堀江氏

堀江氏らが語る、世界の宇宙ベンチャー最新動向!北海道宇宙サミット2021・カンファレンス【Session1・全文掲載】

2021年11月4~5日で行われた、北海道発の宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2021」。2日目に行われたカンファレンスでは、日本で宇宙に携わるキーパーソンが一堂に会し、さまざまな熱い議論が交わされました。

今回は、Session1「世界の宇宙ベンチャー最新動向」の内容をお届けします。

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登壇者:

Our Stars株式会社 代表取締役社長/インターステラテクノロジズ株式会社 ファウンダー堀江貴文氏

株式会社Synspective執行役員/一般財団法人日本宇宙フォーラム宇宙政策調査研究センターフェロー 淺田正一郎氏

一般社団法人Space Port Japan 代表理事 山崎直子氏

インターステラテクノロジズ株式会社 代表取締役社長 稲川貴大氏(モデレーター)

登壇者紹介

司会:みなさまお待たせいたしました。準備、整いました。始めさせていただきます。Session1、sponsored by 萩原建設工業「世界の宇宙ベンチャー最新動向」。なお、本セッション登壇予定でした経済産業省宇宙産業室長・是永基樹様ですが、ご都合により本日欠席となります。

それではご登壇者のみなさまの入場となります。みなさま拍手でお迎えください、よろしくお願いいたします。

稲川氏

©北海道宇宙サミット2021

稲川氏:インターステラテクノロジズ株式会社(以下、IST)の稲川です。本日私がモデレーターということで、ロケットについてはいくらでも喋りたいんですが、また後のセッションで喋りたいと思いますので、本日はパネリストの方々に話を聞いていきたいと思います。

まず最初に簡単に自己紹介をそれぞれしていただきますけれども、簡単に最初私からですね。IST代表の稲川です。

私自身ロケットのエンジニアとして、今打ち上げている『MOMO』の設計から開発、リードしてきたエンジニアでもありますけれども、経営側として2013年にISTという会社を立ち上げて、大樹町本社を置きました。最初は本当に前のコープが閉店したところを改装してロケット工場を作り、プレハブでした。そして今、新工場ができて、ロケット開発をどんどん進めているところになります。

本日非常にすごくメジャーな方々が、セッション1でパネリストに来て頂いているので、まず順番にこの流れで、淺田さんから自己紹介していただければと思います。お願いします。

淺田氏:おはようございます。淺田と申します。人工衛星、レーダー衛星を作って運用しているSynspective(シンスペクティブ)という会社、それから一般財団法人日本宇宙フォーラムのフェローをしています。実はSPACE COTANの顧問もやらせていただいています。こういったことにつながる背景として、元々三菱重工でずっと日本の基幹ロケットの開発をやってきて、最後の方はH-IIAロケットのビジネスをやっていました。

その経験もあって、例えばISTさんの『MOMO』の設計レビューとかもやらせてもらっていますし、いろんな登壇者のなかでユニークなのは、私はロケットの開発もやったし今は人工衛星のほうもやっているので、打ち上げるほうと、人工衛星と、両方経験しているところがたぶんユニークかなと思っています。よろしくお願いします。

稲川氏:本当に淺田さんはロケットの専門家としても超一流なんですけれども、現状、衛星から宇宙利用までさまざまやられているというところです。続いて堀江さん自己紹介お願いします。

堀江氏:はい。IST設立からずっと関わっておりまして、もうかれこれ2005年の暮れぐらいからそんな話をしていました。ロケット作り始めたのは2006年です。法人化したのは2012年かな?2012年ですね。で今に至ると。最近のロケット打ち上げ会社は人工衛星も飛ばす傾向が強いので、Our Starsという子会社も作りまして、そこのCEOもやらせて頂いております。

稲川氏:続いてオンラインで、宇宙飛行士の山崎直子さんにご参加頂いております。山崎さん自己紹介お願いします。

山崎氏:みなさんこんにちは。山崎直子と申します。今日はオンラインで参加させて頂いております。

2010年に国際宇宙ステーションの組み立て補給ミッションに参加したあと、現在は内閣府の宇宙製作委員会委員という形で制作面から宇宙に関わっていたり、宙ツーリズム、スペースポートジャパン、次世代の宇宙教育、アースショット賞(環境の賞)、あるいは万博関係だとか、宇宙を身近にする活動をしたいなと思っています。

私自身はロケットというよりはそれに乗る人工衛星的なユーザーの立場なんですけども、その視点から今日はお話しできればと思います。よろしくお願いいたします。

稲川氏:本当に宇宙飛行士の活動以外にも、宇宙を身近にする活動さまざまやられているのが山崎さん本当に凄いところだなと思って見ております。よろしくお願いいたします。それでは始めて行きたいと思います。

世界の宇宙ビジネスの現状

稲川氏:最初にこの「世界の宇宙ベンチャー最新動向」のセッション、今宇宙ベンチャー非常に盛り上がっています。少し前、宇宙業界「官から民へ」がひとつのキーワードでした。これまで国だけがやっていた宇宙開発が、どんどん民間企業に開かれていくようになってきた、大きな時代の流れがあります。

すでにこの最新という意味で言うと、民間企業がどんどん出てきている、そういう時代になってきています。徐々に民間企業が始まったという段階から、かなり研究開発のメインストリームを民間企業が担うようになってきた、特に新興企業であるベンチャー企業が出てきました。最近の宇宙ニュース、どれだけあったかなとちょっと振り返りながら見てたら、もうちょっとここで紹介しきれないぐらい大量にあって。特に今日パネルで出ていただいている方々に「これが気になる」とか「これが今熱い、すごい」みたいなところをご紹介いただければと思っております。

私の立場から、ロケットで言うとISTが今年の7月に『MOMO』6号機・7号機、2期連続で打ち上げしようと思ったその日に打ち上げるので、ひとつ大きなマイルストーンを達成できて、観測ロケットがひとつ商業化に大きく道を開いたのが私自身の宇宙ベンチャーとしての最近の動向です。

ZEROのバルーン

©北海道宇宙サミット2021

入り口のところにも『ZERO』のバルーンのモックアップを置いていましたけれども、あの機体も着々とコンポーネント開発しているような、まあざっくりとそういう話があるんですけども、ここでは世界の宇宙ビジネスの現状ということで、まずは淺田さんの方からご紹介いただけますでしょうか。

淺田氏:先ほど私は三菱重工にいましたと言いましたけど、もうずっと宇宙やってきて、「もういいかな」と。次のこと違うことやりたいなと思っていたんですけど、2015年に会社を辞める時に、カリフォルニア・シリコンバレーの「Small Satellite Conference」に参加しました。その「Small Satellite Conference」に参加してびっくりしたのが、宇宙の使い方がもうガラッと変わっているんだなと、すごい衝撃を受けました。

それから日本で、いろんな宇宙ベンチャーを探していて、そう意味でSynspectiveという会社にたどり着きました。宇宙って今まで、例えば静止衛星から放送衛星とか通信衛星とか、それから気象衛星とか、そういった使い方が主流だったのがもう全く違う使い方、例えばみなさんGPSの電波を受信して位置を把握していますけど、そのGPSの電波が大気を通過するときに少し歪むんですね。擾乱を受けるんですよ。それを地上で受けた時に逆算して、「その大気の状態はどうだ?」というのを、そういうのを調べる人達がいるんです。そのための人工衛星を上げている人たちもいる。

これは「GPS掩蔽効果」っていうんですけど、え、こんなことやっているんだっていう人もいるし、それから キューブサットという、山崎さんが出られた中須賀さんの研究室が日本でも最初に上げていますけど、10cm角のちっちゃい衛星なんです。つまり大学でも作れるような衛星なんです。「これって研究レベルだよね」って思ったのが実はもう商業に使われているんです。例えばSpire(スパイア)っていう会社がありますけど、3ユニット10 cmの衛星3つぐらいつなげて、これで工学衛星にしているんですけど、もう100機以上上げているんですよ。それで地球をかなりリアルタイムに近い感じで観測しているとかですね。

それから、最近の面白いのが例えばブロックチェーンでは、データマイニングを人工衛星でやってしまう人もいるんです。いろんな衛星の使い方が出てきて、これまでの常識といいますか、政府系でやってきた宇宙開発とは全然違う様相が出てきたなっていうのを私は感じています。それでこれからはそういったもっと動きの早いベンチャーで活躍したいなと思って今に至っているわけです。

稲川氏:ありがとうございます。宇宙ロケット、人工衛星の大専門家である淺田さんから見ても、やっぱりこのキューブサットだとかスモールサット、マイクロサットと言われる世界は非常にびっくりするような状況だったっていうのがひとつ大きなところかなって話を聞いてて思いました。続いて堀江さん、世界の宇宙ビジネスの現状ということで、お願いします。

堀江氏:なんでこんなに流れになっているかと言うと、アメリカの動きは非常に大きくて、アメリカという国は非常に合理的な国だなと思うのは、今我々がインターネットで使っているような、例えば公開鍵暗号の仕組みだったりとか、ロケットもそうなんですけれども、アメリカで開発された技術は結構あって。それが世界に拡散してしまうのを最初は防ぐんだけど、すごい強烈な輸出規制をかけてそれを輸出できないようにするんです。なので公開鍵暗号システムも、1980年代の末までは世界に輸出できないようになっていたんですけど、あるやり方で、それをすり抜けて輸出した人たちがいて。そしたら今度はRSA暗号って言うんですけど、それを世界に売っていこうということで、RSAデータセキュリティという会社ができたり、ベリサインという会社ができたりして、みなさんが今ECサイトで使ってるあの鍵付きマークのところっていうのは全部その公開鍵暗号の仕組みで暗号化されて安全に通信することができる形になっています。

ロケットも同じで、1986年かな?

稲川氏:87年。

堀江氏:コマーシャルスペースアクトという法律がアメリカで成立します。これは、民間宇宙開発コマーシャルスペースを定義するための法律。これ、実は日本で成立したのが2016年。日本における宇宙活動法はアメリカでは1986年に成立、30年遅れているんです。その頃からアメリカは、もう宇宙というのは少なくとも地球低軌道は民間が開発するとに定義付けて、民活をすごい促したんですね。

ただ残念ながら、当時はあまりにもコストがかかりすぎる、ハードルが高すぎる。当時もすでにAppleとかそういう会社が出てきて、シリコンバレーのベンチャーとか盛り上がっていたんです。センサー技術とか、例えば今だったら、MEMSや半導体ジャイロが出てきたり、センサー類はほとんど半導体化されていて、安く高性能なものが大量に作られるような時代になっている。先ほど淺田さんおっしゃったように、衛星のベンチャーとかも本当にコンパクトな キューブサットレベルで実用衛星を飛ばせるような時代になったわけですけれども。

コンセプト自体はあったんだけれども、ちょうどインターネットの黎明期、1993年や94年ぐらいを思い浮かべていただけるとわかるんですけど、なんとかダイアラップモデムで38.4 kbps ぐらいでつながっていた時代ですね。あの頃思い描いていた未来は、すごく僕の場合大きかったんですけど、周りの人間は「こんな遅いスピードで一生懸命ホームページ見てどうすんの」みたいな世界だった。唯一使えるアプリケーションは電子メールだったっていう時代にすごく似ていて。そこからやっぱ20年ぐらい経つと、宇宙の場合は1986年からちょうど20年ぐらい経って。そうすると、「あ、これは本当にロケットちゃんと飛ばせる民間企業出てきたな」とか、そんな時代になりました。

スペースXは2002年に設立された会社ですけど、とある会社のロケットエンジンの技術を譲り受けるような形で会社がスタートして、2008年にファルコンワンの打ち上げ成功する、というところからもうワーっとロケットベンチャーが出てきたと。

先ほどの中須賀先生がキューブサット等のコンセプトを出された2004年ぐらいですかね。実際に打ち上げに成功して、これから超小型人工衛星の時代が来るということで、衛星側が先行したんですけど、ロケット側が今猛烈にキャッチアップしてきている状況です。

個別企業の話をしだすと無数にあるのできりがないんで、僕が言いたい大枠の話をさせていただくと、今状況的に言うとちょうどインターネットバブル前夜みたいな感じです。その頃のインターネット前夜みたいな感じの状況に今宇宙業界はあるんじゃないかなと。すでにアメリカではスペースバブル的な動きが出てきていて、スペースエックスは未上場ながら11兆円の時価総額で最近、増資をしました。

SPAC(特別買収目的会社)っていう仕組み、みなさんご存知だと思いますけれども、要はお金だけが入っている箱を株式市場に上場させる。何もない会社なので、上場審査はすごくシンプルに済むんですね。事業がないですから。お金があって、社長とか役員がいます、マネージメントチームがいますみたいなシンプルな組織で上場させて、半年以内に合併先を見つけると。

合併先は1社でも2社でも3社でもいいんですけれども、どこか事業を持って上場したい会社と合併するという仕組みを使って、すでに数社が上場しております。ヴァージン・ギャラクティックだったり、ヴァージン・オービット、そしてロケットラボ、アストラなんかのロケット打ち上げベンチャーが今SPACを使ってガンガン上場している。また、衛星を打ち上げている、衛星を作っているベンチャーもSPACを使って上場しているのも。インターネットバブルの時に日本にマザーズができて、ナスダック・ジャパンができてみたいな状況とすごく似ている。新興上場市場を作ってネット企業を中心にどんどん増長させてやれっていうような動きが出てきている。日本でも来年から日本版SPACが始まるかもしれないと言われていて。現に今私の周りの有識者の株式市場なんかに詳しい方々に意見を東京証券取引所等が聞いてまわっているっていう現状があります。

そんな中で、宇宙ベンチャーにとってめちゃくちゃいい環境、資金調達であったりとかそういった部分が整いつつあります。人材の確保という観点で、アメリカは割と雇用の流動性がすごく高いんですけど、日本の場合はやはり優秀な人材は大企業に寄っちゃっている。これはインターネットバブルの時も同じなんですけど、それが大きくたぶん変わるんじゃないかなという予感があります。ここ2、3年のうちに宇宙産業というか宇宙ベンチャーを取り巻く状況が大きく変わってくるだろうなと思います。

稲川氏:ありがとうございます。やっぱりここ最近、宇宙旅行だとか一般のニュースでも宇宙のニュースってよく出てきます。そういうアメリカのニュースでも30年来のこの法律を作るみたいなところから始まってようやく花開いたっていうところと、証券含めてお金回りの整備だとか、仕組みがうまく整ったタイミングで、最近非常に盛り上がっていくし今後もインターネットバブル前夜ということでもっと今後発展していくだろうというのが堀江さんの主旨かなと思って聞いていて、まさに私もその通りだなと思っているところです。続いて山崎さんも、世界の宇宙ビジネスの現状をお話しお願いいたします。

山崎直子氏

©北海道宇宙サミット2021

山崎氏:みなさんおっしゃっている通り、宇宙がどんどんと場になりつつあっていて、その場でどんなアイデアを募るかという、そうした世界に堀江さんがおっしゃったようになっているかなと思っています。先月ドバイに行ってきました。ドバイ万博のスペースウィークですね。ドバイは独自に開発した人工衛星、2018年に淺田さんも開発されたH-IIAで、種子島から打ち上げていたり、2020年には火星探査機を、これもまた H-IIAロケットで種子島から打ち上げていたり。今から100年後に火星に数万人住む村をつくるという大きなビジョンを掲げて、そのマイルストーンを作っているんです。そうすると圧倒的に技術も人材も足りないので、海外との連携を強めています。かつ人材育成としてはみなさんおっしゃるようなキューブサットの開発をいろんな大学研究所でも盛んに行われている。そうした勢いを目にしてきました。

アメリカの宇宙のニュースがいろいろと動きがあります。ヴァージン・ギャラクティックから始まってブルーオリジン、スペースX、いろいろ出てきているんですけれども、その裏でアジアも多々動いています。例えば中国であれば、2024年に民間としてサブオービタルの宇宙旅行サービスを開始する、という発表がされていたり。また韓国は10月に国独自の『ヌリ号』というロケットを打ち上げました。これは3段エンジンの燃焼が予定通りにいかなくて、軌道投入にはうまくいかなかったんですけども。でもそうした国のロケット技術を民間に移転していきますと。そのために国が約600億円を拠出しますということを発表しているんです。これは、これからどんどんと小型のロケットの需要が増えていきますと。そうした需要を韓国としても取り込んでいきたい、そうした現れなんですよね。

かつ、ロケットも射場も韓国は今ひとつありますけども、2つ目の射場を作ろうと。そんな形で動いていますし、スペースポートに関しても、やはりオーストラリアそれからインドネシア、いろいろ誘致が始まってきていたり、ドバイ、イギリスなどではもうすでに宇宙港の整備・開発をしようとしていたりという形で世界的にも動いています。そんな中で、ぜひ日本・アジアのハブになれると、今からやっぱり取り組んでいくことでみんながアジアの箱を目指そう、そんな機運が高まるといいなということで2018年に(一般社団法人)Space Port Japanを有志のみなさんで作った経緯があります。ということで今宇宙は本当に場になっていますいうことで。

稲川氏:宇宙が“場”というのが結構大事なキーワードのひとつかな、と思いました。宇宙ビジネスって言い方したり、宇宙って何となく言うんですけど、やっぱり空間の名前だということで、そういう空間を使ったところだっていうのが、宇宙って何となくのイメージから実際の場所だっていうところにもう少し具体化してきたのかなと。アメリカばかりニュースになることが多いわけですけれども、北海道内だと我々ISTがかなり取り上げて頂いていますけれども、今山崎さんにご紹介いただいたように、中国、韓国、ドバイ、オーストラリア、ニュージーランド、そういう国々も宇宙開発をかなり本腰入れて、本気でやっているんだというところがみなさん知っていただければなと思います。

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日本は宇宙で世界トップに立てるのか

稲川氏:次の質問事項ですね。「日本は宇宙で世界トップに立てるのか」。今世界の宇宙ビジネスの動向をお話しいただきましたけれども、その中でじゃあ日本はどういう立ち位置で今後行けば世界トップに立てるのかとを話していきたいと思います。

我々ISTは大樹町に本社の工場と射場を持っています。世界トップに立てるかどうか、やっぱり地理的な条件は非常に大きいです。東も南も大きく開けていて、土地もある。そして、30年以上宇宙の活動を町でやられて来られたおかげで、非常に理解もあると。

この理解があるのが大事。例えば南米の宇宙基地は、ロケットの打ち上げのたびに海賊が出るとかストが起きるとかですね、なかなかこうロケットの打ち上げにも苦労していたりするような、土地があるけどそういう環境があったりする中で、我々ロケットの打ち上げは継続的に行っているように、非常にやりやすくできていると。

地理的な条件をうまく使って、そしてさらに工場の、射場から車で10分、15分のところに本社の事務所・工場があります。設計製造、そして実際の運用まで一気通貫でやることで、そんなに便利なロケットの工場から射場まで、打ち上げまで一気通貫できる場所は世界にないと。こういう圧倒的なユニークさもうまく使って、世界できちんと戦えるようにしていきたいと思っています。

今日パネルのみなさんそれぞれに、「日本は宇宙で世界トップに立てるのか」ということで、順番少し入れ替えて、先に山崎さんの方からお願いできますでしょうか。

山崎氏:私は立てると思っています。宇宙産業、本当に裾野が広いんですね。なので、特に日本だと強い技術をたくさん持っているところ、車に見られるような燃焼器、それからロボット、材料、素材、いろいろな技術これすべて宇宙開発と結びつくわけですよね。今いろいろな企業さんが宇宙以外でもどんどん宇宙産業に入ってきているように、これから結びついていくことが大切なのかなと思っています。またそうした宇宙を先ほど言ったようにどう使うか、というアイデアもとても大切で。北海道は第一次産業がとても盛んですし、食もとても文化が深いです。私も宇宙にいた時に宇宙食にお世話になっていたんですが、やっぱりそうしたところとも人工衛星を使って収穫効率を上げて、それをさらに宇宙食にするだとか。あるいは宇宙で宇宙農業することも最近力を入れられています。できるだけ自給自足をしていくと。いろんな技術が地球と宇宙とか結びついていく時代の中で、日本、そして北海道は優位説とても大きいと思っています。

稲川氏:ありがとうございます。やっぱりアイデアが大事で、そのポテンシャルをいかに使えるかというところだな、と思います。続いて堀江さん、我々今Our Starsっていう事業も行おうとしていますが、その辺も含めてどうでしょうか。

堀江氏

©北海道宇宙サミット2021

堀江氏:いや、うーん…ていう…ポテンシャルはあると思うんですけどね。ポテンシャルはなくはないんだけど、欠けているピースもいっぱいあるよね。ピースは欠けてないんだよな。ピースは欠けてないんですけど、本気で取り組む機運と言うか。現状の正しい認識と、そこに対してどれだけ人的リソース、ファイナンシャルリソースを注ぎ込めるか、みたいなところがたぶん鍵です。

孤軍奮闘せざるを得ないような状況もあったりする。明らかに今宇宙ビジネス拡大のボトルネックになっているのはローンチ・ヴィークルです。打ち上げ回数が飛躍的に増えたといっても年間1,000機も打ち上げられてないわけで。今年はいくんですかね? 1,000機くらい。

稲川氏:人工衛星の数ではありますけど、ロケットの数は全然ですね。

堀江氏:ロケットは何本くらいかな?100とかですか?

稲川氏:(100)いかないくらいですね。

堀江氏:100とかじゃ全然ダメなんですよ。たった100なんで、いわゆるさっき淺田さんのところのSynspectiveさんみたいなリモセン衛星、地球をモニタリングして株式投資とか先物取引とかに活かすみたいな。そういうビジネスに即直結するところとかお金ガーッとかけて、でっかい衛星ボンっと打ち上げてやる、みたいなことができるんです。もっとチャレンジングな分野が山のようにあるんですね。またさっきのインターネット黎明期の話をしましたが、当時インターネットでビジネスできた部分って本当にごくごく少数で。だけどみんなそこにばかり目がいっていたわけですけど。

でも当時ビジネスになってない分野の方が、今もちろんビジネスになっているわけです。インターネットも。なので宇宙もそうです。宇宙の難しさ、人工衛星とかの難しさは、実際に宇宙で飛ばしてみないとわかんないっていう話が大きいわけですよ。飛ばさないと、飛ばす機械がないとダメだ、ということはローンチ・ヴィークルがないとダメだ。でも年間100機とかだと、やっぱり限られたお金を持っている、資金力があるところとかが優先されちゃうし、収益性の高いもの、いま今収益性の高いものをやっぱり優先して打ち上げてしまうっていう現状があると。

そこにチャレンジングな新しいことをするような、新しい技術を試すようなベンチャーが例えば出てくると。例えばソーラーセイルって技術があります。ソーラーセイルは、太陽風を使ってヨットのように宇宙を航行するってシステムなんですが、まだ2機しか飛んでいません。そのうち1機はJAXAが打ち上げた「IKAROS(イカロス)」っていう、金星探査機に相乗りさせて打ち上げたソーラーセイル実証機があるんですけど、たった2機しか上がってない。

これ、めっちゃ遠くにエネルギーほとんど供給せずに飛ぶすごく良い手段だと思うんですけど、1,000機とか10,000機とか試すと、どんどん効率が良いもの、実用性の高いものができてくると思うけど、年間100機の打ち上げだと、まあソーラーセイル実証機なんか乗らないわけですよ。何年かに1回しかチャンスがないみたいな状況で技術開発が進むわけがない。ネックがどこにあるのかをまず提示しなきゃいけない。ローンチ・ヴィークルがネックであり、少なくとも僕らの会社はそう思ってそこに集中投資をしてる。

それは日本が宇宙でトップに立てるのかって言ったら、国が「そうだ、ローンチ・ヴィークルに金を出せ!ローンチコンプレックスを整備しろ!」みたいなところにガーッと投資をすると、それはやっぱり進みますよね。で、さっき条件は揃っている、ポテンシャルあるって言ったのは、地理的にすごく素晴らしい。そして山崎さんが言われた通り、自動車産業等のサプライチェーンが揃っているんで、宇宙機は、ロケットは作れます。ロケットを作れる技術はもちろんあります。安くする技術もあります。打ち上げ場所は世界最高の場所があります。だから条件は揃っています。あとはお金と、一番大事なのは、ここが肝なんだけど、ローンチ・ヴィークルも肝なんだ、ローンチ・ヴィークルがなかったらダメなんだ、ここに金はとにかくガーッと入れましょうと。

そしたら日本が世界でトップに立てるんだっていう明確な設定が必要ですよね。だけどなんかねえもう、ふにゃふにゃふにゃふにゃしているわけですよ。よく分かんないんだけど、ごめんなさい。なんか別に他者をディスるつもりは全くないんですけど、まあなんかわかんないけど日本で人気があるのはデブリ除去と、なんか月探査とかがすげー人気あるんですよね。なんか知らないけどすごい人気があって、小泉進次郎さんに会った時もデブリの話ずっとしていましたから。

稲川氏:環境大臣だから。

堀江氏:「そこじゃねえんだよ!」って話をちょっとさせていただきましたけど、まあまあそんな感じです。彼は環境大臣だったんでしょうがないですけど。そっち分野にたぶんすごく興味があるんだと思いますけど、「そこじゃねんだよ!」と。そういうものっていうのは、アメリカ、中国に負けちゃう。要は、宇宙で世界トップに立てるのかはアメリカ中国に勝てんのかって話です。言い換えると。アメリカ、中国、金あります。独裁に近いです。中国なんか特にそうですけど。トップダウンでガツンといけますよ。今の日本の首相はみんなの意見聞くから遅くなるし、民主主義の一番ダメなところが出ちゃっているんだけれども。そうなってしまうと勝てないです。アメリカ、中国に勝つには、リーダーシップを持ってここが大事なんだってところにガツンと投資をすると。それが間違っていたらこれはもうどうしようもないなって話だと思うんですけど、どうでしょうか淺田さん。ずっと国のロケット作られてきたんで。

稲川氏:技術分野って観点で、特に淺田さんもエンジニアとしての活躍もあって。ピースが足りているっていうところで、日本の立ち位置・強み・総合力・技術力、みたいなところをご紹介いただけるといいかなと思います。

淺田氏(左)と稲川氏

©北海道宇宙サミット2021

淺田氏:あんまり国のお金に頼ると、やっぱり予算に縛られたりして遅いんですよ。今スピードが勝負なんで。日本って民間資金ってうじゃうじゃあるわけじゃないですか。その人達が本気になれば僕は簡単に抜けると思います。それと、宇宙のエコシステム考えると、人工衛星の設計ができること、開発ができること、それから、人工衛星の部品が供給できること。それから、人工衛星を組み立てる時に宇宙環境のシュミレーションをしなきゃいけない、そういう試験ができること。それからロケットがあること。つまりロケットを打ち上げていかなきゃいけない。それからロケットを打ち上げるための射場があること。

次に、人工衛星打ち上げると通信しなきゃいけない。情報を得なきゃいけない。それからそのデータ処理ができること。これね、全部日本できるんですよ。しかも、今言った種類のビジネスが、全てベンチャーが実はいるんです日本には。つまり、完結できるんです。他のところに頼らなくてもできる。先ほど堀江さんがロケットがすごい大事だって言っていましたけど、日本がじゃあ何でH-IIAとかやってきているかと言うと、自在に人工衛星を上げる能力を持つという、そういう方針があってやってきてるわけです。つまり、いつでも自分の打ち上げたい時に人工衛星を上げられる国だってことなんです。

こういう国は、世界中でも今まだ7つぐらいしかないですよ。ロシア、アメリカ、ヨーロッパ、日本、中国、インド、主要はこれだけですね。あとはイスラエルとかイランとか北朝鮮とかありますけど、そういうのはちょっと置いといて。本当にビジネスでやっているのはさっき言った国だけなんです。そのうちのひとつに日本は入っている。ですから、素養はあるんですけど、じゃあ次のステップに進むためにはやっぱり投資が必要なんですよ。堀江さんがおっしゃったように、一部の分野のベンチャーにはかなり投資がいっています。私が今所属しているSynspective も、最初のシリーズAから100億超の投資をしていただきました。今はシリーズBも入っていますけど。だから、どこに重きを置いて投資されるかっていうのはあるかもしれませんけど、いろんな分野があって日本の場合。ロケットもそう意味では非常に重要なので。ぜひISTに投資してあげてほしいなと思いますけども。

稲川氏:はい、ありがとうございます。

堀江氏:どうなんですか、僕聞きたいんですけど。別にいいんですよ、例えば日本でロケット軌道投入しそうな会社って、うちとたぶんスペースワンっていうJAXAのSS520っていう観測ロケットからスピンオフした会社があるんですけど、たぶんこの2社ぐらいしか軌道投入機打ち上げる気あるニュースペースのベンチャーってないじゃないですか。

稲川氏:ここ数年では。

堀江氏:なんなんですかねこの現状は。要はJAXAの前身のNASDA、JAXAの前身っていうと、世界で4番目ですか? 人工衛星を打ち上げたのは。世界でも本当に有数の宇宙大国のうちのひとつだと僕は思っているんですけど。なのにも関わらずローンチ・ヴィークルのベンチャーが全然出てこないっていうのも、それもなんかすごく寂しい。業界にライバルが増えれば増えるほど、業界って盛り上がって。ライバルが増えるとみんな困るとかっていう人達いるんだけど、僕は全然逆だと思っていて。競争が激しくなった方が注目も浴びるし資金も集まりやすくなる。今ニュースペースのロケット打ち上げベンチャーって全部アメリカじゃないですか。全社アメリカですよね。それってなんか異常な事態だと思っているんですよ。なんかもっとニュースペースのベンチャーで打ち上げロケット作る会社、日本に10社ぐらいあってもおかしくないのかっていう。そんな会社ないんですか淺田さん?

淺田氏:たぶん堀江さんが2社で少ないって言った背景がみなさんわかってないと思うんですけど、今世界中でロケットベンチャーって100社以上あるんですよ。もうあらゆる国でやっているんです。だからそれから見て、日本の2社は少ないよねと。まあ、僕はもう1社スペースウォーカーも加えてほしいなと思いますけども。

堀江氏:でもスペースウォーカーさん、最初は、サブオービタルの有人宇宙飛行の方がメインなんで。どっちかっていうと、軌道投入機、もうちょっと後になる話で言うとそうなんで。そういう意味で言うとちょっと少ないなって。スペースウォーカーさん含めても3社じゃないですか。そのうち液体ロケットのベンチャーは2社、1社は固体ロケットということで、その拡張性等を考えても、まだまだあと10社くらい参入してきてもおかしくないのかなって思うんですけど。これは何でなんでしょうか?淺田さんの元部下とかそういう人達って、そういうの作ったりしないんですか?

淺田氏:みんなロケットって難しいんじゃないかと思っているんじゃないすかね、きっと。まあH-IIAとか、難しいですよ。お金かかっていますし。ただ私、ISTのロケット見てこんな「あっ、こんな簡単にできるんや」と思ったんです、実は。

稲川氏:昨日も含めて工場見学、我々ISTのご案内させてもらいましたけれども、やっぱり種子島とか、淺田さんも元いた三菱重工の工場と比べて非常にシンプルで、安く作れて、しかもそれが打ち上げまでできているっていうところですよね。「あ、ロケットって意外と作れるんだ」みたいなところが実証できたっていうのが、日本で非常に強みというかひとつ大きなマイルストーン達成できたと思うんです。やっぱりまだまだちょっとそれが分かってないというか、やっぱり神話的になっているなと思ってはいて。

堀江氏:それを本来、国のロケットはたぶん淺田さんとか絶対失敗できないわけですよ。ロケット打ち上げ失敗したらクビになる、みたいな。左遷されるとか。わかんないけど、そんな感じの世界なんで、「絶対失敗できないぞこれ」って言いながら国のロケットって作っているわけですけど。僕らのベンチャーもそうだし、ニュースペースのベンチャーだいたいそうだと思うんですけど、「まあだいたいいいのできたから、打ち上げて実証しようか」みたいな。失敗してもまた次があるや、次の作ればいいや、っていう感じで作っているわけです。

実際、スペースXがやっているスターシップって次世代のとんでもない、超でっかいドンガラみたいなのありますけど。あれなんかもう、イーロン・マスク自身が「いやあ、何回かはもちろん失敗するよね」みたいな。「スペースシャトルがうまくいかなかったのは、試験が少なかったからなんだよ。あれはNASAの基準でやっているからダメなんだ」みたいな話をしていたりして。それがニュースペースのロケット打ち上げベンチャーの標準というか当たり前なんですけど。そっちの方が開発スピードも早く済むんですよね。たぶんね。

稲川氏:本当にスペースX、スターシップだけではなくて、我々小型ロケットって言われるジャンルの世界でも、アストラっていう会社、ヴァージン・オービットっていう会社、あと Firefly っていう会社、我々からするとライバルに相当するような会社ですけれども、彼らもロケットの打ち上げ、今年やっています。それぞれアストラっていう会社、 Firefly、 商業化っていう意味では初号期だったりするんですけども、それぞれ打ち上げうまくいってないです。途中で緊急停止したりだとか、飛んでいる最中に自然破壊で飛行中断されたり。そういうことで非常に苦労しながらやっている。我々も『MOMO』の3号機で初めてフルサクセスしたことで、初号期・2号機の苦労があってやっている。そういう絶対失敗できないところから全く違うやり方でやっているからこその、この盛り上がりがあるんだっていうところかなと改めてちょっと思ったところです。

山崎氏:まさにその通りで、そうした小型ロケット世界的にたくさんあるなかで、面白いのが、開発まだできていないのに、もう顧客がつくんですよね。開発途中なんですけれども、投資だけではなくてアンカーテナンシー的に顧客がついていて、そして受注が始まる。そうした仕組みが日本でももっとできるといいなと思うんですよね。

先ほどスペースウォーカーとかPDエアロスペースさんなんかもゆくゆくは軌道投入果たしていますけれども、なんかそんなエコシステムがもっと日本で、人工衛星とせっかくやるんであればもうロケットから含めて全体システムで、きっとなる。これからがチャンスなのかなと思っています。だからそう言った意味で、ISTさんがこうやって成功させて、もうロケット上げられるんだ、民間で宇宙到達できるんだって示したマイルストーンはやっぱり大きかったと思います。

稲川氏:日本は総合力があると。全部ピースは揃っている。もちろんそれぞれ発展しなきゃいけないんだけれども、技術の粒が揃っているっていうところは非常に強みだなっていうところをみなさん言っていただいたなと改めて思ったところでした。

これからの日本の宇宙産業のあるべき姿は

稲川氏:続いての質問に行きたいと思います。「これからの日本の宇宙産業のあるべき姿は」。これはまた淺田さんから順番に聞いていきたいと思います。今Synspective 、小型SAR衛星と言われる人工衛星をやられていて、実際にこれまでの打ち上げ、ニュージーランドのロケットラボという会社で打ち上げたりですね。実際やっていく中で、海外にロケットを持って行く・打ち上げるって言うところで、苦労だったりとか、逆に海外こういうことやっているんだみたいな、そういう気付きみたいなところを共有いただけるとありがたいです。

淺田氏:我々の人工衛星は去年ニュージーランドから上げました。ロケットラボという、やっぱりこれも小型ロケットベンチャーです。ISTのライバルです。目標とすべき会社だと思いますけど、ニュージーランドには酒森町長と十勝毎日新聞さんのスポンサーで、いつでしたっけ?5年ぐらい前でしたっけ。実は射場調査に行ってます。大樹町の参考になるのではないかと思って行きました。じゃあニュージーランドで日本の衛星あげるって言ったときに何が必要かと言うと、まず人工衛星って輸出管理規制対象なんですね。しかも我々の衛星って、レーダーを持っているので、レーダーも輸出管理規制対象。

ということで、輸出管理申請をして、許可を得なきゃいけない。それから、ニュージーランドまで人工衛星運ばないといけないですよね。これって船で運んでいたらとても時間かかってスピードがないので、飛行機で運ぶわけですよ。ものすごいお金がかかるわけですよ。それから今度はニュージーランドから打ち上げるときには、ニュージーランド政府の許可が必要なんです。これの申請もしなきゃいけない。海外でやっぱり衛星を打ち上げるとなると、手間がめちゃくちゃかかるんです。もし北海道から上げていただければ、これはもう費用的にも時間的にもすごく助かると思います。

ただ、ロケットラボがISTさんの目標になると思いますけど、感じたのがすごく柔軟な対応でした。打ち上げ時期だとか、契約内容だとか、それに対してのフレキシビリティは感動しましたね。それから、元々Synspective の人工衛星はロケットラボのフェアリングという、衛星を収納する場所に実は入らなかったんですね。それで向こうの社長にちょっと入らないんだけどって言ったら、「いや、大丈夫だから」って言ってすぐフェアリングを回収して。それも数ヶ月以内にですよ。それで対応してくれて、本当に感動しました。日本も、サービスとして割り切らなきゃいけなくて。「衛星打ち上げてあげている」ではなくて、打ち上げサービスですね。輸送業として、そういうフレキシビリティを持ってやってほしいなと思います。

稲川氏:ありがとうございます。やっぱり苦労と、逆に民間企業のロケットだからこその柔軟性みたいなところですね。本当にロケットもすごい進化しているなと思います。ロケットの打ち上げって、だいたい典型的には1年半前くらいから予約して打ち上げる、みたいなのがこれまでの常識だったのが、今だと半年とかですね。それくらい期間前に予約すれば打ち上がるようになってくるだとか、そういう状態になっていますよね。

淺田氏:ちょっと今言えないんですけど、もうすぐ記者発表しますけど。数ヶ月、短い方の数ヶ月で打ち上げる契約を今進めています。

稲川氏:それくらい、もう1年半っていうところからまったく桁が変わってきた、そういう進化もあると。ロケット自体のそういうサービス面での進化もあると。というのが現状ですね。

続いて堀江さん、これからの宇宙産業のあるべき姿もそうですし、今、射場のふるさと納税とか、ネーミングライツ含めて、ロケットの射場についてどんどん進めていくような状況でもありますけれども。そういう点、サポート面も含めたですね、そういうところをお話しいただければと思います。

堀江氏:産業のポテンシャル的に言うと、EV化して結構シュンとなっていく自動車産業……自動車産業の完成車メーカーの一番のアドバンテージって何だったかというと、ガソリンエンジンの燃焼器の技術を持っていることが彼らの一番大きなアドバンテージだったわけですけど。それがEVになると失われる。これは中国とかヨーロッパとか、政治的に日本の自動車産業を、悪い方で言うと潰してやれっていう、そういうメッセージなわけですよ。で、多勢に無勢で日本勢はやられちゃって、シュリンクしちゃっているわけです。

EV化するともうひとつ良くないことが起きるのは、サプライチェーンが崩壊します。実際にインホイールモーターになると、ギアボックスもドライブシャフトもディファレンシャルも、ありとあらゆる部品がなくなって、サプライヤーは他の仕事を探さなきゃいけないような状況に追い込まれる。そうすると、もっともっと上流にある鉄鋼とか、工作機械とか、そういったところも破壊されてしまう。

これはすごく僕は危機感をもって感じていると。日本は何でも作れる。だからロケットとか宇宙産業も、ポテンシャルがある。それはその通りなんだけど、このまま傍観していると、EVが世界を席巻します。そうすると大変なことになる。それを救うと言ったらあれなんだけれども、ロケットって電気で飛べないんで。必ず燃焼器が必要です。原子力推進とかが政治的に認められれば別ですけど。科学推進で宇宙に行くしかないので、燃焼器が必要だし、自動車と同じでいっぱい部品が必要だし、いろんな技術が必要です。それぐらいのポテンシャルを持っているんです、宇宙産業は、それを理解してほしいんですよ。

またインターネットの話に戻りますけど、1996年、僕はインターネットの会社を作って、いろんなところへ営業行っていました。「堀江くんさあ、なんかそんなホームページとか作って何の役に立つんだよ」みたいなことをすげえまあ。「だけど面白そうだから100万出してやるよ」とかなんかそんな感じです。今の宇宙産業もそんな感じで、中で一生懸命やっている人たちはもうこれからすごい時代が来る、と思ってやっているんですけど、周りの人達は結構冷ややかに見ていると。でもそんなもんじゃないんですよってことを僕はここですごく言いたくて。

Synspectiveさんの衛星なんかは儲かるわけです。すぐ。すぐに利益が出て、売り上げも立てられるような事業になっていくし、本当それは序の口の序の口で。僕たちが想像もしないような未来が待っていて。100兆円産業どころじゃなくなってきます。というようになってほしいなと。

そのためにはさまざまなインフラが必要だし。一部は例えば射場みたいなものっていうのは、行政が整備した方がいいんじゃないかなって思います。基礎工事とかアクセス道路とか許認可とか、いろんなところで行政っぽい仕事がいっぱいあるんで。別に民間企業が整備してもいいんですけど、そういったところは行政がある程度インフラを整えるっていうことがあってもいいのかなと思います。そんなとこですね。淺田さん、さっき政府の金もらうと大変だから時間かかるし大変だよみたいな話ありましたけど、そういう形ではなく僕は“メッセージ”だと思っていて。これから日本っていうのは宇宙産業でいくんだ、と。だから税優遇するんだとか、規制緩和するんだとか、そういう話でいいんですよ。そういうメッセージを出すと、そうなんだって。

わかんないけどうちだって、銀行さんから紐付き融資はしてくれるんだけど、「新しい工場建てるんで金貸してください!」って言っても「いやあ、ちょっと」って言われて。うわあどうしよう、ってなってこないだは不動産クラウドファンディングって仕組みを使って、小口のお金を一口1万円からのお金を3億円集めて、今の工場っていうのは大家さんになってもらったんですね、たくさんの方々に。だから、不動産クラウドファンディングはひとつの規制緩和の流れだと思うんですけど、そういうものをどんどん増やしていってほしいなと。既存の金融機関にも本当はメッセージを出して、もっと新産業に対して融資をしたら政府は優遇しますよと。自己資本規制比率をちょっと緩和しましょうとか。そういうようなこととかをメッセージとして出していただければ、そういったところへの投資っていうのは集まるのかなと思います。SPACの上場とかを日本で認めるとか、そういうのも含めてですね。

稲川氏:そうですね。政府が全部政府でやるのではなくて、アンカーテナンシーって言われるのは政府がベンチャーのサービスを購入するだとか、そういう規制緩和みたいなところで成長するとすごい伸びしろがあるみたいなところは本当にその通りだなと思います。山崎さんからも、「これからの日本の宇宙産業のあるべき姿」についてお話しお願いいたします。

山崎氏:宇宙産業が成長産業であることは政策面からも見直しされていて、非常に今認識がされています。宇宙の基本計画だけではなくて、例えば国全体の成長戦略の中でも宇宙は成長産業であり、社会課題解決にも役立てると。防災、地方創生も含めて、そしてこれから宇宙港も含めてアジアのハブになっていくことは一応明記されたんですよね。あとはこれをどう訴えて、そして具体的な実行に移していく、というところで。まだまだここからがアクションのフェーズなのかなと思っています。

これからの日本の宇宙産業というと、やっぱり人、人材育成まだまだ足りないです。ドバイなんかも、宇宙をやることでこれから20年後30年後の国・地域を担う人たちを育てたいんだっていうものすごく意識があったのが印象的で。宇宙って裾野が広いインテグレーション産業なので、そこの人材を増やしていくことで、地域・国を担う人が育っていってほしいと思っています。

稲川氏:ありがとうございます。そうですね。人材育成も非常に重要で、やっぱり人が足りないという単語もこれまで出ていますけれども、宇宙産業が成長するにあたってまだまだ宇宙産業を担う人材が必要だなっていうところは、私も事業しながら日々日々思っているところでもあります。

登壇者よりメッセージ

稲川氏:そろそろ実はお時間がきているところもありますので、パネリストの方々、最後に一言ずつ会場のみなさん、そしてインターネットで見ていただいている方々にメッセージ、1分ぐらいですかね、長くならないぐらいでまた淺田さんのほうから一言ずつお願いしたいと思います。

淺田氏

©北海道宇宙サミット2021

淺田氏:よくいろんな地方に行っているんですけど、「夢があっていいですよね」って言われる時に必ず反論します。今日もテーマが「未来を語ろう」って言っていますけど、実はもう未来じゃないんですよ。現実的にもう宇宙開発、いろんな国で期待される産業として動いているので、もっと本気になって考えてほしいなと思います。

僕、10年ぐらい前にリアルタイムグーグルアース作りましょうって実は国に提案したことあるんですよ。つまり地球をもうほとんど常時観測できるようなシステムを日本で作りませんかと。衛星は何機いるんですか?って言われて、1,000機くらいいりますよねって言ったんですけど。「何の役に立つんだ?」て言われたから、インフラ作れば絶対使う人はいますからって言ったんだけど、そんなの日本では通用しなかったですね。インターネットにしてもGPSにしても、最初に考えた人がこんな産業になるなんて誰も想像してないんですよ。作ったもの勝ちなんですよね。とにかく日本ってそういう新しい、今までなかったものを作る力ってあんまりないんで、ちょっとこの宇宙開発でそういったところを抜け出してほしいなと思っています。

稲川氏:ありがとうございます。それでは堀江さんからも一言お願いします。

堀江氏:僕は人材ですね。お金は多少集まるようになりつつあります。ビジネスになるんだって思っている人達が少しずつ増えてきているんで。ちゃんと投資したら回収できるんだって思い始めているので、お金はだんだん集まってきていて。これもうずっとシーソーゲームなんですけど、今度は人が足りない。人は宇宙って言うと何か特殊な分野だって思われるんですけど、全然特殊じゃないんで。そもそも「ロケット作ったことがある人手あげて」って言っても、まあ100人もいないじゃないですか。今現存している人で、ロケット作ったことある人って日本に100人いなんですよ。なので、そんな人は求めていません。なんでもいいです。うちのアイスティーの方のロケットの制御とか、そういったもののプログラミングやっている人とかはiPhone アプリつくっていた人だし。

例えばロケットの射場を作っているような人達って、プラントメーカーにいた人達だし。例えばターボポンプの製作をやって…ターボポンプってロケットにしか使われない部品なんですけど、それに近いところで例えば荏原製作所さんっていう、ポンプに強い会社さんと今技術提携をして、ターボポンプの開発進めていますし。全然関係ないんだけど、あと自動車メーカーさんとかね燃焼器の開発をしている。インジェクターとかはちょっと違うんだけれども似ているんで。ありとあらゆる分野一つひとつを見て、「これ、俺が今までやってきた分野と似ているな」って思ったら、できます。ロケット作れます。そして国のロケットと違って民間のロケットはめちゃくちゃショートタームで進んでいくんで、全体が見えます。「俺このロケット作ってんだ」っていう気持ちにすごいなれます。だから打ち上げた時の感動もひとしおです。なので、ぜひこの宇宙産業の業界にこれを聞きに来た人とか、聞きに来た人の周りで、「ちょっと興味あるんだよね」と思っている人がいたら背中を押してあげてください。以上です。

稲川氏:本当にロケットの打ち上げは感動的で。今年の『MOMO』の7号機の打ち上げもうちのメンバーは私も含めてですけれども、やっぱり感動でウルッとくる、本当に胸いっぱいになるみたいな気持ちになる。エンジニア人生でなかなかそういう経験を得られない、やっぱりそういうロケットの面白さっていうのはあるなと思います。それでは、山崎さんメッセージ一言お願いいたします。

山崎氏:こうして宇宙といろんな分野をつないでいくことが大事とみなさんおっしゃっていて、その通りです。ISTさんも取り組んでいらっしゃいますし、こうしてSPACE COTANという枠ができたことも、つなぐ人材が北海道に増えてきたことも、すごく嬉しいなと思っています。

私の尊敬する宇宙飛行士のジョン・ヤングさんが、「何かを変えることはリスクがあります。でも変えないことはもっとリスクがあります」という私も肝に銘じている言葉を残していて。今まさにこれから北海道、そして日本が、本当に宇宙に開かれた産業を作って行くのかそうじゃないのか、分岐点だと思うんですよね。なのでぜひみなさんと一緒にこうして宇宙に可能性を広げられる、そんな現在・未来を作っていけたらと思います。ありがとうございます。

稲川氏:ありがとうございました。それではお時間となったところなので、セッション1「世界の宇宙ベンチャー最新動向」というところで、現状本当にいろんなニュースがあって、宇宙産業の1年、2年で全く違う状況になってくるっていうところになっています。今後このスピードが減速することはなくて、加速していくところもはっきり宇宙業界の人からはもう見えています。これだけ盛り上がっていく、そして年々劇的に世界の状況そして日本の状況も変わっていく最新動向は、我々もアップデートでぜひみなさんに共有したいと思いますし、みなさんの方も宇宙産業っていうところを少しキャッチアップしていただければと思います。はい、それではお返しいたします。

司会:大変貴重なお話をありがとうございました。みなさま大きな拍手をお送りください。ありがとうございました。

※本記事はカンファレンスでの発言を文字に起こしたものです。言い回し等編集の都合上変更している場合がございます。

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