北海道経産局池山局長インタビュー

宇宙港がゲームチェンジャー!? 暮らしを変える宇宙利用の実態とは 【経済産業省北海道経済産業局・池山成俊局長インタビュー】

北海道の未来を伝える新連載「HOKKAIDO2040」。2040年には100兆円の市場規模になるといわれている宇宙産業。これまで『北海道Likers』でも取り上げてきたように、北海道では大樹町を中心に宇宙産業が盛り上がりをみせています。本連載では、北海道の宇宙産業の発展をリードする方々にインタビューを行い、宇宙産業を通して変化する未来、2040年の北海道の姿をお届けします。

今回は北海道経済産業局(以下、経産局)の池山局長にお話を伺いました。

池山成俊(いけやま・しげとし)。1967年徳島県生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年4月に通商産業省(現:経済産業省)入省。日本貿易振興機構(JETRO)やOECD国際エネルギー機関(IEA)での業務等を経て、前職では農林水産省大臣官房輸出促進審議官として北海道をはじめとした国内農産品の海外輸出促進に従事。2021年5月から2022年6月まで北海道経済産業局長を務める。

※取材はマスク着用のうえ十分な距離を確保したうえで実施しております。
※記事中の役職名は取材当時のもの

北海道の企業を支える経産局の仕事とは

北海道Likersライター遠藤 嵩大@ISC(以下、遠藤):まずは経産局の仕事内容を教えていただけますか?

池山局長:企業を支え、企業が経済活動をしやすい環境を整えることで、経済活動を活発化させ、北海道の経済を発展させる仕事です。

様々な分野で取り組みをしていますが、新産業をつくることにも取り組んでいます。その中で、北海道にとって重要だと考えているのが宇宙産業です。

北海道Likersライター遠藤:北海道における宇宙産業のポテンシャルについてはどのように考えていますか?

池山局長:ポテンシャルは大きいと考えています。そう考える理由は5つです。まずは地の利が挙げられます。ロケットの打ち上げに理想的な土地で、2023年には「北海道スペースポート(以下、HOSPO)」の新たな射場が完成する予定です。今後それを拡充していくための広大な土地もあります。

2つ目は、様々なプレイヤーがすでにいるということです。ロケット開発のスタートアップである「インターステラテクノロジズ株式会社(以下、IST)」がまさにそうですし、ISTと連携している、もしくは今後連携していく可能性のある企業もあります。また、道内の大学においても宇宙について研究されている方々がいます。

さらに3つ目は、ユーザーがいることです。例えば、第一次産業においては衛星データの活用がすでに始まっています。さらに、エネルギーやインフラなどの領域にもユーザー候補がいて、ニーズがあることがわかっています。

4つ目は、大学や高専を中心に人材を育成できる体制ができている点。そして5つ目は、地域一体で進めていこうという共通理解があることです。大樹町のような自治体もそうですし、北海道庁、さらには経済界の北海道経済連合会(以下、道経連)も、宇宙ビジネスに取り組むことをビジョンとして掲げています。

以上の5つのことを踏まえて、北海道における宇宙産業は可能性が大きいと考えられるのです。

北海道経済連合会・真弓明彦会長インタビュー記事はこちら

「HOSPO」が北海道を変える?想定される影響とは

北海道Likersライター遠藤:1つ目にロケットの射場である「HOSPO」の存在が挙げられました。「HOSPO」の誕生が北海道に与える影響についてどうお考えですか?

池山局長:「HOSPO」は北海道を大きく変える“ゲームチェンジャー”になると期待しています。これからさらに射場が整備されると、国内外問わず企業や研究機関が道内に拠点を構えるようになると考えられます。「HOSPO」が核となり、産業と研究の集積への引力が生まれる。集積が進むことで、研究を支えるサービスや、観光、教育などにも波及していくでしょう。

北海道Likersライター遠藤:「HOSPO」を中心に十勝が宇宙産業の中核になり得るということですね。「HOSPO」、大樹町では『宇宙版シリコンバレー』を目指していますが、その実現のためには何が必要だと考えていますか?

池山局長:アメリカのシリコンバレーが成功している要因は、しっかりとしたエコシステムができあがっていることだと思います。『宇宙版シリコンバレー』においても同様に、エコシステムをつくっていくことが重要ではないでしょうか。

つまり、「HOSPO」を中核として、ヒトやモノ、カネが集まってきたときに、それらを有機的に結びつけなければならないということです。経産局としては、エコシステムを支えるプレイヤーの育成支援や、プレイヤー同士のマッチング支援などに取り組んでいきます。

北海道Likersライター遠藤:プレイヤーへの支援がメインになるのでしょうか。さらに具体的に教えてください!

池山局長:まずプレイヤー支援についてですが、経済産業省の補助金には、戦略的な技術開発を支援する制度や、部品などを開発する中小企業に対して『ものづくり補助金』として設備投資の支援をする制度もあります。これらを活用して支援を行います。

プレイヤーに加えて、ユーザー側の支援も可能です。ユーザーとして想定される第一次産業の従事者や自治体の方々に対する、衛星データ活用の実証実験やアプリケーション開発支援も行います。

さらに、有機的なつながりをつくっていくために、情報発信にも力を入れます。企業活動の発信や企業同士のマッチングイベント開催など、これまで経済産業省として取り組んできたことがある領域で、宇宙産業を支援していきます。

北海道Likersライター遠藤:これまでの企業・産業支援の取り組みを宇宙産業にも展開していくということですね。

池山局長:はい。経産局として支援の動きを本格化させたいと考え、2021年に宇宙産業支援のために局内で新しい役職をつくりました。2022年6月には宇宙産業に関わるプレイヤーやユーザーの利用状況について実態調査*を実施したので、結果を踏まえて次のアクションを決めていきます。

*道内の宇宙関連産業の実態調査結果(北海道経済産業局)

宇宙を身近に感じることができる地域を目指して

北海道Likersライター遠藤:これからの取り組みを伺いしました。最後になりますが、今回の取材テーマでは“2040年の北海道”です。2040年には北海道がどのような地域になっていて欲しいか、お聞かせください。

池山局長:予想するのは難しいですが、例えば道経連も2040年の宇宙利用の姿をまとめています*し、宇宙ビジネスが本格化しているのではないでしょうか。

実は昔、「ケネディ宇宙センター」*に行って、スペースシャトルを見たことがあるんです。宇宙に行けることを身近に感じ、そして未来を感じました。これから大樹町が、身近に宇宙や未来を感じられる地域になると信じています。今もポテンシャルはありますが、さらに明るい希望を持てる地域になるといいですね。

また、宇宙産業は若い世代の活躍の場になるでしょう。「北海道は人材育成ができている」という話をしましたが、道外への流出が多い状況です。宇宙産業が盛り上がることで、就職等での道外流出が減ったり、若い人たちが北海道で活躍することができるようになると思っています。

*宇宙産業ビジョン(北海道経済連合会)
*ケネディ宇宙センター・・・アメリカ合衆国フロリダ州にある、アメリカ航空宇宙局 (NASA) のフィールドセンターの一つ。有人宇宙船の発射場などを備える。

北海道Likersライター遠藤:経産局として宇宙産業の発展を支援することが、宇宙を身近に感じること地域づくりにつながり、さらには若い世代が活躍できる北海道を目指していくのですね。ありがとうございました!

連載「HOKKAIDO 2040」では、”2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマとして、大樹町を中心に盛り上がりを見せている宇宙産業関係者へインタビュー。宇宙利用によって変わる北海道の未来を広く発信します。連載記事一覧はこちらから。

【参考】道内の宇宙関連産業の実態調査結果/北海道経済産業局
宇宙産業ビジョン/北海道経済連合会