手つかずの森をキャンプ場に。廃業寸前の温泉旅館を継いだ元プロレスラー【北海道三笠市】
三笠市の森の奥深く、人里離れた場所に「湯の元温泉旅館」はあります。オーナーの杉浦一生さんは、『ブルート一生』のリングネームで全日本プロレスのリングに上がっていたレスラー。
旅館周辺の雑木林を切り開き、自然に浸れるキャンプ場も併設。札幌から車で約1時間の“夢のすぎうらんど王国”を紹介します。
障害者雇用の場を作るために旅館を引き継ぐ
「湯の元温泉旅館」は、桂沢ダム建設の寄宿舎として使われていた建物を、初代のオーナーが買い取って改築し、温泉宿に転用しました。桂沢ダムは1951年に着工し、1957年に完成しましたが、完成後も石狩川流域が度々水害に見舞われたため、その後も新たなダム工事が進められていました。
そのような事情から、宿泊客のほとんどがダム建設の関係者。数十年にも及ぶ大工事のため、お客さんが絶えることはありませんでした。
しかしダムが完成するに近づき、ダム建設で成り立っていた旅館は経営のピンチに立たされます。そこでオーナーは考えました。「誰か旅館を買い取ってくれないだろうか……」
ケガのためプロレスラーとしての選手生命を絶たれた杉浦さん。精神に障がいを持つ方を雇用する輸送の仕事を経て、関東で障がい者のグループホームを運営していました。
諸事情により退職後、故郷の岩見沢に戻り、地元で障がい者の雇用支援サービスを計画していました。そこで杉浦さんは考えました。「どこかに適切な物件はないかな……」
そんな両者がマッチング。2019年5月、「湯の元温泉旅館」は、4代目経営者となる杉浦さんに引き継がれました。
地元の人が気付かなかった三笠の魅力
旅館を承継した杉浦さんは、別館を障がい者のグループホームに転用し、入居者10人のうち3人をスタッフとして雇用して、旅館再生の準備を着々と進めます。そんなある日、旅館の裏に手つかずの森があるのを見つけ、キャンプ場を作ることを思いつきました。
かつて三笠は炭鉱で賑わっていました。今でも街全体が産業遺産と呼べるほど、石炭で栄えたころの面影が残されています。ほかにも、レストラン形式の調理実習を行う『北海道三笠高等学校』や、鉄道の歴史を今に伝える『三笠鉄道村』、豊富な化石を展示する『三笠市立博物館』など見どころがいっぱい。スキー場やワカサギ釣り、ワインも生産しているなど、観光資源が溢れています。
「数々の魅力も、三笠の人たちには見慣れた風景なので、それに気づかないのだと思います」と杉浦さん。
ソロキャンプに最適なキャンプ場をオープン
草に覆われた裏山には、ログハウスや池、ご神木のような木がそびえていました。
キャンプ場を作るために、杉浦さんは自ら木を切り笹を刈りました。SNSでその様子を発信したところ、「それでは一生かかっても終わらない」と隣町の人が重機を持ってきてくれて、一気に作業完了。“夢のすぎうらんど王国”が完成しました。
10区画あるテントサイトは、あちこちに分散し、いずれもコンパクト。「近くにファミリーキャンプ場があるので、ここは一人の時間を楽しめるように考えました」と、杉浦さんは言います。
車の乗り入れは可能ですが、オートキャンプ場のような電源などはありません。トイレや水場はすぐそばの旅館の設備を使うなど、少々不便な面はありますが、本来キャンプは自然を楽しむもの。この日訪れていたキャンパーたちは、池のほとりで読書をしたり、焚火の火を見つめていたり、思い思いの時間を過ごしていました。
キャンプ場には、ツリーハウスや木立を利用したハンモック、遊具などが設置され、遊び心に溢れています。アウトドア好きのため、雪中キャンプもできる通年営業です。
「凍えそうになったら温泉に入り、我慢できなくなったら旅館に泊まればよい」という安心感は旅館併設ならでは。
自慢の温泉は、単純硫黄冷鉱泉で、神経痛・関節痛・慢性皮膚病等に効能があるといわれています。露天風呂に浸かっていると、野鳥の声が聞こえてきました。
名物の「合鴨鍋」をキャンプ場で味わう
風呂上がりに、名物の『合鴨鍋』をいただきました。厳選された良質な鴨肉を使用したボリュームたっぷりな料理です。先代から引き継いだ醤油ベースの出汁は、合鴨肉と相性抜群。豆腐は地元の豆腐屋から仕入れるなど、地産地消にもこだわっています。
『合鴨鍋』は、テイクアウトしてキャンプ場で食べることもできます。ちなみにキャンプ場では、旅館に併設されているメリットを生かして、生ビールをデリバリーするサービスも行っているそう。「本来キャンプは自然を楽しむもの」などと言ったあとに世俗的な話をするのは恥ずかしいですが、お酒が好きな人にとってこの利便性は嬉しいですね。
北海道を中心に興行している『北都プロレス』では、杉浦さんそっくりなレスラー『北海熊五郎』が暴れています。
杉浦さんは「それは自分ではなく、“湯の元温泉旅館”の裏山に出没する熊五郎を連れて行っているだけ」と言い張っています。もし近くで興行が開催されたら、その真相を究明してみてください。
<施設情報>
■湯の元温泉旅館
■所在地:北海道三笠市桂沢94
■電話番号:01267-6-8518
⇒ホームページなど詳細はこちら
【画像】湯の元温泉旅館
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