北海道十勝ポップコーン

全滅させたことも…試練乗り越え、十勝土産の新定番に。「北海道十勝ポップコーン」ができるまで

十勝の北部に位置し、“豆の町ほんべつ”として知られる本別町。この地で1899(明治32)年に開拓し農業を営んできた「前田農産食品株式会社」。代々続く農業を受け継ぎつつ、新たな挑戦に取り組んでいる前田茂雄さんにお話を伺いました。

前田茂雄(まえだ・しげお)1974年本別町出身。東京農業大学卒業後、テキサスA&M大学、アイオワ州立大学にて米国の大規模農業経営や流通を学ぶ。1999年「前田農産食品合資会社」入社。4代目として本別町で就農。

ポップコーンをやってみようと思ったきっかけ

現在、十勝のあちこちのスーパーや土産物店で見かける『北海道十勝ポップコーン~黄金のとうもろこし畑~』。電子レンジで手軽にポップコーンを作ることができる、美味しくて楽しい商品です。

この商品を開発したのが前田さん。理由は、「北海道のとくに寒い地方なら多くの農家さんが抱えている悩み、冬の雇用問題に関して解決したかったから」。とはいえ、単に仕事を作るだけの理由ではポップコーンをやろうとは思いませんでした。

何よりも大切にしたのは、“わくわくするかどうか”。ポップコーンといえば“映画”や“パーティー”、楽しいイメージに囲まれている食品です。ポンポンはじける様子もまた楽しく、自分の農場で育ったものが食卓で楽しんでもらえるという、1次産業から6次産業化までの一連の流れが自分の農場でできるところに魅力を感じたそう。

当時、国内産で流通しているポップコーンがなかったのも背中を押すポイントになりました。「国内産が北海道十勝から生まれる!」と夢が広がったそうです。

農家が作物を全滅させるという初めての経験

そうして取り組み始めたのが2013(平成25)年。最初はうまくいかないことの連続でした。

まずは栽培。早速やってみたものの、芽は出たけど高さはそろわない。なんとか実がなったものの、はじけない。とりあえず口に入れてみたら、食べたことのない味に閉口されたとか。一緒に味見をしたスタッフからは「1年やってきてどうしてこんなにまずいんですかね?」と言われ、前田さんは一生懸命草取りをしてきたのに無知なる努力だったことがスタッフに対して申し訳なく、「このまま諦めちゃだめだ!」と気持ちを奮い立たせました。代々続く農家が作物を作ってひとつも実らずに全滅させるという初めてのことだったそうです。この年は14トンものポップコーンを廃棄することになりました。

そこで翌年2014(平成26)年、前田さんはアメリカへ渡ります。アメリカ国内のポップコーン農家さんの中で最北端の1万平方メートル近くのポップコーン畑をしている農家さんを訪ね、学び、収穫のお手伝いをしました。

そこで得た大きなヒントが“マルチング(マルチ)*を使う”という方法です。十勝の4月と5月の温度が、爆裂種のとうもろこしにとっては低いため、マルチで覆うことで地熱を上げ成長を促します。しかし回収には、想像を絶するほどの労力がかかり、ごみの量も膨大……。そう思っていたら、生分解性のマルチがあることを知り、早速使ってみました。生分解性のマルチとは、1か月半~2か月で溶けて土になるマルチング材のことです。

*マルチング・・・畑のうねをビニールシートやポリエチレンフィルム、ワラなどで覆(おお)うこと(消費・安全局消費者行政・食育課「消費者の部屋」農林水産省より引用)

これを試したところ、しっかりと実がなり、「これで大成功!?」と思いきや……。確かにはじけたのですが、小さく、全く美味しくない……。その原因は急激な乾燥方法によるものと確信。結局この年も13トンものポップコーンを廃棄することになりました。

2年続けての失敗。スタッフや妻・晶子さんからも不安の声が上がります。それでも、やり出したからには達成したい前田さん。もう一度アメリカへ飛び、今度は収穫時の水分や乾燥機での水分の飛ばし方など、主に乾燥に関することを学びました。

さらに、道内で新たな出会いが。

あるお豆腐屋さんで聞いた、「同じ豆の品種でも乾燥の方法によって豆腐の歩留まり(ぶどまり。 加工する場合の、使用原料に対する製品の出来高の比率)が全然違う」という話。前田さんは、「本別でも同じ豆を作っているのに何がそんなに違うのだろう」と疑問に思い、その豆を扱っている農協へ出向き、新たな方法を学びました。それが“小麦と一緒に乾燥させる”という手法です。

乾燥機の中に小麦があることにより、乾燥しすぎずちょうどいい水分量が保たれます。「前田農産食品株式会社」はもともと小麦農家。規格外の小麦が倉庫にたくさんあります。「これを使わない手はない」と、すぐに小麦とポップコーンを一緒に乾燥させてみました。そして実食。自宅のフライパンで炒ってみたら、見事にポンポンはじけました。「成功だ!」と実感した瞬間です。

と、同時に「工場がいる」と確信した前田さんは、ホームセンターで材料を買い込み、スタッフと共に作業場を造りました。ポップコーンに油と塩をまぶして袋詰めする工場です。全天候型のため、雨の日や冬場の仕事として最適です。

作業場の窓は地面から100cmの高さにあります。これは小学校低学年の子どもたちにも中が見える高さ。「種から育ち、どうやって製品になっているのかを地元の子どもたちに見せることで、農業というものの広がりを伝えたかった」と前田さん。作業をしている人たちにも、見られることで仕事に対しての適度な緊張感や責任感が生まれるという効果もあるようです。

「北海道十勝ポップコーン」販売開始!

商品ができたら次は販売です。2016(平成28)年4月に中小企業家同友会にて商談会があり、そこで大手の食品販売チェーンの方と出会いました。晶子さんが話しかけたところから始まったお話だそう。得意ではなかった小売り部分の歯車が回り出した瞬間です。

今期の販売数は80万個。最初の年は8万個だったとのことで、すでに10倍になっています。現在は『ミリオンポップスマイルプロジェクト』と名付け、100万個の製造・販売を目指しています。

2022(令和4)年秋には新工場も完成しました。1階は倉庫と工場、2階には見学エリアと広いエデュケーションルーム(研修室)があり、とてもゆとりのある造りになっています。工場にはまだ真っ暗な、電気のコードだけが吊り下がった何もないエリアもありました。

「空間に余裕を持たせることで考え方にも余裕ができる」と前田さん。未来構想はどんどん広がっているようです。現在、工場見学はできませんが、「いずれは学生の受け入れをしてエデュケーションルームを大いに活用したい」と少しだけ未来構想の一部を話してくれました。

新しい味も考案中

来年春にはキャラメル味も発表します。「北海道の砂糖を使用し、地元大学と一緒に共同開発という形で味を調整中です。香料を使わず、優しい甘味でコーンの味を感じてもらえるものを目指しています」と晶子さん。

筆者も「ほぼ最終段階」というキャラメルポップコーンを味見させていただきました。コーンの味にあとから砂糖の甘さとキャラメルの香りを感じる絶妙なバランスで、淹れてくださったコーヒーと一緒に美味しくいただきました。

 

前田さんのお話を伺う中で、農家としての役割、加工者としてのこだわり、そして販売者としてのやりがい、それぞれを体当たりで学び実践してきた「前田農産食品株式会社」のみなさんの努力や苦労、喜びに触れ、たくさんのパワーをもらいました。

元気の出る赤いパッケージに印刷された北海道のマーク。電子レンジの中でポップコーンがはじけるとともに袋が膨らみ、北海道のマークが持ち上がります。前田さんが袋のデザインを考えた時に大切にした「北海道をもっと元気にしたい」という想いが、何とも言えない幸せの香りと共に全道に、そして全国に広がっていきます。

<会社情報>
■会社名:前田農産食品株式会社
■所在地:北海道中川郡本別町弥生町27-1
■電話番号:0156-22-8680
■HP:https://www.co-mugi.jp/

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