【イベントレポート】北海道が世界の「宇宙ビジネスの聖地」になる未来を語る
近年、日本で宇宙への関心が高まっています。北海道大樹町にあるアジア初の民間にひらかれた商業宇宙港「北海道スペースポート(以下、HOSPO)」も注目の的です。
今回は、2月22日(火)に開催されたトークイベント「宇宙×地方創生が加速する!オール北海道で、宇宙版シリコンバレーをつくる」の様子をトーク形式でお伝えします。関係省庁や地方自治体、経済団体、民間企業等の代表者が集い、「HOSPO」を中心とした宇宙版シリコンバレー構想の実現や地域創生についてディスカッションを行いました。
第一部「宇宙×地方創生!北海道が世界の宇宙ビジネスの聖地になる未来をつくる」
まず、大樹町町長・酒森正人さん(以下、酒森さん)から「大樹町の射場(しゃじょう)は海に面した立地ですが、付近にはトーチカ(鉄筋コンクリート製の戦争遺跡)があります。歴史とこれからをつなぐ場所として大樹町のロケット産業が発展していくことを願っています」と挨拶がありました。
第一部では、行政機関を中心とした登壇者が「宇宙×地方創生!北海道が世界の宇宙ビジネスの聖地になる未来を語る」をテーマに、意見が交わされました。
登壇者は、酒森さん、国土交通省北海道開発局長・橋本幸さん、経済産業省北海道経済産業局長・池山成俊さん、札幌市経済観光局産業振興部・坂井智則さん。モデレーターは、SPACE COTAN株式会社代表取締役社長兼CEOの小田切義憲さんが務めました。
北海道の宇宙ビジネスのポテンシャルは?
酒森さん:大樹町では長い年月をかけて町民のみなさんの理解を得てきました。たとえば、海に着水した実験ロケットの回収は地元の漁師が行っています。それに加えて、他国の射場でも類を見ないほどの好立地・好条件というアドバンテージがあります。さらに、打ち上げに関するノウハウや関係機関との連携という面でも強みがあります。
国土交通省 北海道開発局長・橋本幸さん(以下、橋本さん):北海道の課題として、とくに1次産業では“人手不足”と“(建設業の)生産性の低さ”が挙げられます。こうした課題を技術で解決するためには、宇宙からの位置情報が必要不可欠です。スマート農業や水質調査などにも位置情報が必須であり、ユーザー視点からの宇宙産業への期待は膨らんでいます。
経済産業省 北海道経済産業局長・池山成俊さん(以下、池山さん):北海道における宇宙ビジネスのポテンシャルは主に4つに大別されます。1つ目は地の利、2つ目はユーザー(衛星から伝わる情報を活用したい農業・漁業従事者)がいること、3つ目はプレイヤーがいること、4つ目は自治体や経済界の理解があることです。
宇宙版シリコンバレーを加速するには何が必要か?
札幌市 経済観光局産業振興部 産業振興部長・坂井智則さん(以下、坂井さん):スタートアップと同様、ヒト・モノ・カネが重要です。宇宙ビジネスをやっている札幌の企業に聞きますと、とくに機械・技術系の人材、そして資金が不足しているという声が多いです。必要なのは認知を広げることです。札幌市では、ビジネスカンファレンスを実施するなど、投資家の方にも宇宙ビジネスに興味をもっていただける取り組みを実施しています。
池山さん:集積したヒト・モノ・カネ・技術・情報を有機的に活用できるようなエコシステムも必要になります。我々としては、プレイヤーを支援・育成していく取り組みも行っていく必要があると思っています。
橋本さん:サプライ側の役割として物流基盤の強化が挙げられます。十勝港・大樹町への高速道路の整備を進めていきたいと思います。
酒森さん:いずれにせよ、単に射場を整備するだけでは産業は集積しません。我々としては「HOSPO」の動きを“オール北海道”で支援いただき、企業誘致を進める役割をこなしていきたいです。
これからHOSPOにどう関わっていきたいか?
酒森さん:国の地方創生拠点整備交付金などを利用して町の発展に尽力していきたいです。また、町に収まらず、北海道や日本の航空宇宙産業の発展につながればと思います。
坂井さん:国内だけでなく海外へも情報発信を強化していきます。加えて、北海道の“スタートアップの育成”や“企業の誘致”にも取り組んでいきます。
池山さん:同じく情報発信を行うほかに、補助金などの制度で“プレイヤーへの支援”を行うと同時に、農林業従事者などに宇宙から得られたデータをどう活用できるかといった提案をする“ユーザーへの支援”も行います。
橋本さん:2030年に向けての宇宙利用として、身近な例でいえば、建設業や除雪作業のアシスト、運輸、災害対策などに衛星データを活用したいと思います。
SPACE COTAN株式会社 代表取締役社長・小田切義憲さん:人材に関していえば、北海道に仕事がないから本州に行く流れがあると思います。ならば、大樹町の宇宙産業を育てていきたいです。また、待っていても何かが落ちてくることはないので、若い人が集まってくるように魅力を発信していきます。宇宙ビジネスを花形産業と呼ばれるところまで引き上げたいです。
第二部「オール北海道で、宇宙版シリコンバレーをつくる」
第二部では「オール北海道で、宇宙版シリコンバレーをつくる」をテーマに、民間視点での活発な意見交換がなされました。“SX(スペース・トランスフォーメーション)”という新たなワードも飛び出す興味深いトークセッションになりました。
登壇者は、北海道経済連合会会長・真弓明彦さん、北海道商工会議所連合会会頭・岩田圭剛さん、サツドラホールディングス株式会社代表取締役社長兼CEO・富山浩樹さん、INCLUSIVE株式会社代表取締役社長・藤田誠さん。モデレーターは、SPACE COTAN株式会社取締役兼CMO・中神美佳さんが務めました。
HOSPOに参画する理由は?
北海道経済連合会 会長・真弓明彦さん(以下、真弓さん):北海道の抱える諸課題を解決する起爆剤として、すそ野の広い産業である「HOSPO」に期待しているからです。我々としては北海道の宇宙産業集積のためには射場を確実に築き上げていくことが大前提ととらえています。
北海道商工会議所連合会 会頭・岩田圭剛さん(以下、岩田さん):ビジネスの宝庫として道民に夢と希望を与える産業であると考えたからです。経済波及効果は年間276億円にのぼるとの試算がありますし、さらに広範な関連する産業を含めれば、大きな経済効果を期待できます。近年は北海道内の企業が停滞しているため、フロンティア精神を胸に取り組みます。
サツドラホールディングス株式会社 代表取締役社長兼CEO・富山浩樹さん(以下、富山さん):弊社では“地域”をテーマに企業経営をしています。ドラッグストア事業の新規出店先を検討していた際にインターステラテクノロジクス株式会社の活動を知り、大樹町に出店しました。また、宇宙産業からまちづくりに広がっていく点に大きなビジネスチャンスがあるのではと思い、参画を決めました。
INCLUSIVE株式会社 代表取締役社長・藤田誠さん(以下、藤田さん):弊社はビックデータ解析を軸としたコンサルティング業務やDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進を通じた地方創生を図っています。ITベンチャーとして参画を決めたのは、宇宙ビジネスが市場規模の拡大や地域発展の渦中にあると考えたためです。
HOSPO・宇宙ビジネスとの協業の具体的な可能性は?
藤田さん:打ち上げた衛星をどうビジネスに生かしていくかが本丸になります。既存分野にイノベーションを起こすという点で“SX(スペース・トランスフォーメーション)”なんて名付けるのはどうでしょうか。我々は衛星利活用のコンサルティング、衛星打ち上げの支援事業という形で様々な事業を変革していこうと考えています。
富山さん:SXというワード、とてもいいですね! 宇宙ビジネスは産業の垣根を超えます。私たちはドラッグストアという生活インフラに関わる事業を展開していますが、店舗の画像解析などを新たに宇宙の視点から行っていきたいと考えています。あとは……主力商品を前面に押し出した“超”炭酸水ロケットを飛ばしてみたいですね!
岩田さん:現在の建設業においても衛星データの活用は必須になっています。1ミリ単位以下の精密な作業も衛星からもたらされるデータによって成立しているほどです。
真弓さん:“宇宙の6次産業化”(=宇宙版シリコンバレー)に注力していきます。1次では「HOSPO」の運営、2次にはロケット・衛星などの製造、3次には衛星データの利用といった具合です。また、脱炭素ロケットやpoint to point事業(従来の航空輸送産業のロケット版。ロケットを使った地点間の移動)にも期待したいですね。宇宙プロジェクトチームも立ち上げましたので“オール北海道”で取り組んでいきたいと思います。
最後に一言メッセージをいただけますか?
藤田さん:直近では、デジタルコミックエージェンシーが子会社になりました。今後は、宇宙×エンターテインメントの角度からも盛り上げていきたいと思います!
富山さん:宇宙に対する関心を高め、自分事にしていくような機運を高めていきたいと思います。あと、サツドラの超炭酸水を飲んでください!(笑)
岩田さん:北海道内の企業からの「HOSPO」への資金調達率は約2割しかありません。もっともっと関係を強固にしていきます。
真弓さん:「HOSPO」は北海道を大きく変えるチャンスだと思っています。あらゆる面でのマッチングを産学連携で進めていきます。
各界で盛り上がりを見せている宇宙ビジネス。この波を北海道中、日本中に広めていくための挑戦がまだまだ続きます。あなたも宇宙ビジネスの可能性についてじっくり考えてみませんか?
【画像】SPACE COTAN株式会社
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