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北海道から宇宙旅行!? 世界屈指の技術で挑むロケット開発の今【宇宙カンファレンス@NoMaps】

2023年9月13日(水)に札幌で開催された、宇宙をテーマとしたトークイベント『北海道Likers presents 宇宙カンファレンス@NoMaps』。4つのトークセッションでは、北海道を舞台として宇宙に携わるフロントランナーの方たちが、さまざまな視点で議論を交わしました。

Session2では、「北海道から宇宙へ!ロケット開発の今とこれから」と題して、北海道大樹町で民間ロケット開発に取り組むインターステラテクノロジズ株式会社代表取締役の稲川貴大氏と、同社と共同研究に取り組む室蘭工業大学の内海政春教授が登壇。その様子をお届けします!

登壇者

モデレーター:
遠藤嵩大氏。INCLUSIVE SPACE CONSULTING取締役

ゲスト:
内海政春氏。室蘭工業大学教授/航空宇宙機システム研究センター長
稲川貴大氏。インターステラテクノロジズ株式会社代表取締役

北海道でロケット開発に携わる登壇者の紹介

遠藤氏:モデレーターを務めさせていただきます、INCLUSIVE SPACE CONSULTINGの遠藤です。人工衛星のデータを使った農業・林業・防災などの分野での事業開発をしております。

衛星も宇宙に行かなければ意味がない、そして衛星を宇宙に届ける輸送手段がロケットということで、Session2では「いま、ロケットの開発ってどうなってるの?」というお話をみなさんに理解いただけるようなセッションになればいいなと思っています。さっそく登壇者のお二人は、自己紹介と取り組みのご紹介をお願いいたします。

稲川氏:インターステラテクノロジズ株式会社の稲川と申します。2005年ごろから「これから小型ロケットの時代が来る」と考えていました。当時ロケットを作るというコンセプトを立ち上げて進めていたのが我々の創業者の堀江(貴文)さんです。個人プロジェクトとして続けてきていましたが、2013年に大樹町に本社を置いて会社を立ち上げて本格的にスタートしました。

創業時は片手ぐらいの人数の規模だったんですが、現在は130人規模になってきています。『MOMO』というロケットの打ち上げで一通りの技術の蓄積ができ、現在は次世代のロケット『ZERO』の開発に注力しているところです。

内海氏:室蘭工業大学の内海と申します。室蘭は札幌から120kmぐらい離れた南側にあります。理工学部がある小さな国立大学です。

室蘭工業大学に航空宇宙の部署ができたのが2005年ぐらい。きっかけは、当時JAXAのかなり偉い先生が、ロケット開発のできる場所を探して北海道に来られ、室蘭工業大学に移ったことです。そこで「航空宇宙機システム研究センター」を立ち上げ、室蘭のそばにある白老町で、JAXAではできないようなロケットエンジンやジェットエンジンの開発・研究を始めました。

本州では大規模な実験がしにくいですが、広大な敷地がある北海道で、コンピュータのシミュレーションだけではなくリアルにものを作って実験することができるというところに、大学としての価値があるのかなと思っています。私も2017年にこの大学へ移ってきて、2019年から稲川さんのロケット開発に協力させていただくことになり、共同研究というかたちで一緒にロケット開発を続けています。

ロケット開発の現在とは

遠藤氏:新しいロケットの開発状況や、取り組みについてお話いただけますか。

稲川氏:『ZERO』はまだ全体はできていませんが、部品はできてきています。これから1~2年は部品を作っていきますが、スピーディに取り組んでいきたいです。

私自身はもともと「宇宙大好き」ではなく、東京工業大学在学時には「もの作りをやりたい」と思っていました。飛行機を作るサークルに入り、テレビでも放送されている『鳥人間コンテスト』に出たりしていて……強豪校で設計したり全体を取りまとめたりということをしていたので、そこから宇宙に目覚めました。

北海道大学で開発している『CAMUIロケット』にも影響を受けました。当時その開発をネット中継で見ていて、「大学生や、大手の企業でない工場でロケットを作れるんだ」と衝撃を受けました。「宇宙はすごいもの、偉い人がやるもの」と神聖化されたイメージでしたが、「ロケットを作れるんだ、宇宙を目指せるかもしれないんだ」と気づいたんです。20歳を超えてから宇宙に目覚めるのは相当遅い側なのですが、サークルを立ち上げて、“学生ロケット”として打ち上げを行ったりしました。

その後、弊社の前身団体に新卒で入り、経緯があって社長になり、会社自体は10年やっています。人材は130人いて、道内出身者は3割ぐらいです。大樹町の本社、東京支社、室蘭工業大学さんの中、福島県の事務所と、4拠点で開発を行っています。本当にもの作りが大事だと思っていて、スタートアップと言うと事業開発が多いですが、研究開発に注力しています。130人のうち8割以上が技術職です。

稲川氏:いま頑張って開発しているのが『ZERO』です。大きさは25m、直径は2mで、『MOMO』よりもだいぶ大きくなります。ロケットとしての性能がよくなるメタンという燃料を使っていたり、ターボポンプという燃料を供給するための重要な部品を作ったりと、難しさがあり、『ZERO』の開発に注力している状況です。

宇宙に行った、その先まで見つめる!

稲川氏:宇宙産業はいま非常に盛り上がってきています。従来、国家主導で宇宙開発が進んできたわけですが、“宇宙開発”から“宇宙産業”という言葉に最近大きくパラダイムシフトしてきています。これから民間企業が主体となって、宇宙を経済活動の主戦場にすることで産業規模が膨らむという話です。

宇宙産業を広げるためには、初めはロケットが大事です。その後は、「宇宙に行けました。行けてよかったね」 で終わりではなく、宇宙をより面白く使う・新しいことができる環境にするところも非常に重要だと考えています。

だからこそ、ロケットだけではなく、ロケットに搭載する人工衛星の開発も一生懸命やっているところです。ロケットは“輸送手段”でしかないので、「佐川急便」さん・「ヤマト運輸」さんなどと同じく、配達会社さんみたいな感じです。そこからさらに先で事業ができるとより面白くなるということで、人工衛星の開発もスタートし始めたということです。

考えているコンセプトは3つで、“宇宙を使って通信をする・より地球を細かく見てあげる(日本初の技術を使ったリモートセンシング*の新しい衛星)・無重力という特殊な環境でのもの作り(宇宙実験プラットフォーム)”です。

まずはロケット開発に注力するのがとにかく大事ですが、さらにそこから、地上の人の生活がより豊かになる、どこにいても通信ができるといった、色々な地上の豊かさに繋がるようなことをやっていきたいと思っています。

遠藤氏:『MOMO』で宇宙に到達されて、『ZERO』、さらにその先に人工衛星とビジネスを考えられているのがよく分かりました。今後の打ち上げの予定はいかがですか?

稲川氏:『MOMO』はいったんお休みして、『ZERO』の開発を急ぎ、なるべく早く打ち上げないといけないと思っています。

アメリカでは数社、我々のライバルになるような会社が打ち上げを始めたり、国内でも和歌山からロケットを打ち上げようという会社さんがいたり、中国、ヨーロッパでも出始めていて、地域全体で民間を支援するような状況になっています。我々もクラウドファンディングをしたり、地元の方々に支えられたりして何とかやっているのですが、 他国は国策としてガンガン進めていく状況なので、焦りもありますね。

とはいえ北海道には地理的な優位性があるので、しっかりと戦えるように着実に進めていきたいです。

*リモートセンシング・・・遠く離れたところから、対象物に触れずに対象物の形や性質を測定する技術。

ロケットの心臓!格段に難易度が高い「ターボポンプ」とは

遠藤氏:ロケット開発の部品の話について、室蘭工業大学の取り組みとあわせて、内海先生からご解説をお願いいたします。

内海:私は室蘭工業大学の「航空宇宙機システム研究センター(以下、研究センター)」に所属しています。将来、誰でも宇宙に行けるようになるには、飛行機のような形態で宇宙に行って帰ってこられるのが究極の形だと思います。そういったものに大学としても取り組んでいくということで、所属する「研究センター」が発足しました。

室蘭は北海道の中では2番目に人口密度が高いまちです。大学のまわりは住宅街になっていて、当然ロケットの実験はできない。そこで、白老町に実験場をつくって、さまざまな実験を行っています。1.5haの広さで人がほとんど住んでいないところなので、少々大きな音がする実験もできますが、牧場があるため、牛が驚いてしまうので実験の前には牧場へ電話して確認しながら進めています。

インターステラテクノロジズ株式会社さんとは2019年から共同研究をさせていただいています。

「研究センター」の中では人工衛星の研究開発を行っています。最初に作ったのは『ひろがり』という人工衛星です。ロケットで打ち上げてもらい、宇宙ステーションで野口聡一宇宙飛行士に宇宙空間に放出していただいてミッションが終了しました。いまは後継機の『HOKUSHIN-1』の研究開発を行っています。

また、大樹町と包括連携協定を結び、町内にサテライトオフィスを設置しながら、スペースポート(宇宙港)の設立に向けて支援させていただいています。

『ZERO』で一緒に開発させていただいているのは、ロケットエンジンの“ターボポンプ”というもの。人間でいうと心臓に当たる部分で、超高速で回転することによって燃料を高圧にして送り込んでいるものです。

これが実はとても開発が難しいんです。今年(2023年)3月に『H3ロケット』試験機1号機の打ち上げが行われ、残念ながらうまくいかなかったわけですが、打ち上げが2回延期された原因は、このターボポンプと呼ばれる部分の設計がうまくいっていないということでした。JAXAのロケットエンジンには2つのターボがついているのですが、私たちは少し変わった形式で、それを1つにして、1つのターボに2つの機能を持たせようというかなりチャレンジングな取り組みをしています。

オール北海道で宇宙を盛り上げる

内海氏:室蘭工業大学は、北海道大学と連携を強化し、インターステラテクノロジズ株式会社さんも合わせて3者で共同研究をしていますが、我々大学だけが宇宙に携わるのではなく、オール北海道で宇宙を盛り上げていきたいと考えています。オール北海道で人材を供給していくということです。

いままでは、宇宙開発に携わりたくても就職する場所がなかった。しかし最近は、民間企業がどんどんどん宇宙開発に取り組んでいます。そうすると、学生も自分がやりたかった宇宙開発に携わることができます。我々教員としても、学生が好きなことができる、思った通りに進学や就職ができることは喜びでもあります。

北海道に、大樹町を中心としてロケットの発射場あるいは宇宙へのスペースプレーンの行き来するような場所ができてくるのは間違いありません。「宇宙旅行元年」と言われたのが一昨年。訓練された宇宙飛行士が宇宙へ行った数よりも、民間の人たちが宇宙へ行った数の方が多くなりました。

宇宙飛行士にならなくても宇宙へ行くことができるような時代になっています。これから気軽に宇宙旅行へ行ける時代が来るのも間違いありません。そのときに、“どこから行くのか”というのがポイントです。いま北海道にスペースポートができているなかで、北海道から宇宙へ行って、北海道に帰ってくる。世界の一大拠点となって、この北海道から飛び立っていくのです。

手を組むうえで大事なこと

稲川氏:ターボポンプが作れるということ自体、すごいことです。マイナス180度のものすごく冷たい液体が流れてきているすぐ隣りで、高温のガスがすごい勢いでグルグル回って、F1カーぐらいのエンジンの出力のものを発しているんですね。それが、手のひらに乗るぐらいのサイズのところに1箇所に固まっています。

世界で見ても開発できる会社は指折り数えるぐらいしかいない。そういうレベルのものがターボポンプです。

『MOMO』のときも、ターボポンプの開発は無理ということで、それがなくても成り立つようなロケットを作りました。次に人工衛星を打ち上げようと思うと、すごく重要な部品だということで、開発の初期から悩みました。そのときに、まさにJAXAでターボポンプの研究の第一人者であった内海先生が室蘭工業大学、北海道に来ていただいた。このこと自体がすごいことで、だからこそいま我々は開発が進んでいます。

遠藤氏:本当に難しい技術なのですね。

お話を聞いていると、民間企業としては人材や技術が必要で、大学としては学生の働き先がないという問題があるなかで、2者間の連携がとても重要なのだなと感じたのですが、手を組み合ううえで大事なことはどんなことでしょうか?

内海氏:稲川さんとのお付き合いは私がJAXAにいたころからになります。ロケット開発の熱意はそのころからひしひしと感じていました。私もJAXAでロケットの失敗を経験しましたし、難しさは十二分に分かっているなかで、「これは厳しい戦いになるだろう」という話をしました。そのうえで、稲川さんは「やります」と言われました。

いくら技術的に優れていても、熱意がなければできないものだと思っています。むしろ熱意があれば、いろんな人たちの力を借りることによって達成することができる。学生も熱意を持っているとやっぱり伸びるし、教員としては、学生に熱意を持ってもらうような動機付けが一番大事なのかなと考えています。インターステラテクノロジズ株式会社さんはそういう人たちの塊みたいなものです。だからこそやっていけるんじゃないかと感じています。

遠藤氏:熱意を育てていく観点も大事ですよね。

稲川氏:純粋に、猛烈な音とエネルギーで未知の世界に飛んでいくという、1回見たら忘れられない感動がロケットの打ち上げにはあります。見ると「人生観が変わった」という人が出るくらいで、私自身もそういうところに面白さを感じたのが原体験です。

いま宇宙産業は本当に世の中を変えようとしています。これまで宇宙は、外交的な国威発揚みたいな使われ方をしたこともありましたが、いまはもうワクワクだけでなく、実用になる勝負が世界中で進んでいます。ビジネスの場としてのエキサイティングな環境に挑戦するためには、日本はすごくいいんです。宇宙産業のアセット・資産が潤沢にあります。

そこで勝負できるのが優位だし、大樹町はロケット打ち上げ場所として種子島と並ぶくらい素晴らしい。これ以上ない場所です。自分の人生を使うのだったら、ほかの産業よりもこれから伸びるし、確実に人類の生活を豊かにするような産業を自分で作れたら嬉しい。そういうモチベーションでやっています。

ロケット開発のこれから

遠藤氏:最後に、ロケット開発のこれからについてお二人のお話を伺って終わりたいと思います。

稲川氏:今日、別のイベントで、北海道知事、札幌市長が、これから北海道はスタートアップを育てていくということを明確に表明しました*。「一次産業・食、環境・エネルギー、宇宙」の3本の柱でいきますと。そこに入るくらい、宇宙は北海道を挙げて取り組む産業になっていきます。宇宙へ行くシステムは世界中でできていきますが、そのなかで北海道は、モチベーションがあってポテンシャルもある地域として突出してくると思います。

内海氏:「宇宙って遠い話」と思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、みなさんが持っているスマートフォンについているGPSや、車のナビゲーションシステムなどなど、みんな宇宙から利用しているわけですよね。気象衛星の『ひまわり』によって雲の映像が撮られ、天気予報が格段に当たるようになった。こういったこともみんな宇宙のおかげだということなんです。

いま劇的に宇宙利用が進んでいます。月はどこの国が主導権を取るのか、あるいは火星は……など、ある意味戦争みたいなかたちで宇宙開発競争が繰り広げられています。これに対して、日本はやはり何もしないわけにはいかない。日本の技術力を宇宙開発に投じて、世界平和に役立てていくことも日本の使命だと思います。

環境問題も地球規模では解決できないことがたくさん出てきています。食料問題にしても気候問題にしても、宇宙空間に人間の活動領域を広げることによって、地球規模で解決できない問題も宇宙からの視点で解決していける可能性があります。たとえば宇宙太陽光発電衛星を使ってクリーンなエネルギーを使えば、原発を使わなくてもいいかもしれない。こういったことを、ぜひ日本として取り組んでいかなければならないと思いますし、その拠点としてまさに北海道が一番熱い場所だと思っています。

これからの宇宙開発は、我々とは切っても切り離せない生活に密着したものですし、将来の日本の姿にもかなり大きなインパクトを与えていきます。ぜひ自分のこととして考えていただけるきっかけになればと思います。

遠藤氏:これまでのお話で、普段の暮らしも実は宇宙と密着したものであることを感じていただけたかと思います。そして、宇宙を使うためのコアな技術としてのロケット、アクセスとしてのロケットの開発において、日本で中心を担っていく北海道の可能性を感じていただけたのではないでしょうか。本日はありがとうございました。

*2023年9月13日、北海道からグローバルを目指すスタートアップを生み育てるエコシステムの実現に向け「STARTUP HOKKAIDO実行委員会」が設立され、北海道・札幌市・北海道経済産業局による合同戦略発表会が開かれた。

連載「HOKKAIDO 2040」では、“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマとして、大樹町を中心に盛り上がりを見せている宇宙産業関係者へインタビュー。宇宙利用によって変わる北海道の未来を広く発信します。連載記事一覧はこちらから。

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