宇宙を使ってバスを動かす!? 北海道のインフラ整備と宇宙産業の関係とは【国土交通省北海道開発局・橋本幸局長インタビュー】
北海道の未来を伝える新連載「HOKKAIDO2040」。2040年には100兆円の市場規模になるといわれている宇宙産業。これまで『北海道Likers』でも取り上げてきたように、北海道では大樹町を中心に宇宙産業が盛り上がりをみせています。本連載では、北海道の宇宙産業の発展をリードする方々にインタビューを行い、宇宙産業を通して変化する未来、2040年の北海道の姿をお届けします。
今回は、北海道のインフラ整備を担う国土交通省北海道開発局(以下、開発局)の橋本幸局長にお話を伺いました。
橋本幸(はしもと・こう)。1992年北海道開発庁入庁、国土交通省北海道開発局建設部道路計画課長、北海道開発局小樽開発建設部長、北海道旅客鉄道株式会社執行役員総合企画本部副本部長、国土交通省北海道開発局長などを歴任し、2022年6月より国土交通省北海道局長。
※取材はマスク着用のうえ十分な距離を確保したうえで実施しております。
※記事中の役職名は取材当時のもの
実は北海道の食も支える!? 北海道開発局の仕事とは
北海道Likersライター遠藤 嵩大@ISC(以下、遠藤):まずは開発局について仕事の内容を教えてください!
橋本局長:主にインフラの整備を行っています。より具体的には、13の一級水系*における防災、国道と高規格道路(高速自動車国道、及び一般国道の自動車専用道路)、港、漁港の整備に加えて、灌漑(かんがい)や土地改良などの農業基盤の整備を実施しています。
北海道Likersライター遠藤:農業基盤もなんですね? 農林水産省がやられているイメージを持っていました。
橋本局長:本来は農林水産省が管轄している領域ですが、戦後少しでも効率的に開発を行うために開発局が担った背景があります。
実は北海道には弥生時代がないといわれています。寒すぎるのと土壌が悪くて米が作れなかったためです。今では「北海道の米は美味しくなった」「品種改良のおかげだ」といわれていますが、開発局からすると少しさみしいところがあって(笑) 土壌の改良も行って稲が育つ基盤を整備してきたからなんです。
北海道Likersライター遠藤:なるほど。美味しい北海道産米の裏には開発局による貢献もあったのですね。
*一級水系・・・1965年に施行された河川法によって、国土保全上又は国民経済上特に重要な水系で政令で指定されたもの(国土交通省公式ホームページより引用)
宇宙からの位置情報の活用で暮らしを守る
北海道Likersライター遠藤:2022年4月に「HOSPO(北海道スペースポート)」が誕生し宇宙産業も盛り上がりをみせていますが、北海道での宇宙産業のポテンシャルをどのようにお考えでしょうか?
橋本局長:直接的、間接的な影響があり、どのくらいのものに成長していくのか想像しきれない部分もありますが、非常に大きなポテンシャルを持っていると考えています。
北海道Likersライター遠藤:開発局では具体的にどのような宇宙の活用を想定されていますか?
橋本局長:宇宙からの“位置情報”がインフラ整備などにおける生産性向上のための強力なツールになると考えています。たとえば除雪など、生活を維持していくために現状は人の手に頼らざるを得ない仕事がありますし、利便性を保つためのインフラ整備において人手不足は深刻です。また、農業王国といわれる北海道ですが、農業に従事する方々も減っています。そういった背景から、人手不足を補い、生産性を向上させるという観点で宇宙からの位置情報の利用が必要です。
具体的な位置情報の活用についてですが、まずは最近注目されている“スマート農業”が挙げられます。広い農場での自動農薬散布やトラクターの自動操縦などは位置情報によってコントロールが可能になります。また除雪車についても位置情報をもとに雪を捨てる場所を決めるために活用することが想定されています。そういった機械を動かす場面での活用に使われるのでしょうね。
北海道Likersライター遠藤:バスの自動運転について、大樹町で実証実験*をされていました。
橋本局長:はい。実はバスの運転手の人手不足も深刻です。長距離バスの運転手不足についてはよくクローズアップされますが、路線バスも同じ状況です。我々としては地方部でどのように利便性を保っていくかという観点で、バスの自動運転の実証実験を大樹町で行いました。この技術は冬の雪道でも活躍してくれるでしょうし、今後社会実装を進めていくかたちになります。
*国土交通省は、内閣府SIPの枠組みの中で、高齢化が進行する中山間地域における人流・物流の確保のため、「道の駅」等を拠点とした自動運転サービスの2020年までの社会実装を目指し、平成29年度から実証実験を行っている(「自動運転の実証実験に関するお知らせ」 / 大樹町
インフラを整えて宇宙産業を後押し
北海道Likersライター遠藤:開発局として宇宙産業の推進のために取り組まれることはありますか?
橋本局長:インフラを整えることで貢献できると考えています。2022年3月に豊似~広尾間の高規格道路の事業化が決まりました。この道路が十勝港に直結しています。
現在は飼料を主に運ぶのに使っている十勝港ですが、実はスペックの高い港で、まだまだ稼働余地がありますし、大型のタンカーが入ることが可能です。これからロケットの開発などにあたって必要な部品など重たいものを運ぶことになると思いますが、十勝港を使えばこの道路を通ってロケットの射場がある大樹町までアクセスできるようになります。こうした、インフラ整備による物流面での支援や新たなビジネス機会の提供でプロジェクトに貢献していきます。
北海道Likersライター遠藤:今回は“2040年の北海道”をテーマにした連載です。20年後の北海道がどうなっていてほしいか、お聞かせください。
橋本局長:あくまで理想であって現実には難しいのかもしれませんが、私たちが「生産空間」と呼んでいる地方部にお住まいの方々がそこに住み続けている状態、現在の食や観光の価値が引き続き生み出されている状態であればいいなと思っています。また、世界の目標となったカーボンニュートラルに対して、移動手段や産業活動が脱炭素型になって、あらゆる人が低炭素社会の実現に貢献できている世の中にならなければいけないだろうなと考えています。
北海道Likersライター遠藤:インフラを整備することで、今ある暮らしの利便性を守り、環境にやさしい社会の実現を後押しされていくのですね。ありがとうございました!
連載「HOKKAIDO 2040」では、“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマに、大樹町を中心に盛り上がりを見せている宇宙産業の関係者へインタビュー。宇宙利用によって変わる北海道の未来を広く発信します。連載記事一覧はこちらから。
【参考】水管理・国土保全「よくある質問とその回答(FAQ)」 / 国土交通省
「自動運転の実証実験に関するお知らせ」 / 大樹町
【画像】北海道スペースポート