
ばんえい競馬の、最も長く特別な一日「ばんえい記念デー」ファンレポート
2026年3月22日(日)に行われた、『農林水産大臣賞典 第58回ばんえい記念』。

毎年大きな盛り上がりを見せる、ばんえい競馬の最高峰レースであり、ばんえい競馬ファンの筆者は、もちろん帯広競馬場で観戦しました。
北海道外からも含めて多数のファンが来場し、筆者も、旧知の方や、ネットを通じて知ってはいても初めてお会いする方などに、ご挨拶させていただく機会にも恵まれました。これもばんえい記念デーならではと言えるでしょうか。
そんな、普段とは雰囲気が違い、イベントも数多く行われた、ばんえい競馬ファンにとっては“特別な一日”のレポートを今回はお送りします。
宇梶剛士さんのPOWER!

この日の帯広競馬場には、『第58回ばんえい記念』CMのナレーションを担当した、俳優の宇梶剛士さんが来場。南側広場の特設ステージでトークショーが開催されました。
宇梶さんは東京生まれの東京育ちですが、アイヌ民族のお母様が日高管内浦河町のご出身で、ご自身も胆振管内白老町にある『ウポポイ(民族共生象徴空間)』の名誉アンバサダーを務めています。北海道には特別な思いを持っており、頻繁に訪れているとのお話もありました。
帯広競馬場は初めてとのことでしたが、CM撮影の裏話や、若手俳優時代のエピソード、菅原文太さんや美輪明宏さんへの感謝などを、時に笑いも交えてお話ししてくださり、その快活なお人柄と軽妙なトークに、心を引き寄せられた方も多かったのではないでしょうか。

さらに、CMの映像に合わせて宇梶さんがその場で台詞を当てる、“生アテレコ”も披露。なかなか見る機会のないものですが、俳優さんはすごい、と感じる声量と迫力に、集まったファンから大きな拍手が沸き起こります。
最後は、今回のキャッチコピーである『BANGPOWER』を宇梶さんとオーディエンスとのコール&レスポンスで締め、大盛り上がりのステージとなりました。
“食”も充実の競馬場

南側広場には数台のキッチンカーと屋台が並び、十勝管内外のグルメを楽しむことができる、帯広競馬場ならではの光景も見られました。これを目的に足を運んだ近隣住民の方もいたかもしれません。
帯広競馬場では、これまでに二度『ばんえいキッチンカーグルメグランプリ』というイベントが行われていますが、そちらの受賞店をはじめとする、まさにばんえい記念ウィークにふさわしい豪華なラインナップ。

筆者は、2024年のグランプリを獲得した『タコス屋シーガルキッチン』のビーフタコスと、2025年のグランプリ『燻製と檸檬 Bitters』のプルドポークサンドを堪能。どちらも大満足でした!
ばん馬の隠れた本音がわかる? 人気の4コマまんが

スタンド内の一角では、ばんえい十勝の公式LINEアカウントで配信中の、さわだまゆさんの4コマまんが展が開かれていました。
ばんえい競馬にまつわる“あるある”やミニ知識、思わずクスリとしてしまう競走馬同士の会話などが盛り込まれた4コマが並び、足を止めて見入る方の姿も多数。
帯広競馬場に来場されていたさわだまゆさんからは、「いつも私の妄想にお付き合いくださり、ありがとうございます(笑)。皆様の“推し活”の一助になればと思いながら描いております。」とのお言葉を頂戴しました。

ばんえい十勝の公式LINEでは、レースに関する情報なども発信していますので、ばんえい競馬に興味をお持ちの方は友だち登録されることをお勧めします。
レジェンド共演のトークショー

この日のステージイベントの中で、コアなばんえい競馬ファンの興味を最も集めたであろう『レジェンドトークショー』には、藤本匠調教師と藤野俊一調教師が登場。
いずれも2025年12月1日付で、騎手から調教師に転身したばかりですが、騎手時代には、藤本調教師はばんえい記念2勝を含む通算4873勝(史上最多)、藤野調教師はばんえい記念5勝を含む通算3794勝を挙げた、まさにレジェンドです。
ばんえい記念に関して、藤本調教師からは「いかに馬に負荷をかけずに第二障害まで進めるか、障害を苦労させずに上げていくか。当日の他のレースから計算して決着タイムや道中の息の入れ方などを考える。」
藤野調教師からは「第二障害を一腰目でどこまで上げるかが重要。高重量戦に慣れていると、自分で息を入れて自分で出ていく馬もいる。スーパーペガサス(ばんえい記念4連覇など重賞通算20勝)がそうだった。」
経験も実績もある両名だからこその言葉が続き、ファンも引き込まれます。

さらには、「若い頃は勝ちたい一心で強く追い過ぎたために馬がバテてしまい、勝てるレースを落としたことが何度もある。」(藤本調教師)、「スタート側に厩舎があった旭川競馬場では、ゴールへ向かって歩くのを嫌がるような馬もいた。」(藤野調教師)などの昔話も飛び出す、過去と現在をつなげる素晴らしいトークショーでした。
お二人とも、この4月に厩舎を開業する予定で、今後は調教師としての活躍を大いに期待しています!
特別なレースの、特別なファンファーレ

そうしているうちにやがて日も暮れ、いよいよ今年度のばんえい競馬も、最終レースである『第58回ばんえい記念』を残すのみとなりました。
一つ前のレースが終わり、1トンの荷物に挑む出走馬10頭がパドックに姿を現します。場内の空気が、どこか厳かなものに変わったように感じます。大勢のファンが、周回を重ねる各馬を静かに見つめています。決戦の時が、刻一刻と迫ってきました。
そして20時、帯広陸上自衛隊第5音楽隊の生演奏による、発走時刻を告げるファンファーレが帯広の夜空に響きました。
現在のばんえい競馬のファンファーレは、帯広単独開催へと変わった2007年4月から使われているものですが、この『ばんえい記念』だけは、それ以前に使用されていた旧ファンファーレから現ファンファーレへとつなぐ、年に一度の限定バージョンが採用されています。これを聴くと、いやが上にも緊張と興奮が高まります。
「第58回ばんえい記念」のゲートが開く
いよいよレースが始まり、まずは第一障害へ向かう10頭。普段のレースであれば、高さ1.0mの第一障害はほとんどの馬がすんなりと越えますが、ここでは手間取る馬も数頭おり、1トンを曳くばんえい記念の文字通りの重みが序盤から早くも感じられました。
その後の道中は、各馬が息を入れ、刻みながら進め、クリスタルコルド、コウテイ、メムロボブサップの3頭がほぼ並んで第二障害手前に付くまでに要したタイムは、約2分04秒。
雪の影響で馬場が軽くなった昨年(第二障害手前まで約1分17秒)とは異なり、ゆったりとしたペースでレースが進む、1トン勝負らしい展開となりました。

そして各馬を待ち受けるのは、高さ1.6mの難関、ばんえいポイント第二障害。さあ、問題はここからです。
やはり厳しい第二障害、各馬が何度も腰を入れ直して挑みますが、力強く先頭で越えてきたのは、昨年の覇者メムロボブサップでした。一歩一歩たしかな脚取りで後続との差を広げながらゴールへ向かいます。

画像:ばんえい十勝
ゴール前の残り10mの地点で一旦歩みを止めて息を入れるほどの余裕もあり、2着のクリスタルコルドに15秒差をつける圧勝で見事に連覇を達成。今年は3分18秒8での決着となりました。
メムロボブサップはばんえい記念3勝目で、重賞は自身の持つばんえい競馬史上最多記録を更新する通算27勝目。現役最強との名高き当代のスターホースが、大一番でもその力を存分に見せつけました。

画像:ばんえい十勝

画像:ばんえい十勝
さて、勝負が決した後にも、“もう一つのばんえい記念”があります。

1トンを曳く過酷な舞台に挑んできた馬への敬意を示し、多くのファンが、全馬がゴールするまでを見守ります。これもばんえい記念が特別なレースであることの証しと言えるでしょうか。
上位入着は果たせずとも1トンを曳き切った馬に対して拍手が送られ、安堵の表情を浮かべながら労をねぎらう騎手や厩務員の姿も、毎年見られるものです。
騎手の思い、ファンの思い
表彰台に上がった阿部武臣騎手は、これがばんえい記念3勝目。ただ、昨年はレース前日の負傷により、他の騎手にメムロボブサップの手綱を渡さざるを得ませんでした。

療養期間を経ての復帰後も、負傷箇所を気にするような素振りが時折り見られ、パドックで馬の背に跨る姿は、もう1年以上、目にしていません。

そのような中でも「この馬の手綱をもう一度取りたい」とソリの上に戻ってきた阿部騎手の思いは、多くのファンが知っています。温かな雰囲気と大きな拍手に包まれる表彰式となりました。

表彰式後には、騎手とファンとの交流会が行われました。お目当ての騎手に日頃の思いを伝えられるとともに、サインをもらったり、記念撮影をしたりと、ファンにとってはとても貴重で幸せな時間です。
シーズンが終わってのひと区切りで緊張感もやや解けたのか、騎手の方々が、みな一様に柔和な表情をしていたのが印象に残っています。
こうして『第58回ばんえい記念』は幕を閉じました。

古谷野豪
少しの休催期間を挟み、2026年4月17日(金)に開幕を迎える次年度のばんえい競馬は、かつての四市施行体制に終わりを告げ、2007年4月に帯広単独の『ばんえい十勝』へと生まれ変わってから20年目のシーズンとなります。また新たな激戦が繰り広げられることでしょう。
「きっと、次年度も変わらずばんえい競馬を見つめ、一年後のばんえい記念も、また帯広競馬場で見ることになるのだろうな。」
今日の余韻が冷めやらぬ中で、先へも思いを馳せつつ帰路に就きました。
取材・文/古谷野豪 写真/ばんえい十勝・北海道Likers
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