館長と副館長

捨てられたものに新たな命を吹き込む「レトロスペース・坂会館」のディープな世界

札幌市西区二十四軒に、ディープなミュージアムがあります。その名も「レトロスペース・坂会館」。一般的ではないものにスポットをあてた私設博物館です。

ドアを開けると、不思議な世界に迷い込んでしまいました。

捨てられたマネキンがきっかけでコレクションを開始

「レトロスペース・坂会館」は、「坂栄養食品株式会社」の工場に併設されています。「坂栄養食品株式会社」は1950(昭和25)年に、坂一敬館長の父親の手によって設立。道民から“坂ビスケット”の愛称で長年親しまれてきました。

「レトロスペース・坂会館」のある場所は、かつて結婚式場やレストランでした。少ないながらも当時を偲ばせる品が展示されており、カウンターや厨房だった出入り口に面影を残しています。

坂館長は、ある出来事がきっかけでコレクションを始めました。

「電車に乗っていると、見知らぬ乗客から優先席を勧められました。まだそこに座る年齢ではないと思い断ったところ、“あなたが優先席に座ることで、車内の混雑が一人分緩和される”と言われました」と坂館長。

数日後、ゴミ捨て場に捨てられたマネキン人形を見て、自分をオーバーラップさせます。当時、札幌市はゴミの扱いが緩やかで、ゴミ捨て場にはさまざまなものが捨てられていました。それ以降、坂館長は、それらを拾い集めて再生することに没頭します。

「古くなったというだけで、まだ使えるのに捨てられてしまう。そうしたものを集めてみたくなりました」

使えるものを捨てるように仕向けられていないか?

館内の展示品の多くは、再び使えるように修理されています。「政府はアナログ放送の終了によって、これまでのテレビは使えなくなると言っていましたが、本当は少し改良すれば十分使えるのです」と坂館長。その説明通り、家具調テレビのブラウン管には、リアルタイムの放送が映し出されていました。

「今の家電は修理ではなく部品交換です。その部品も数年後には生産中止となり、買い替えを余儀なくされます。これは、資源の無駄であり、技術力の衰退です」と、坂館長は憤ります。

坂館長は、捨てられた物に対して独自の感性で命を吹き込んでいます。人形は子どもたちが乱暴に扱っていたのか、髪が短く切られていて、ところどころ傷ついていました。人形が縛られているのは、傷をカモフラージュするため。「SM趣味」と言われることもあるそうですが、それが真実なのです。

寄贈されたものも多数展示されています。女性のポスターは、ある男性が大切にしていたものですが、家族の手前、家に置いておくことができず、坂館長に譲られました。「レトロスペース・坂会館」に来れば、このポスターの女性にいつでも会うことができるというわけです。

生と死を考えさせられる空間

館内の一角に展示されているのは、“戦争と性”をテーマとしたもの。戦争は死を意味し、性は生きることを意味しています。戦地に赴いた人たちは、女性のぬくもりを感じるためにセクシーな写真を懐に忍ばせていたそうです。戦没者への慰霊としての展示であることが伝わりました。

坂館長は模型を前にして、当時の日本が玉砕ありきであったことを説明します。「零式艦上戦闘機は軽量に作られていたので、装甲が弱く戦闘に不向きだったと考えます。世界最大かつ最強と呼ばれた戦艦大和は、アメリカの戦闘機の攻撃に対応できず、2時間足らずで沈没しました」

「戦争とは本人の意思に反して命を失うこと。こんなことは二度と繰り返してはいけない。現在の日本は危ない方向に向かっている」と、坂館長は警鐘を鳴らします。

戦争と性を一緒に展示しているため、時代的背景を理解していない人から「いかがわしい」などと言われることもあるそう。クレームをつける前に「なぜ?」という疑問に向き合ってほしいです。

 

「レトロスペース・坂会館」の展示品はすべて、ここに存在する意義があります。その噂を聞きつけた坂本龍一さんや、シンガーの一青窈さんも訪れたそうです。ぜひ坂館長の頭脳の中に迷い込んだようなディープな世界を体験してください。

*トップ画像・・・館長と副館長

<施設情報>
■レトロスペース・坂会館
■住所:北海道札幌市西区二十四軒3条7丁目3-22
■電話番号:011-632-5656
⇒営業時間など詳細はこちら

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