。

定政さん:ばんえい競馬を引っ張ってきた馬が何頭も引退しましたが、オープンのレベルは上がったと思います。引退した馬たちには衰えから来るパフォーマンスの低下があったように感じますし、例えばオレノココロやコウシュハウンカイが今年走っていたとしても、結果を出せていたのかは疑問です。衰えが来る前に早く種牡馬として良い仔を残した方が、ばんえい界のためになると思うことはあります。

2歳(明け3歳)世代に関してもレベルが高いように感じたので、来シーズンに先輩の馬たちと戦うことが楽しみです。ただ、馬場が例年とは大きく違ったことから、現時点での比較は難しいと思います。

北海道Likersライター早羽太:馬場が軽かったことについて、どのように考えていますか?

定政さん:本来、ばんえい競馬は“力と力”のぶつかり合いです。改良を重ねてスピードを出せるようになったのは関係者の努力の賜物ですが、軽い馬場で先行した馬ばかりが勝つ単調な競馬ではつまらないと思います。今は帯広市での単独開催なので、砂をはじめとした様々な工夫は必要ですし、今後も馬場が軽い状況が続くようであれば、例えばソリの重量を増やす方法もあると思います。

ばんえい記念ってどんなレース?

オレノココロ ばんえい記念

2019年度の『ばんえい記念』優勝馬オレノココロ 出典: ばんえい十勝

北海道Likersライター早羽太:『ばんえい記念』というレースにどのような印象を抱いていますか?

定政さん:見ていて涙が出そうになったことは何度もありますし、観ている人を引き込むレースだと思います。関係者全員が目指す最大のレースで、素質のある馬を作っていく厩舎の努力も他のレースとは違う、まさに特別なレースです。ただ、年明けの『帯広記念』でも900kg前後を曳くので、レースの本質は大きく変わらないと思います。関係者やファンの“思い”の強さが『ばんえい記念』をより特別なものにしているように感じます。

北海道Likersライター早羽太:『ばんえい記念』に向けて、調教方法は変わりますか?

定政さん:『ばんえい記念』のレース内容を意識して、重たい荷物をゆっくりと曳く調教をします。他の重賞レースの場合早ければ1週間ほどで馬が仕上がるそうですが、『ばんえい記念』に向けた調教は最低でも1ヶ月は必要だと聞きます。実際に、昨年度の覇者ホクショウマサルは2ヶ月以上前から『ばんえい記念』に向けて調教をしていました。

昔はオフシーズンが約3ヶ月あったので『ばんえい記念』後にゆっくりと休養を取ることができました。しかし、近年のばんえい競馬はオフシーズンが約1ヶ月と短いため、シーズンが始まっても疲れが取れていない馬を目にすることもあります。『ばんえい記念』に向けての準備も、その後のケアも、非常に重要です。

「ばんえい記念」を予想する3つのポイント

北海道Likersライター早羽太:『ばんえい記念』を予想する上でのポイントをお聞かせください。

定政さん:ポイントは大きく3つです。1つ目は、過去の『ばんえい記念』での成績です。1000kgを曳く『ばんえい記念』は、適性が無ければ好走できないと言っても過言ではないので、同舞台での成績には注目すべきです。

2つ目は、ばんえい競馬において『ばんえい記念』に次ぐ重量を曳く『帯広記念』の成績です。このレースも高重量戦への適性を見極める材料になりますが、今年度は馬場が軽かったのでどこまで参考にするのか、判断が難しいです。

3つ目は、平坦な道中で力強く歩く能力です。『ばんえい記念』は多くの馬が第2障害で何度も止まります。力のある馬は、たとえ障害が苦手であっても時間をかけて第2障害を越えることができるので、平坦な道中を歩く能力に長けていれば最後に差し切ることがあります。2018年度の『ばんえい記念』覇者センゴクエースがその典型例です。

以上の3点に注目しながら“適性”のある馬を探す必要があります。『ばんえい記念』の出走経験がある現役馬の中でも、キタノユウジロウ、メジロゴーリキ、アアモンドグンシンの3頭は既に”適性”があることを証明していると思います。

今年度の『帯広記念』覇者キタノユウジロウ

今年度の『帯広記念』優勝馬キタノユウジロウ 出典: ばんえい十勝

北海道Likersライター早羽太:当日のパドックの様子から分かることはありますか?

定政さん:『ばんえい記念』の場合、パドックの様子はあまり参考にならないと思います。それは全馬が究極の仕上がりで出走してくるからです。どの馬も毛ヅヤが良く元気に歩くので、『ばんえい記念』に限らず、重賞レースの場合パドックから予想を組み立てるのは難しいと考えています。可能であれば、普段のレースと重賞レースのパドックの様子を見比べてみると面白いですよ。

ズバリ!2021年度ばんえい記念の注目馬

北海道Likersライター早羽太:現時点(2/18)での注目馬を教えてください。

定政さん:出走すれば初挑戦となる、アオノブラックという馬です。

アオノブラック

定政さんの注目馬アオノブラック 出典: ばんえい十勝

アオノブラックは最強世代と言われている明け6歳世代を引っ張ってきた1頭です。馬体が大きく、普段のレース内容から適性もあると思うので、どのようなレースを魅せてくれるのか気になります。今年度の『帯広記念』では5着でしたが、上位の馬とはハンデ差もあったので、ハンデ差が無く同じ重量を曳く『ばんえい記念』ではチャンスもあると思います。

北海道Likersライター早羽太:初挑戦という点をどのように評価していますか?

定政さん:初挑戦の馬は経験が無い分思い切ったレースができますし、実際に『ばんえい記念』は初挑戦の馬の好走が目立ちます。近年ばんえい競馬を引っ張ってきた1頭であるコウシュハウンカイも、明け6歳の『帯広記念』で10着に大敗してから初挑戦の『ばんえい記念』で3着と見せ場を作りました。本命を打つかはまだ分かりませんが、出走するようであればアオノブラックに注目したいと思います。

―――約30年間ばんえい競馬を見てきた定政さん。様々な馬を例に挙げながら、長年『ばんえい記念』を見続けてきた中で得たポイントをいくつも教えていただきました。『ばんえい記念』当日の定政さんの予想にも注目しながら、2021年度の『ばんえい記念』を楽しんでみてはいかがでしょうか。

ばんえい記念:ばんえい競馬で最も格式の高いBG1の中でも最高峰に位置するレース。1968年に農林大臣賞典として創設され、1988年以降は帯広競馬場でのみ開催されている。ばんえい重量は最大1000kgと、ばんえい競馬における最高重量で行われることが特徴。今年度は、2022年3月20日(日)、第9競走・17:45発走予定。

【画像】ばんえい十勝

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