石屋製菓、男山…「北海道有名ブランド」の言葉も紡ぐ!小樽生まれのコピーライター・鈴木拓磨の素顔

『やってみるべ部』(男山)、『歩こう。パセオ。paseo Final Walk』(パセオ)、『恋人は置いていきます。』(石屋製菓)

北海道に住んでいる方や、北海道とゆかりのある方は、一度は見聞きしたことがあるのではないでしょうか。実はこれらはすべて、小樽市のご出身で、現在札幌を拠点にコピーライターとして活動されている、鈴木拓磨さんが手掛けたもの。

最近では、札幌コピーライターズクラブが2023年6月3日に実施した『SCC賞審査会』で、旭川市の地酒蔵元「男山株式会社(以下、男山)」の『やってみるべ部』『好都合』『復古酒』が受賞。そんな活躍さなかの鈴木さんに、お話を伺いました。

鈴木拓磨(すずき・たくま)。1982年生まれ。北海道小樽市出身、札幌市在住。北海道大学文学部卒業後、芸能マネージャー、ライターなどを経て、2009年よりコピーライターとして活動している。2021年に独立し、「スコピー」を創業。コピーやネーミングのほか、企業の企画やブランディングに携わるなど多岐にわたる仕事を手掛けている。

「言葉なら執着できるかもしれないと思った」コピーライター鈴木拓磨

オンラインで取材しました。 出典: 北海道Likers

北海道Likers編集部:コピーライターになられたいきさつを教えてください。

鈴木さん:僕は、学生時代に演劇をやっていたんです。そこで初めは、演劇の制作もしている芸能プロダクションに就職して、芸能マネージャーの部署に配属されました。でも覚悟がない状態だったので、ほかのマネージャーさんや、俳優さん、撮影現場のスタッフさんのプロフェッショナルさと比較して、自分が全然だめだなと思ったんですよね。

次に、ウェブを作ったりシステムを開発したりする会社に入ったのですが、そこでも同様にプログラマーやデザイナーというプロフェッショナルがたくさんいて。自分は何ができるんだろうと思い悩んでいたのが、20代半ばくらいです。

じゃあ何だったら頑張れるのかなと考えたときに、“言葉”であれば、自分なりに情熱を注ぎ、執着できるかもしれない。長い間頑張れるかもしれない、と思いました。

北海道Likers編集部:そうなんですね。でもそこでどうして“言葉”が出てきたんでしょう? それまでお仕事をされるなかで、自分は言葉にこだわるなという感覚があったのですか?

鈴木さん:どうしてなんだろうな。言葉の読み書きや、言葉遊びが好きだったからなのかもしれないですね。大学の文学部で言葉をよく知っている友人と会話して刺激を受けたり、演劇で脚本を書いたりしていたので。

出典:鈴木拓磨さんご提供

北海道Likers編集部:今は実際にどんなお仕事をされているのですか? 「スコピー」のホームページを拝見して、コピーや商品のネーミングだけでなく、「言語化によって議論や思考を手助けする」*と書かれていたのが気になって。企業の企画などにも携わっていらっしゃるのでしょうか?

鈴木さん:そうですね、コピーやネーミングと対照的な“人々の目に触れない言葉”もつくっています。「ポスターを作りたいから、ここに何文字のコピーがほしい」ということではなく、「そもそもどんな考え方をしたらいいんだろう」という根っこから携わらせていただいたり。企業のブランディングのための言葉や、企画書用の言葉などもつくっています。

*スコピー・・・ホームページ:https://sucopy.jp/

2021年7月に「スコピー」を創業。その背景とは

出典:鈴木拓磨さんご提供

北海道Likers編集部:独立され、2021年7月に「スコピー」を創業されましたが、どのような想いがあったのですか?

鈴木さん:もともとは僕、生活がないがしろになりがちでした。真夜中まで仕事をする日があっても、あまり苦とも思わず、当たり前だと思っていました。

しかし、2016年に息子が生まれて、必然的に生活に割く時間が増えるなかで、もう少し生活も大切にできるようになりたいと思うようになった気がします。

仕事と生活のバランスをうまく取りたい、ということは誰しも考えることだと思いますが、独立後はより強く意識するようになりましたね。コピーライターは日頃の興味・関心が文章や言葉に出てきますし。仕事と生活が互いに良い影響を与え合えると良いな、と。

北海道Likers編集部:なるほど。「日頃の興味・関心がお仕事に影響しやすい」とのことでしたが、お仕事で素敵なアイデアを出すために、日常的に心掛けていることはありますか?

鈴木さん:なんだろうな。その質問、僕も聞けるとき人に聞くんですが、自分が聞かれるのは初めてで(笑)

北海道Likers編集部:たしかに、いつもと立場が逆ですね(笑)

鈴木さん:コピーライターのなかには好奇心がすごく旺盛な人もいると思うんですが、自分はあまりそういう性格ではないんですよね。漫画はずっと『SLAM DUNK』だけでいいや、みたいな。だからそういう意味では、この仕事向いてないんじゃないかと思うこともあるんですけど(笑)

ただ、“質問をするようにする”ということは心掛けていますね。自分があまり分からない分野の話でも、とりあえず、聞いてみる。何かを好きな人が、好きなものについて熱を持って語ってくれるのを聞くのは、やっぱり面白いですね。

あとはお仕事をいただくと“自然とアンテナが立つようになる”ということがあります。お引き受けした次の日の新聞で、そのお仕事に関係する見出しを見つけて「なんというタイミングだろう!」と驚いたりするのですが、本当はそれまでの自分がスルーしていただけなんだと思います。

受賞作品も多数!「男山」とのお仕事

出典:鈴木拓磨さんご提供

北海道Likers編集部:最近では、『SCC賞審査会』で、旭川市の地酒蔵元「男山」の『やってみるべ部』『好都合』『復古酒』が受賞されています。これらの作品を考える際も、自然とアンテナが立つということはありましたか?

鈴木さん:そうですね、「男山」さんのお仕事をするようになってからは、スーパーや酒屋さんに行ったときに日本酒のコーナーをざっと見たりすることが、自然と増えましたね。「日頃からどんな雰囲気なんだろう」ということを見るというか。

出典:鈴木拓磨さんご提供

北海道Likers編集部:『諸事情』や『いつでも甘酒』など、「男山」さんとはほかにもたくさんのお仕事をされていると思いますが、実際に「男山」さんのお酒を飲まれることも多いですか?

鈴木さん:そうですね。飲むことは、もちろんありますよ。

『復古酒』のパッケージリニューアルに伴い、パッケージ用コピーを担当させていただいたときには、実際に商品を飲んで考えました。元禄時代の仕込み方を再現したかなり変わったお酒なんですが、甘口で飲みやすいので「もっと親しみやすくしたい」というご要望でした。そこで『むかしむかし あるところに こんなに飲みやすい 超甘口の酒が ありました』と、昔話のように語りかけるコピーにしたんです。

でもお仕事のときに必ずしも実際に食べたり飲んだりできるとは限らないです。「こういうものを作ろうとしている」という発想だけあって、商品自体はまだ存在しないことも多いので。

それに、とくにお酒やお茶など嗜好品の部類に入るものは、“味そのものの特徴”も大事ですが、それが「このくらい貴重なもので、こういう産地で、こういう人が作っています」という“ストーリー”も大事だと思っています。

北海道Likers編集部:消費者が商品を手に取るときに、重視しているポイントだから、ということですよね。

鈴木さん:そうです。例えば、『やってみるべ部』では、“コロナによってお酒の消費が落ち込むなかで、「男山」さんが実験的な試みを始める”という背景を踏まえ、商品名かつプロジェクト名としてのネーミングを目指しました。

息子の名付けをしてから、ネーミングが得意になった!?

息子さんは現在(2023年8月)小学1年生。 出典:鈴木拓磨さんご提供

北海道Likers編集部:note*で、息子さんのお名前を付けてから、苦手意識のあったネーミングのお仕事で案が通るようになったと書かれていましたが、それはどうしてだとお考えですか?

鈴木さん:それフィーチャーしてくれたんですね!(笑) 再現性のある法則なのかは分からないのですが、もし因果関係があったとすると考えると……1つの理由は、名前を付けるという行為の“重さ”を経験したからだと考えています。

北海道Likers編集部:案を並べるだけではなく最終的に1つに決め切るという責任の大きさに違いがあった、という意味でしょうか?

鈴木さん:まさにそうですね。普段のお仕事では、外部のプロとしてネーミングの“案”は考えますが、それを付けるか付けないか、最終的にはクライアントに委ねることになります。だから「責任はない」と逃げるわけではないのですが、それを私が決定するなんでおこがましいという感覚があります。

息子さんからのお手紙 出典:鈴木拓磨さんご提供

鈴木さん:あと、子どもの名付けをする前の自分は、ネーミングをコピーっぽく考えすぎていたかのかもしれないですね。

商品・ブランドの特徴やウリを「どううまいこと名前にしてやろう」と考えすぎていたのが良くなかったと思います。名前なら、名前らしい佇まいや、愛着が持てるかということも大切だと思うのですが、その視点を子どもの名付けのプロセスのなかで学んだのかもしれません。

北海道Likers編集部:なるほど。ネーミングとコピーはニアリーイコールなのかと思っていましたが、全く違うものということでしょうか。

鈴木さん:ニア(near)だとは思います。「小林製薬」のような、説明的でコピーに近いネーミングの世界もありますし。

ただ、コピーの場合は必ず“目指す方向性”や“目的”があると思うんですよね。「商品を買ってほしい・好きになってもらいたい・共感してほしい」みたいな。一方で、ネーミングは目的が希薄な場合もあると考えています。

北海道Likers編集部:なるほど……! まさにお子さんの名付けの場合は、目指す場所や目的が示されていなかったというか、そもそも決めなくても良かったかもしれない、ということでしょうか?

鈴木さん:おっしゃる通りです。なにせ商品が何も分からない状態でネーミングだけちょうだい、みたいな状況です(笑)

*鈴木さんのnote・・・https://note.com/sucopy/

言葉は強力でもあり、無力でもある

鈴木さんのご自宅の仕事スペースにて。 出典:鈴木拓磨さんご提供

北海道Likers編集部:言葉を司ることを生業とするうえで、大切なことは何だとお考えですか?

鈴木さん:2つあって、1つは「言葉を軽んじないこと、言葉を信じすぎないこと」です。

言葉はツールとして不完全で曖昧なものですよね。話ってかみ合っているようで、伝わっていないこともある。100%分かり合う精緻なコミュニケーションは不可能ですが、かみ合わないからといって、いいかげんに使っていると痛い目を見ます。

広告制作の分野では、「コピーは約束だ」とよく言われます。とくに企業が言葉を使う場合は、“言葉で言ったことは約束”なんです。だからこそ大きな共感を生むこともあるし、一方で炎上することもあると考えると、言葉は強力です。しかし、新聞やポスターでつらつらと言葉を並べても、一言一句丁寧に読んでもらえることは少ないです。全部言えば伝わるわけでもないと考えると、言葉は無力だなと感じます。この、”言葉は強力でも無力でもある”という両面をしっかり考えなければならないな、と。

テレビや政治を見ていて、言葉が軽く使われているなと思うことがありますが、コピーライターはその片棒を担ぐ恐れもある職業です。自分への戒めを込めて、日頃から意識したいと思っています。

鈴木さんのおもな仕事道具(Mac、ノート、ペン) 出典:鈴木拓磨さんご提供

鈴木さん:もう1つは「”誰にでも使える日本語”が生業として成立するのはなぜか?を自問し続けること」です。

北海道Likers編集部:なるほど。ちなみに答えは、鈴木さんのなかで出ていらっしゃるのでしょうか……?

鈴木さん:いやー、今でも不安になるとこの問いがもたげてきて、「自分はやっていけるのだろうか」と眠れない夜を過ごすことがあります(笑)

北海道Likers編集部:ええ、鈴木さんでもそんなことがあるんですか!

鈴木さん:はい、懐疑的になってしまうことはあります。ただ、言葉は誰でも使えるものですが、“ここまでしつこく考えているのは自分”というところで、プロっぽくなれないかなと考えています。

北海道Likers編集部:かけている時間の長さということでしょうか?

鈴木さん:はい。ずーっと気にしている、「は」がいいのか「が」がいいのかを毎回悩む、みたいな(笑)

コピーライターなら、“独自の視点や斬新なアイデアがずばっと出てくる”といったことが格好良いのかもしれません。でも僕自身はそのようなタイプではなく、“きちんと正しく伝わる文章にできるか”ということを大切にしていますね。

精読すると実は筋道が通っていない文章ってよくあると思うのですが、そういった文章をなるべく排除する。しっかり一度辞書を引く……。能力でもありますが、一つの役割でもあるので、そこにお金を出していただいていることの“重さ”をしっかり考えなければならないと思っています。

 

ーーー誰もが知る北海道有名ブランドのコピーやネーミングを手掛けている方ということで、初めは身構えてしまっていました。しかし、実際にお話ししてみると飾らず気さくな雰囲気の方で、同じ言葉を使った仕事をする者として、気になることをたくさんお聞きしてしまいました。謙虚で丁寧なお仕事ぶりから、これからもきっと素敵なコピーやネーミングが生まれるのだろうと思うと、とても楽しみです。

連載「情熱の仕事人」では、北海道のさまざまな分野の“仕事人”を取り上げ、その取り組みや志、熱い想いなどを紹介します。北海道の未来をつくる仕事人たちの情熱の根源とは。連載記事一覧はこちらから。

【画像】鈴木拓磨さん