本寺さん正面からの写真

サラブレットとは違う「ばん馬」の血統って?【プロに聞くばんえい競馬をもっと楽しむ方法】

2021.09.30

世界で唯一、北海道帯広市だけで開催されているばんえい競馬。一般的に競馬と聞いて頭に浮かぶイメージとは少し違っていると思います。ばんえい競馬はコースが直線のみで、馬が鉄のソリを曳き、2つの障害を越えてゴールを目指します。

1頭の子馬が生れてばんえいの競走馬になるまでには、生産者、馬主、厩務員、調教師、騎手などたくさんの人が関わっています。なかでも原点となるのが馬の生産です。

今回は本別町にある「本寺牧場」の本寺政則さんにお話を伺いました。

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子馬の誕生から競走馬としてデビューするまで

北海道Likersライターyukko:生産者とはどんな仕事なんでしょうか。一日の仕事の流れを教えてください。

本寺さん:家業は畜産業です。私は「馬が中心」という気持ちで牧場を経営していますが、ベースは和牛の生産です。牛の世話が主な仕事で、朝大きな草箱にエサを準備して、午後は牛舎を掃除するというような流れです。

馬の出産は3~5月がピークです。そろそろだなという日はいつ分娩が始まってもいいように、両親と交代しながら夜通し見ています。繁殖シーズン以外は車で40分ほど離れた山の牧場に放牧していますが、来年デビューする馬には、朝、昼、夜エサを与えています。365日休みなしです。

北海道Likersライターyukko:何頭くらいの馬を飼育していますか?

本寺さん:今飼育しているのは、山に放牧している馬を含めると繁殖牝馬が10頭、今年生まれた子馬が7頭、1歳馬が7頭、サラブレットが2頭、ポニーが5頭です。そのほかに豚、羊、牛、ニワトリを飼育しています。

北海道Likersライターyukko:馬が競走馬へと育つまでの流れを教えてください。

本寺さん:馬は季節分娩なので春に交配して11ヵ月で分娩します。ばん馬は大きいので難産が多いんですよ。子馬が窒息死しないように引っ張り出したり、早い時間に初乳を与えないと死んでしまうことがあるので、子馬がうまく吸い付けないときは人間が補助してお乳をあげたりしています。生まれてから約6ヵ月間は、親子は同じ山の牧場で過ごします。帰ってきてからは親子を離します(離乳)。それから1年間、子馬は仲間だけで過ごし、能力テストを受けて2歳でデビューです。

北海道Likersライターyukko:本寺さんは生産者であり、馬主の仕事もされていますね。どのようなときに仕事にやりがいを感じますか。

本寺さん:生産した馬がレースに勝ったときですね。自分の子どもが運動会で優勝した時と同じような気持ちです。食肉の畜産とは違い競走馬にはファンがいるので、自分が育てた馬が1着をとったり、能力テストに受かったり、子馬が生まれたりすると「おめでとうございます!」というメッセージがたくさん届きます。そういう周りの人たちの期待や応援、支えが、やりがいにつながっています。

ばん馬にも血統がある?

北海道Likersライターyukko:サラブレッドの競馬では血統がレースの分析材料のひとつになっています。ばん馬にも血統があるのでしょうか。

本寺さん:ばん馬には“ペルシュロン種”“ブルトン種”“ベルジャン種”の品種があります。

“ペルシュロン種”は、フランス生まれの大きな馬です(体高*約175~185cm)。もともと林業に使われていた馬なので曳く力が強いです。日本には明治時代に国が政策として導入しました。ばん馬のルーツとなる馬で、軍馬としても農耕馬としても使われました。首と胴が長く、足が太いのが特徴で、性格は温厚でおとなしいです。

“ブルトン種”もフランス生まれで、乗るためではなく肉用でした。肉用なので筋肉量が多く、瞬発力があります。胴や首は短く(体高約160cm)、気性は荒いです。もともと肉用だったこともあり早熟なので、2歳馬など若い馬のスピードが求められるレースに向いています。

最後に日本に入ってきたのがベルギー生産のアメリカで品種改良された“ベルジャン種”です。この種類は国ではなく個人が買い付けてきました。特徴は背や腰が高く、足が長いです(体高約190cm)。これは自説ですが、ベルジャン種はおそらく馬車用ではないのかと思っています。なぜなら平らな道を軽快に進むからです。ベルジャン種のすごいところは、雑種強勢*の原理でとても丈夫で大きくなったことです。もとは高さはあるけど体積のない馬でしたが、ペルシュロン種とブルトン種が掛け合わさった馬とベルジャン種が掛け合わさったときに、どれよりも大きくなって爆発的に活躍しました。ばんえい競馬はソリを曳く競技なので、大きければ大きいほど強くなります。

北海道Likersライターyukko:出走表を見ると「半血」「日輓(日本輓系種)」と書いてありますがどういう意味でしょうか。

本寺さん:「半血」とは純血種同士を掛け合わせた品種のことをいいます(ブルトン種×ペルシュロン種など)*。それ以外の品種は「日輓(日本輓系種)」といいます(半血種×日本輓系種など)。現在は3種の品種を組み合わせているものが多いので、ほとんどが「日輓(日本輓系種)」です。

*体高・・・馬の身長。足の先から、き甲と呼ばれる背中の骨のふくらみまでの長さ。
*雑種強勢・・・異形交配の強化。雑種として誕生した子が両親より優れていること。
*半血・・・2003年以前に生産された馬は半血種と半血種の交配は半血種とされていたが、現在は日本輓系種とされる。

血統でレースの結果は決まる?

北海道Likersライターyukko:レースの勝ち負けは血統で決まるのでしょうか?

本寺さん:血統のみで判断はできません。しかし血統によって馬の得意、不得意な場所が出てきます。

ばんえい競馬は直線200メートルのコースです。スタートからゴールまでの間に高さ1メートルの山の形をした第一障害と、高さ1.6メートルの第二障害があります。第一障害は簡単に越えられるので、瞬発力に優れて駆け足ができる“ブルトン種”が得意です。

第二障害はレースの山場で簡単に越えられません。そこで“ペルシュロン種”が力を発揮します。“ペルシュロン種”は胴が長く足が太いので、山を這いつくばって上がるのが得意です。第二障害を下ってゴールまでは、勢いをつけて全力で駆け抜けるのに優れている“ベルジャン種”が活躍します。

北海道Likersライターyukko:やはり血統が馬券を買うときに大事になるのでしょうか。そのほか馬を選ぶうえでのポイントはありますか?

本寺さん:あくまで血統は馬を選ぶ判断基準のひとつです。ほかにも騎手の駆け引きや、馬のコンディション、前走の結果、馬場水分*などさまざまな要素が関わってきます。そこがばんえい競馬の難しいところですね!

*馬場水分・・・馬場の水分量をパーセンテージで表したもの。馬場水分が高いほど走りやすいといわれている。

北海道Likersライターyukko:帯広、そして馬産農家にとってばんえい競馬はどのような存在でしょうか。

本寺さん:ばんえい競馬はこれからの成長にとって重要な産業だと思います。観光資源としても、帯広を中心として地方にも人の流れを生み出していくだろうと期待しています。ばん競の生産者は高齢化が進みどんどん衰退していますが、ばんえい競馬を多くの人に知ってもらうことで、馬を買いたい・育てたいという若い人が増えてほしいです。私としては技術を次の世代に伝えることも大切にしていきたいと考えています。

 

強い馬を生産するため、熱心に研究を続ける本寺さん。本寺さんのお話を参考にすると、いつもとはひと味違う目線でばんえい競馬を楽しめそうですね!