セッション5

宇宙利用で生活はどうかわる?一次産業イノベーション【北海道宇宙サミット2021・カンファレンスSession5・全文掲載】

2021年11月4~5日で行われた、北海道発の宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2021」。2日目に行われたカンファレンスでは、日本で宇宙に携わるキーパーソンが一堂に会し、さまざまな熱い議論が交わされました。

今回は、Session5「北海道は宇宙利用の先進地になれるか?一次産業イノベーション」の内容をお届けします。

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登壇者:

株式会社アクセルスペース代表取締役CEO 中村友哉

ウミトロン株式会社代表取締役 藤原謙

株式会社農業情報設計社代表取締役 CEO, ファウンダー 濱田安之

Our Stars株式会社CTO 野田篤司

株式会社Synspective執行役員/一般財団法人日本宇宙フォーラム宇宙政策調査研究センターフェロー 淺田正一郎(モデレーター)

登壇者紹介

司会:それでは始めます。このセッションは、「北海道のスタートアップエコシステムの構築に貢献する」株式会社D2 Garageの提供でお送りします。セッション5 Sponsored by D2 Garage「北海道は宇宙利用の先進地になれるか?一次産業イノベーション」よろしくお願いします。

淺田氏

©北海道宇宙サミット2021

淺田氏:みなさまこんばんは。モデレーターを務めます淺田です。私は株式会社Synspective(シンスペクティブ)以外の会社にもいろいろいますけど、このセッションでは特にデータの利用に焦点を合わせていきますので、シンスペクティブのメンバーとしてモデレーターを務めたいと思います。

登壇者には、ユーザーとなるデータを利用している方が2人、それからデータを提供している、するであろうところも含めて3者で、良い組み合わせになっています。みなさんに有益なディスカッションをお届けできたらと思っています。それでは中村さんからお願いします。

中村氏:アクセルスペースの中村友哉と申します。今日は北海道まで来て、また宇宙の話ができることを大変光栄に思っております。まずアクセルスペースについて簡単にお話しできればと思っております。

我々歴史はけっこう長くて、2008年に設立しております。今年の夏で13周年を迎えたベンチャー企業です。その間、合計9機の人工衛星を実際に開発し、打ち上げ、運用といった実績を持っています。

起業のきっかけは、株式会社ウェザーニューズさんと、北極海をモニタリングするための衛星を作ろうということで始まりました。今でこそ宇宙ビジネスは非常に盛り上がってきておりますけれども、2008年頃は全くそういった周りの応援もなく、投資家の人には全く話を聞いてもらえないと。「宇宙ビジネス?は?」というような時代だったので、そこからの変わりように私自身も驚いています。

ウェザーニューズさんの衛星打ち上げ、それからJAXAさんのRAPIS-1という技術実証衛星も経験させていただいて、その間我々の技術力も非常に上がりました。創業当時は10kgの衛星を作っていましたが、現在100kg級の人工衛星をメインに作っております。

100kgといいますと、非常に低コストで素早く作れる一方で、以前であれば大型衛星でしか実現できなかったようなことができつつあるので、今非常に世界的にもホットな領域です。そこを我々主力でやっています。宇宙業界は数個作ればもう量産っていうちょっと変わった業界ではあるんですけれども、今年の3月には、4機を同時に打ち上げました。

日本で初めて衛星コンステレーションの構築に成功しております。この5機の、2018年に初号機を打ち上げて今年4機打ち上げた、こちらのアクセルグローブと呼ばれるプロジェクト向けの衛星は、地表、広いエリアを高頻度にモニタリングしていくプロジェクトでございます。現在5機体制で、日本付近ですとだいたい2日に1回ぐらいの観測頻度を実現しております。将来的には、2年後目処でさらに数を増やして、世界中どこでも1日1回モニタリングできるような観測体制を整えたいと思っております。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

淺田氏:中村さんありがとうございました。次は、オンライン参加ですけど藤原さん、オンラインでよろしくお願いします。

藤原氏

©北海道宇宙サミット2021

藤原氏:私はウミトロンという会社で、水産養殖向け、魚を育てる一次産業向けのテクノロジーサービスの提供をしております。養殖業でも水温やクロロフィル、塩分といった情報が必要になってくるので、この情報提供をやっております。直接的に北海道でのサービス提供はまだですが、大樹町でも、サクラマスの養殖に海面で取り組まれていて、この秋に北海道周辺に赤潮が大量発生して、へい死被害が出ている状況があります。海洋の広いところでの情報収集で言うと、データは非常に重要になってくるんではないかなと考えていまして、養殖業での衛星データ利用でところをサポートできればと考えております。よろしくお願いします。

淺田氏:次は濱田さんお願いします。

濱田氏:農業情報設計社の濱田といいます。私たちは農業情報設計社、簡単に言うと農業機械用のカーナビを作っています。畑の中でどこ走っているんだろうとか、どっち向いて走るとぴったりまっすぐ等間隔に走るかな、というためのデバイスだったり、あるいはアプリを作っています。そう意味で言うと、僕らは衛星のどちらかと言うと今のところGNSSをメインで使っています。今だんだん衛星情報や画像情報も扱いつつあるので、今日はそういう話も含めてお話をさせていただければと思っています。

ちなみに僕ら、そのカーナビをAndroidスマホ用のアプリとして提供しております。今だいたいダウンロードが170万くらいですかね。世界140カ国で、ちなみに日本のダウンロードが1.4%とかですかね。割とワールドワイドで使っていただいています。今日そうそうたるメンバーの中で、僕はなんでここに呼んでもらえたんだろうって感じもあるんですけども、ご参考になるようなお話ができればなと思っております。よろしくお願いいたします。

淺田氏:ありがとうございます。では次に野田さんお願いします。

野田氏:野田篤司と申します。実を言いますと、Our Stars(アワースターズ)という会社のCTOになりましたけれども、ほぼ1ヶ月前にメールが来て、アワースターズのCTOにならないかって言われて、いいよって答えたら次の日にプレスリリースがされて。その次の日には北海道新聞に載るという、さすが堀江さんだなあと驚いているところです。

まだこの会社は何をするのか詳しいところは決まってはいないんですけれども、今後ISTで作られるロケットで打ち上げるような超小型の衛星を作っていく、衛星部門として考えています。

堀江さんから言わせると私はISTの黒幕だと。実はつい3月までJAXAに勤めていまして、そのかたわらISTの立ち上げをやっています。あまり表に出ることはなく今までずっとやっていたんですけれども、実はたぶんここにいらっしゃる方々の中で、北海道の方は除くとして北海道以外の方の中では、たぶん私が一番初めに北海道にロケットの打ち上げの話を持ってきた人間の一人だと思います。

今から15年前に当時堀江さんが話をしまして、どこでロケットを打ち上げられるのかなという時にいろいろと考えて。北海道だけではないんですけれども、あちこち探し回って、最終的に北海道に入りました。当時の日記を読み返しますと大きかったのは、15年前に北海道の役場の方とお話をしたその時の感想が、「北海道の役場の人はフレンドリーだ」と書いてあるんですね。それが大きいと思っています。どうしてもロケット打ち上げるのは地元の方々との協力体制をとらなければいけないのでフレンドリーな印象があった北海道に行こうよっていう話になったんじゃないかなと思っています。3月に定年退職しまして、これからは顔を出していきたいと思っています。

淺田氏:野田さんありがとうございました。私が所属しているシンスペクティブについても少しだけ説明させてください。中村さんの会社は、光学衛星、光学カメラで地球を観測します。シンスペクティブはその代わりにレーダーを飛ばして、その反射波を拾って画像化します。というところが大きな違いです。

レーダーを使うと何ができるかと言いますと、雨の日でも雲を透過してレーダーを照射できる。それから夜でもわかる利点はありますが、逆に光学と比べて画像の見にくさがあります。普通の人が分かりにくい画像ではありますが、そこは光学との補完関係があると思います。

中村さんのところはすでに6機ほど上げていますが、我々まだ1機しかあげてなくて。でも将来的には30機上げる予定です。世界中どこでも2時間以内に観測するということを目標にしています。

宇宙データは一次産業にどのように使われ、従来から何が変わるか?

それでは、お題にまずは北海道の一次産業にどう宇宙のデータが使えるかについて、実際にもうそういう現場と接触されている濱田さんと藤原さんの立場と、それからデータを提供しています中村さんとか、私とか野田さんの立場の両方の観点から、それぞれ意見をお伺いしたいと思います。まず中村さんお願いします。

中村氏

©北海道宇宙サミット2021

中村氏:一番大きいのは農業だろうなとは思います。一般的に農業って、我々光学衛星の場合何をするかと言うと、撮影しますと。でいわゆるその可視光で見えるデータだけではなくて、近赤外線とか、レッドエッジと呼ばれる特殊な光の波長、我々の目には見えない光のデータを取得することができますので、これを使うと植物のその活性度合いが分かるので、生育具合がわかったり、それをうまく農業に活用していただく例が多いです。

衛星で見ますと、広いエリアを見られるほうがいいんですね。これまでアメリカのコーンベルトとか、非常に広いエリアを見ることが多かったんですが、一方で日本の畑って基本とっても小さいので、なかなか使えないよね、自分で見たほうが早いよねと言われることが多いんですけれども、十勝は例外です。非常に広い畑がありますので、これは衛星の活用が可能、有用性があるエリアだなと思っております。実際に一部使っていただいた例もあるんです。

それとあとは先ほど藤原さんが言われていましたけども、赤潮ですね。赤潮も広いエリアで発生するのと、地上からなかなか見にくいので、衛星から見ると実際に起きていることがよくわかります。早期にそれを検知することができると、何らかの対策を取ることができる。一次産業の観点から言いますと、今日は農業と漁業の方がいらっしゃいますので、まずその2つをお話ししました。

淺田氏:それでは次にユーザーの立場、濱田さんから、農業に対する利用ということで。

濱田氏:僕ら先ほどカーナビという形で、GNSSが中心ですよとお話をしました。全般として、僕は元々農林水産省の研究所にいたんですけれども、そちらではやはり「衛星リモセン」という言葉で、わりと長く研究開発というのはされてきました。全般の話ですけども。

特に十勝では、もうかれこれ15年20年ぐらいになるんですかね、小麦の刈り取り順番を「衛星リモセン」で順番をつけて、平等に刈り取れるようにすると。小麦ってけっこう刈り取るタイミングがシビアで、かつあんまり放置すると穂についた状態で芽が出ちゃうんですね。そうするともうゴミになっちゃう、買い取ってもらえない。

一方でコンバイン、大きい収穫をする機械は共同で使うことが多い中で、うちを先にしてほしいみたいな話はすごい大きいです。今までは目で見ていたのを、平等に画像で一番早くて乾いているところから刈り取るような形で、もうすでにけっこう使っているのが現状です。

さらにスペースアグリさんがやられている、さらに深い、今度は畑の中ですね。先ほど申し上げたのは畑をどの順番で刈る畑単位で見ていたのですが、今はそのさらに中のほう、畑の中でどういうムラがあるんだろうというところまで、今シフトしてきています。これで生育の度合いが分かるとか、あるいは水分、最終的に小麦がどういう水分になってるかというようなグラフ、絵が分かるようになってきています。

そして今僕らも、スペースアグリさんから情報をもらって、それを畑を走りながら確認して乾いているところから刈り取ると、その間に風が回って残りも乾きやすくなるとかですね。そういう使い方もしたいというオーダーをすでに農協さんとかからもいただいておりますので、徐々にそういう形でデータを使っていけるかなと思っています。

あともうひとつ、畑の中って雨降るとぬかるんですよ。広いところで高低差ももちろん見ますし、それは今の淺田さんのシンスペクティブのデータを活用して、ここ窪地になっているからハマりやすいかもね、みたいな話とか。あるいは水分が高いんで今日はやめておきましょう、というような話を、合わせて僕らはデータを統合してここはちょっと気をつけてね、みたいなマップを出せるんじゃないかなと考えています。ということで、だんだん農業者の方々にも役に立つ形でデータを使い始められそうな感じです。

淺田氏:では次に、今度は漁業の利用の仕方で、藤原さんからお願いしたいと思います。

藤原氏:ウミトロン自体は漁業の中でも養殖業に注力していますので、養殖業の話になってしまうんですが、北海道は、非常に有名で美味しい水産物が食べられるところですよね。一方で天然の漁獲ってよくニュースでも聞くように、さんまが獲れない、マグロが獲れないと、長期で見ると海洋の資源は今後資源管理の方に向かって行かなければいけない中で、その美味しい水産物を食べ続けるには、育てていく方法が絶対必要になると考えています。今後養殖業は非常に重要な産業になるんじゃないかと思っています。

そんな中で、衛星がまず使えるところとしては、そもそもどこが養殖業に適しているかという点。例えば先ほどのサクラマスなんかでいうと、1年を通して水温が20度を超えてくると、低水温の魚なので、性質が芳しくない、下手したら死んでしまうかもしれないので、1年通して水温帯が適正なエリアですとか、波が高すぎると餌あげに行ったりとかオペレーションできないとか、流氷とか流れてくると設備が被害受けちゃうとか、適地選定を衛星データを使うと、かなり有用な使い方なんじゃないかなって思います。

特に、海洋のセンシングってローカルセンサーでやろうとすると、センサーに付着物がついたり、メンテナンスとか非常に大変なので。また長期評価をする、例えば5年とか10年とか安定的に同じセンサーでデータを取り続けることを考えると、衛星データを使ってどういうところでどういう水産物の養殖が適切なのかを今後やっていく必要があるのではないかなと思っています。

あとは実際西日本でも今使ってもらっていますけども、養殖オペレーション始まると、その日の天候や、風、波、それから水温、こういった情報を使いながらオペレーション回す必要があります。魚の水質管理、水温が大きく変わると餌食べなくなったり、病気が発生したりですとか、赤潮によるへい死被害が出たりとか、こういったところでリアルタイム、それから予測データも重要になってくるので、この辺は公益性を有している、衛星データの重要性が非常に高いと考えています。

淺田氏:先にレーダー衛星でどういうことが貢献できるかだけ説明しておきます。例えば農業ですと、上からレーダーを照射するんですが、そのレーダーで照射するとモノの高さが分かるんです。ですから、小麦とかの生育の過程が分かってしまいます。背が低いのか高いのかですね。

それからレーダーが得意なのは、波があると、今度は海ですけど、その反射波がドップラー効果を起こすので、実は海上の風速が分かるんです。これも漁業の人に役に立つんじゃないかなと思います。さっきの森林の、例えば木の高さとか、稲だとか麦の高さを調べるのは実際もう今その研究が始まっています。オーストラリアから契約もらっていまして、そういったのも検討が始まっているところです。で野田さんのところはこれからなんで、いろいろアイデアがあると思います。

野田氏

©北海道宇宙サミット2021

野田氏:私1か月ほど前にアワースターズに入ったところで、正直申し上げて、今毎週のようにみんなで打ち合わせをして、これから何やるんだって話をしているところです。逆に言えば、今から何でもできるっていったところなんですけども、アワースターズはとにかく楽しいことやりたいよって言って、小惑星に行きたいやら、木星に行きたいやら、銀河の果てまで行きたいやら、そういう夢みたいな話もしているんです。

あんまり荒唐無稽なことばっかり言っているとあれなんで、私の前職であるJAXAの仕事を言うと、たぶんみなさんがご存知の衛星であるとすれば、“ALOS(だいち)”っていう衛星がありますよね。あれのコンセプト、概念設計をしたのが私です。実は概念設計した“ALOS(だいち)”って名前で打ち上がる直前に、新潟中越地震があって、その時にいろいろと被害を受けたところに、人工衛星があったので、そういう被害を最小限にするように、例えば緊急車両配備するだとかができるか検討をしたことがあります。

その時にハイパーレスキュー隊の人に来てもらうことまでやって、我々が提供できるものと、それから実際にそういうことをやっている方々が何を望んでいるかを一緒になって考えることで、なかなかみなさん言ってくることは厳しくてですね。技術的にできないよーとか、そんなことは無理だよとか、お金がいくらかかるかわかんないよということまでいろいろと言われてしまいました。

七転八倒しながら、私にとっても不満な点はいっぱいあるんですが、“ALOS-2” “ALOS-2”を考える時に使われていたと。“ALOS”の時にいろいろみなさんに言われ続けていたところから発展して、どうしても1m以下の細かい分解能で地上を見たいと。そうしないと緊急車両を救助に向かわすことは無理だって言われ続けて、そんなことはエンジニアリング的に不可能だと言い続けていたんですが、高度を今までの高度の3分の1に下げればいいじゃないかとパッと浮かんだんですよね。それで超低高度衛星“SLATS”の衛星『つばめ』を作り、私は“SLATS”で、概念設計のリーダー的な役割をして、打上げしました。

何が言いたいかというと、我々衛星を考えている人間っていうのは頭でっかちなもので、ハードウェア中心に考えていくと、なかなか今までの枠から出られないんですが、とにかく一次産業や一般に使われているユーザーさんのニーズを真剣に考えていくと、その時にはアイデアが浮かばなくても、ずっと考えていくと、何ヶ月も何年も経って、正直言って2年ぐらい経っていたんですけれども、初めてアイデアが出るっていうこともあります。

そうした時に、今まで全くないような衛星を作ることもあり得るんで、今の衛星ではこういうことはできるかって言われたらできないっていうよりは、前例がないっていうことも、考え続ければ新しいものができてくると思います。今はできないかもしれないけども、一次産業の方々とちょっと話をしながら、本当に求めているものは何なのかっていうところから、人工衛星を全く新しいコンセプトのものでも作ってきたいなって考えています。

淺田氏:今野田さんのおっしゃったことは、たぶんここにいるメンバーがみんな同じく悩んでいることです。我々は宇宙データがどんなものか知っています。ところがユーザーの方がどんなものか知らない。で我々はユーザーのニーズがわからない。でそこを結びつけると、きっといい解があるんですけど、なかなかそうはいってないんです。

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素人でも宇宙データを使いたい!どうすればいいの?

今紹介した例は、宇宙の使い方のほんの一部なんです。もっといろんな使い方ができるのにまだ開拓できてない。次のテーマに移りますが、ちょっとお題と違って、素人では宇宙データは使えないのでプロがお助けしますけど、ユーザーと付き合って、やってほしいって言われたんだけどできなかったようなこと、つまり今後こういうことができたらもっと広がるよねっていう話にしたいです。まずユーザー側の藤原さんから振っていきますけど、こんなデータとかこんなことができたらもっとすごいんですけど、っていうのを言ってほしいです。

藤原氏:僕は養殖業をやっているので、沿岸域の海洋情報の解像度を上げてほしいっていうのはすごいありますね。JAXAの海洋観測は、今250メーター解像度ぐらいで、海っていうのは観測対象としては暗いので、解像度上げるのはなかなか、いろいろとハードルがあるみたいで。

ただ沿岸域の海洋環境って、河川流入があったりとか、局所的なプランクトンの増減があったりとか、かなりローカルでの水質変化があるので、欲を言えば10メーター、5メーターぐらいの解像度でマルチスペクトル観測とか、海洋観測とかができれば、もっと養殖業に使えるのになっていうのをいつも現場で生産者の方とやりとりしながら考えているところです。

淺田氏:今藤原さんがおっしゃったマルチスペクトラムっていうのは、光の波長を区切って、それぞれのバンドでどういう強度が出ているかを調べること。それの発展形としては例えば熱をはかるのもあると思いますけど、それによって温度分布がわかると。

ただし今藤原さんがおっしゃったのは、非常に荒くしかわからないので、細かく知りたいと。それができるようになると、もっと違う使い方できるよねって話ですね。それでは濱田さんからお願いします。

濱田氏

©北海道宇宙サミット2021

濱田氏:僕らでいくと、僕らアプリをダウンロードしてもらって、最初に立ち上げるじゃないですか。アイコンがポッと出てきて。で立ち上げてすぐアンインストールする人ってけっこう多いんですよね。その人たちをなんとかして繋ぎ留めておきたいなっていうのがあって。

なんですぐアンインストールしちゃうのかなっていう時に、何かよくわからないから消しちゃうんじゃないかと。その時に、僕らのアプリって、畑の中を走る、塗りつぶすようなアプリなんですけど、周りに何もないんですよ。本当に走っている軌跡だけしか出てこない。でここにマップっていうか衛星写真を貼れば、今だいたい何を言いたいかがちょっとわかってもらえるんじゃないかなというところで、今貼り付け中なんですね。

その時に僕ら逆に全然精度とかいらなくて。ざっくり分かればいいですみたいな話で取り込んでくるんですけど、昔はなかなか難しかったのが、今マップボックスとかそういうAPIがあって。次のバージョンアップで出していけたらなと思うんですけど、それはそれで使い勝手が悪い部分も一方ではあって。精度がもうちょっと詳しいといいなということですね。あるいはもうちょっと取りに行きやすいといいなと。その辺を、今はAWSとかですね。そういうところでもダウンロードできるようになってきていますので、そういう動きが進んでくればいいなと。

先ほど140カ国で日本以外ほとんどですって言ったんですけど、世界中のいろんなところにいるので一般的な衛星のデータを取る時には場所をけっこう細かく指定するんですけど、全球って言うんですかね。ガサっとピンポイントで撮れるといいな、っていうのは思ったりしています。

淺田氏:今ユーザーに近い方の意見を聞きながら、データを提供する側の中村さん、今のに対する解答も含めて、これまで他のユーザーと話した時に、できないんだけどこういうことができたらいいなってことがあったらお願いします。

中村氏:まず素人の人は宇宙データ使いたいって言わないですよね。その時点でもうなんか半分、それなりに宇宙に対する興味関心があるってことだと思っていて。宇宙データ使いたいと思ってもらっているのであれば、あとは先ほど濱田さんが言ったように、要は使いやすくする仕組みを整えればいいと思っているんです。

昔衛星画像買おうと思ったら、ファックスか何かで注文して、画像1枚買うだけなのに誓約書みたいなサインをして100万円みたいな世界だったので。これじゃ誰も使えないわけですけども。もうクラウドにデータが置かれていてAPIで引っ張ってこられるような時代になっていますので、技術的な観点から言うと、使いたい人がもう使えるような状況にはなっているのかなと思っています。

この議題の主旨とはそれるかもしれないんですけど、結局宇宙データ使いたい、宇宙データの価値をそもそもよくわからない人に対して、じゃあちょっと買ってみようかって思ってもらうためにはどうしたらいいのかな、そういうことなのかなと思っています。

我々自身が、淺田さんもたぶんいろいろ事業開拓で頑張っておられると思うんですけれども、けっこう限界ありますよね。我々が考える範囲で、じゃあキラーアプリのようなものがぼんぼん出てくるかというとなかなかそうではない。現場のニーズと我々が提供できるシーズがどこで繋がるかが、たぶんミソ。

けっこう農業、水産業、林業の現場とかで、課題解決のためのソリューションを提供している企業が非常に重要な役割を果たすと思っています。ITリテラシーも高くて、現場の課題がよくわかっていて、それに対するソリューションを一生懸命考えている人たちが宇宙データに触れることによって、これうまくここにはめ込むと良いソリューションになるな、付加価値高まるな、そういうふうに考えてもらうことがすごく大事だなと思っています。

まさに今日出ていただいている、濱田さんや藤原さんのような方が衛星データをうまく組み込んで、エンドユーザーに対してサービスをしていくっていうような実例をどんどん作っていくっていうのが必要になってきます。こういうユーザーに近い立場の人から、こういうとこで困っているんだよっていうのと、我々プロバイダ側でのそのディスカッションをたくさんできるようになるといいですよね。以前だったら、じゃあ何かこういう衛星作ろうって言って、5年とか平気でかかっていたわけですけれども、小型衛星が主流になってきて、じゃあこういう衛星作ろうって言って1年とか、それぐらいで打ち上がるようになってきたので。

そうすると、ニーズが生まれてからそれを解決するためのソリューションが出るまでの時間がどんどん短くなってきて、より宇宙データを素早くニーズに合わせた形で提供していけるようになりつつある。今は非常に良いタイミングだと思いますので、こういったディスカッションの機会を増やすことが、利用が高まってくるためには必要なんじゃないかなと思っています。

淺田氏:これからのサービスを考えつつあるアワースターズの前に、ちょっとレーダーの例をもう1回。私もいろんなお客さんと話をしていて、一次産業にこだわらないんですけど、例えば不動産屋の方に、人工衛星から見て空き家はわかんないですかと言われたんです。

実はこれ、赤外線センサーという熱の計測ができるのを、しかも精度が細かく分かれば、できる可能性があるんですよ。これ作ったらけっこういけますよ。だからチャンスはまだいっぱいあります。それからもうひとつ、今度は海運業の人から聞いたんですけど、海の海流の流れを観測できたらいいんです。そうすると、一番燃費のいい航路を選べるわけですよね。海流ってなかなか宇宙からは観測できてないんです。この方法を考えついたらすごい儲かりますという例がいっぱいあるんです。たぶんそういうのを集約していくのがアワースターズかなと思うんですけど。

野田氏:さっきも言いましたけども、まだアワースターズできたばっかりで、何やるかって今考え中なんですけども、名前を聞いたらたぶん意味がわかってもらえると思います。「アワースターズ」は、みんなの星、みんなの人工衛星、という意味で、これは2つの意味が込められています。ひとつはみんなが作れるような、みんなっていうのはここにいるみんなですよ。私のこととか、こっち側にいる人のことを言っているんではなくて、誰でも作るのに参加できる。それから誰でも使うのに参加できるという意味です。ISTの子会社なんですけど、ISTは恒星間、つまり太陽系外に飛んでいくぞっていう高みを目指すっていうのと、裾野を広げるのを両方とも考えています。

今聞いていて思ったんですけど、小学校の夏休みの宿題に、人工衛星のデータを使えるような時代が来てほしい。この川の上流に雨が降って、その水が海に行くまでどれぐらい時間かかるんだっていうのを、人工衛星のデータで、小学生の5年生か4年生かそのぐらいの人がすぐに見られるような、そういう世界を作っていくところから始めないと。小学生でもできるんだから僕でもできるよねとか、そもそも小学生がどうやってそれを使ったのかっていうのがわからないところから、それがみんなでこうやったら使えるんだってわかるところから広がってくんじゃないかって思います。アワースターズっていう意味に込めて、みんなでそういうものが簡単に使えるような、そういう世界を目指していきたいと思います。

北海道宇宙サミットに残したいメッセージ

セッション5

©北海道宇宙サミット2021

淺田氏:このままの流れで、最後のテーマに入りますけど、北海道宇宙サミットに何か残したいメッセージ、思いの丈を言ってください。

野田氏:とにかくみんなで一緒に楽しい所に行きましょうというのが私の望みです。セッション5の主旨は、一次産業に宇宙のデータが使えないかっていう意味だったと思うんですけど、私は宇宙で一次産業をやってみたいんですよね。宇宙空間でお米を育てたりだとか、牛を飼ったりだとか、魚を獲ったりとか。冗談を言っているように聞こえるかもしれませんけど、そのぐらいに夢中で何かを生産して、今降りてくるのは、宇宙にロケット100トンぐらい打ち上げて、1トンくらいの人工衛星がデータ降ろすだけなんですよね。そういう時代ではなくて、宇宙からなんか生産をして戻ってくると。そういうものが打ち上げた量よりも多く返ってくる、そういう世界を作りたいなって思っています。

淺田氏:ありがとうございました。では藤原さん。

藤原氏:すごい特定なんですけど、サーモン養殖を北海道でやっぱり広げたいなと思っていまして。そこに衛星データ使えるような将来像を描きたいですね。

今日本で一番一人当たりの消費量が多い魚ってサーモンなんですよ。一方で、ほとんど海外からの輸入で賄っているので、北海道で美味しいサーモン養殖して、日本全国に提供することができたら、すごい美味しくて新鮮な魚が手軽に食べられる将来くるんじゃないかなと思っています。そこに先ほどのような適地選定ですとか、生育中の海温モニタリングの形で宇宙データを使えるような。なんかそんな新しい産業を作れたらなって思っています。

淺田氏:ありがとうございました。濱田さんお願いします。

濱田氏:僕ら今トラクターなり農業機械がまっすぐ走るよ、そういうオペレーションを助ける話をしているんですけど、僕らダウンロードの3分の1はブラジルからなんです。ブラジルの人たちが、熱帯雨林を燃やしているのが、けっこう批判を受けていますが、ちゃんといい農業をやっているんだよって証明をできたらいいよね、みたいな話をいただいているんですね。画像とも、レーダーとも組み合わせて、それから農業者の方々の取り組み、アクティビティとも合わせて、いい農業やっているんだよを証明する術なんかもできるんじゃないかなと思っているんです。

それはブラジルだけじゃなくて、世界中でも一緒ですし、アフリカとか新興国でも一緒だというところで、僕は北海道帯広に会社があるわけですけれども、逆にここから世界で役に立って、みんなが幸せな世界を続けられるようにというところ。それからもっともっと、ずっと先は人間が、先ほどの話じゃないですけど宇宙に出て行かなきゃいけない時はきっと来ると思いますので、その時にコアになる技術を一緒に作っていければ嬉しいなと思っています。

淺田氏:中村さんお願いします。

中村氏:先ほど濱田さんの話のなかに、焼畑の話があったと思うんですけど、環境分野って衛星の非常に得意なところで、最近SDGsであるとか、ISGに意識が高まってきているってところもありますので、そういった環境モニタリングの需要も非常にこの多くいただくようになりまして。そういった面で役に立てることもあるだろうなと思いますし、温度知りたいという例も先ほど出てきましたけれども、我々次の打ち上げの衛星の一部には、温度がわかるセンサーを搭載します。光学画像に温度分布を重ねた形で提供できるようになると。これがその小型衛星の小回りの利くいいところかなと思っていて。どんどんどんどんバージョンアップしていく、必要なデータを追加していける、そういう時代になってきていると思っています。

北海道は、こういったイベントも非常に多いですし、おそらくこの人口に占める宇宙好きとか、宇宙詳しい人の割合っていうのは多いんじゃないかなと思っていて。そういう人たちが、この宇宙の活用みたいなことを日々考えるようになると、やはりどんどん浸透してくるのかなと。私は北海道が宇宙利用のロールモデルになってほしいなあ思っています。

これ非常に大事なのは、宇宙っていうのはグローバルビジネスですね。我々人工衛星作っておりますけれども、北海道だけ観測する衛星って作れないんですよね。北海道を高頻度で観測することができるのは、イコール世界どこでも同じような頻度で観測することができる、という点をぜひ頭に入れていただきたくて。

つまり北海道でこう使うというモデルを作れば、他の地域に輸出できるわけですね。“北海道モデル”として、他の所にどんどん売り込んでいくことできる。それは、新しいビジネスチャンスになることだと思うんです。ですので、まだ確立してない産業である、今のうちにいろいろ試して、時々失敗するかもしれないけど、良い使い方を確立して、それをどんどん他の地域、他の国へ移植していく、といったことができればいいんじゃないかなと思っています。私もぜひみなさんと一緒、新しい利用方法を開拓していきたいと思いますので、ぜひよろしくお願いします。

淺田氏:どうでしょうかみなさん。このディスカッションを通じて、宇宙データもしかしたら使えるかもしれないなと思った方もいると思いますが、ぜひプロと相談してほしいと思います。ニーズを早くプロに伝えて、どういう解決の仕方があるかっていうのを、両方が一緒になって作っていかないと、うまい使い方はできません。これが考えるきっかけになれば幸いだと思います。ありがとうございました。

※本記事はカンファレンスでの発言を文字に起こしたものです。言い回し等編集の都合上変更している場合がございます。

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