ばんえい記念木本トラックマン

トラックマン木本利元さんに聞く!2021年度「ばんえい記念」の注目ポイント

2022.03.14

北海道帯広市では、世界で唯一のばんえい競馬が行われています。毎年3月下旬に開催される『ばんえい記念』は、ばんえい競馬の1年を締めくくる最大のレースです。

今回はばんえい競馬のトラックマン(競馬新聞の記者)である木本利元さんに、2021年度の『ばんえい記念』のポイントをお聞きしました。

木本利元(きもと・としゆき)。1961年生まれ、北海道出身。競馬専門紙『競馬ブック』ばんえい競馬・厩舎取材担当。血統に詳しく、自らも手綱を持つことができる。予想は徹底した穴党。独特な目線で打つ予想印が人気。

今シーズンのばんえい競馬を振り返って

木本さん

今回の取材はオンラインで行いました。 出典: 北海道Likers

北海道Likersライター早羽太:今シーズンのばんえい競馬を振り返って、印象をお聞かせください。

木本さん:コロナ禍でも競馬の体系や進行は大きく変わらなかったですが、唯一例年よりも馬場が非常に軽かったのが印象的です。道中止まらずに第2障害に挑戦する“直行”は、従来は雪が積もるなどの馬場が非常に軽い日にしか見られなかったのですが、今シーズンは頻繁に見られました。そのような馬場がレース展開に与えた影響は、大きかったと思います。

北海道Likersライター早羽太:ファンからも馬場が軽いという声はありましたね。

木本さん:今まで開催期間中に砂を足す*ことは無かったですし、来年度以降に向けて改善の余地はあると思います。しかし、違う見方をすると、シーズンの途中に砂を追加することで馬場状態を改善し、砂を生き返らせる実績ができたということです。馬場が軽くなることは来年以降も起こり得ると思うので、対処方法ができたと考えれば、良い経験をしたのかもしれません。

*砂の摩耗が激しいことから、2021年12月23日と2022年1月24日に、第1障害と第2障害の間において砂を10cm程度増量する発表があった。

ばんえい記念ってどんなレース?

ばんえい記念

昨年の『ばんえい記念』優勝馬ホクショウマサル 出典: ばんえい十勝

北海道Likersライター早羽太:『ばんえい記念』というレースにどのような印象を抱いていますか?

木本さん:ばんえい競馬を初めて見る人を一気に惹きつける可能性を秘めている、まさに花形レースだと思います。馬が最高1000kgの鉄ソリを一歩ずつ曳き、騎手の手綱やファンの歓声に後押しされて必死にゴールを目指すその姿には、涙が出そうになります。長い歴史を積み重ねてきたばんえい競馬最大のレースで、関係者が目指すのは『ダービー』よりも、この『ばんえい記念』です。これぞ”ばんえい競馬”とも言うべき、すべてが凝縮されたレースだと思います。

北海道Likersライター早羽太:『ばんえい記念』で曳く1000kgという重量の影響は大きいですか?

木本さん:陸上競技で例えると、日頃のレースが中距離競走で、1000kgを曳く『ばんえい記念』がマラソンのようなイメージです。100mのチャンピオンがマラソンで勝てるとは言えないですよね。900kg前後より先の重量では、レースの質が一気に変わると思います。

北海道Likersライター早羽太:『ばんえい記念』に向けて調教方法も変わりますか? 

木本さん:『ばんえい記念』のレース内容を意識して、高重量を背負っても耐えられるように、何度止まっても馬が再び歩き始められるように鍛える必要があります。無酸素で走り切るための調教から一転、過酷な有酸素運動が必要なレースを走るための調教に切り替えます。

特別で特殊なレース。どのように予想すべき?

北海道Likersライター早羽太:予想方法も普段のレースとは違いますか?

木本さん:全く違います。ポイントは大きく2つです。まず障害以外の平坦な道中で1000kgの鉄ソリを曳ける地力です。軽い荷物でもゴール前に止まってしまうような馬は、1000kgの『ばんえい記念』は厳しいと思います。次に諦めない気持ちが必要です。ばんえい記念では、障害を一腰*で越えられないのが普通です。何度止まっても諦めずに登るには、強い気持ちが大切だと思います。心身ともに強い馬が、良い結果を残すと思います。

*一腰(ひとこし)・・・第2障害手前から一気に頂上まであがること

北海道Likersライター早羽太:『ばんえい記念』で初めてばんえい競馬を見る人は、何を見て予想をすると良いですか?

木本さん:競馬新聞の予想欄やパドックの様子など、見るところは色々あると思いますが、パドックで馬を見るときには、周囲に対して敏感になっている馬を探すと良いです。ばんえい競馬では馬を追うときに様々な合図への反射を利用するので、敏感な馬の方が手綱への反応も良く、騎手の思いに応えて進んでくれます。中央競馬のパドックでは評価を落とすような内容でも、ばんえい競馬の場合は、むしろ一票を投じるべきだと思います。

パドック

レース前のパドック 出典: ばんえい十勝

北海道Likersライター早羽太:穴党である木本さんの、予想の秘密を教えてください。

木本さん:見る角度の違いだと思います。ばんえい競馬では、実力が近い馬たちが主催者に割り当てられたレースに出走するので、どの馬にもチャンスがあると言えます。僕は減点方式で比較をするので、馬場や展開などを考えて人気馬が減点された結果、減点されなかった穴馬の評価が相対的に高くなることがあるのです。

本紙担当として『競馬ブック』という看板を背負っている定政君(定政紀宏トラックマン)は、例えば3連勝中の馬にはある程度印を打たざるを得ない部分もあるはずです。そのような馬こそ、僕はそろそろ負け頃かなと屁理屈を付けたくなるんです。色々な予想があった方が面白いと思います。

ズバリ!2021年度ばんえい記念の注目馬

北海道Likersライター早羽太:現時点(2/17)での注目馬を教えてください。

木本さん:鈴木恵介騎手が騎乗予定の、マルミゴウカイという馬です。

マルミゴウカイ

木本さんの注目馬マルミゴウカイ 出典: ばんえい十勝

マルミゴウカイは『ばんえい記念』に初挑戦する馬の1頭です。初挑戦の馬か、経験のある馬か、というのは重要なポイントだと思います。初挑戦の馬がいきなり1000kgのソリを曳いた場合、「いつもより少し重たく感じるな」と思いながら対応してゴールまで曳いてしまうことがあります。一方、1000kgを経験したことがある馬は、肩にかかるその重さから過去に堪えた記憶を思い出してしまう可能性があります。

昨年度の『ばんえい記念』で2着だったキタノユウジロウなど、好走経験のある馬は当然有力視されると思いますが、オッズを考慮すると僕の予想スタイルでは避けたいところです。ということで、初挑戦のマルミゴウカイに注目しています。

北海道Likersライター早羽太:初挑戦の馬の中で、特にマルミゴウカイを選んだのはなぜですか?

木本さん:鈴木恵介騎手が騎乗予定という点です。騎手7割・馬3割と言われるばんえい競馬の中でも、年に1度、最大10人しか騎乗できない『ばんえい記念』は、騎手にとっても特殊で難しいレースです。普段とは違う『ばんえい記念』の展開を読むのは難しいですし、限られた騎手しか勝たないという事実につながっていると思います。そこで、『ばんえい記念』で過去4勝の実績がある鈴木恵介騎手は、とても心強い存在だと思います。

―――インタビュー中、木本さんは「見方を変える」という言葉を何度も使われていました。物事を色々な角度から見ることで、新たな面白さが発見できるかもしれません。教えていただいたポイントに注目しながら、色々な見方で2021年度の『ばんえい記念』を楽しんでみてはいかがでしょうか。

ばんえい記念:ばんえい競馬で最も格式の高いBG1の中でも最高峰に位置するレース。1968年に農林大臣賞典として創設され、1988年以降は帯広競馬場でのみ開催されている。ばんえい重量は最大1000kgと、ばんえい競馬における最高重量で行われることが特徴。今年度は、2022年3月20日(日)、第9競走・17:45発走予定。

【画像】ばんえい十勝

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