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ホテルローヤル

波瑠と安田顕が親子に。原作者・監督が語る映画「ホテルローヤル」の魅力とは

第149回直木賞を受賞し、累計発行部数85万部を超える桜木紫乃さんの『ホテルローヤル』。この秋、波瑠さん主演で映画化するということで映画ファン、小説ファンの間で大きな話題になっています。

原作者・桜木紫乃さん「裸にされているような心持に」

原作者の桜木紫乃さんは、1965年北海道釧路市の生まれ。2002年『雪虫』で第82回オール讀物新人賞を、『ホテルローヤル』では第149回直木三十五賞を受賞しています。受賞の際の服装(ゴールデンボンバーの鬼龍院翔が愛用しているタミヤロゴ入りTシャツを着用)や、質疑応答で一躍注目を集めました。今回は、映画化に際した桜木さんの想いに迫ります。

Q.映画化のオファーを受けた時のお気持ちは?

―新たな表現者が、新しい「ホテルローヤル」を見せてくれるんだ!と素直に嬉しかったです。

Q.完成された映画をご覧になってどう感じましたか?

―小説を書いたときは、あの場所にいたかもしれない人を裸にしている実感があったのに、いざ映画になってみると、原作を書いた自分が裸にされているような心持ちになりました。いっぱしの表現者のつもりでいたのに、映画人集団に、逆に脱がされた感じというか。リアル、というのとはまた少し違う、書き手の内面に踏み込まれた感じがしました。

Q.桜木さんから見て、波瑠さん演じる主人公はどう映りましたか?

―美しくて芯のつよい印象の波瑠さんが無表情、無言でスクリーンに映し出されるとき、ある種の凄みを感じました。内側をあまり見せないときの波瑠さんは、わたしの知る「つよい北海道女」そのものでした。

Q.桜木さんの念願が叶う形で実現した、安田顕さんのご出演。父大吉はいかがでしたか?

―初めてお目にかかったのは、安田さんの主演映画『俳優亀岡拓次』の舞台挨拶で札幌にいらしたときでした。ご挨拶の際に軽い気持ちで「いつか私の書いたものが映像化されるときはお願いします」と申し上げたのですが、あのときはこんな大ごとになるとは思いませんでした。安田さん演じるローヤル社長の大吉は、壮大な夢の実現として湿原を見下ろす丘の上に「ホテルローヤル」を建てました。それはわたしの父でもあるのですが、安田さんに演じていただいたことで、私は娘として父のなにを見てきたのかなあと、自分としては珍しく感傷的な気持ちになりました。

Q.映画ならではの印象的だったシーンやお気に入りのシーンはありますか?

―波瑠さんがボイラー室でパートさんとおやつを食べるシーンに、なんだか救われたような気持ちに。松山ケンイチさん演じる、えっち屋の宮川とホテルの部屋でふたりきりになるシーンは、緊迫感があってこちらもドキドキしてしまった……。ワイシャツを脱ぐ松山さん、色っぽかったなあ。内田慈さん演じる恵が、夫に甘えるシーンはなんだか身につまされてしまいました……。ラストは「映画人の気概」を感じました。

Q.桜木さんにとって「ホテルローヤル」とはどんな場所でしたか? 人の”性”が渦巻く場所で育ち、働き、何を感じてきたのか教えてください。また、それが自分の考えや作品にどう影響していると考えますか?

―当時「ローヤル」は、私たち一家が生きてゆくため、食べてゆくための場所で、大切な家業でした。借金を返すことに必死。そこがどんな場所だったのか考えたのは、小説を書き始めてからです。虚構で書くことによって、誰もが必死で生きていたことがわかって良かったです。たまたまラブホテルの娘となったことで、この世にはいろんな仕事があっていろんな人がいるということを内側からも外側からも眺められました。経験は宝です。

Q.この物語は釧路が舞台であることが物語に大きく影響を与えていると思います。桜木さんにとっての釧路とはどんな場所ですか? また、昭和から平成初期にかけて道東屈指の繁華街として栄えた釧路ですがこの数十年で変わっていったと思います。釧路の失われてしまった華やかさと失われない魅力についてもお聞かせください。

―釧路の街は物語が生まれる大切な場所です。表面的には昭和の華やかさが失われたように見えるかもしれないのですが、釧路へ帰っていつも思うのは、相変わらず美しい街だな、ということ。飛行場から街へ向かうときの、バスの窓から見える湿原も、街中のそこかしこに「生活」が溢れる景色も、幣舞橋の向こうへ沈む夕日も、真夜中の北大通を照らすオレンジ色の街灯も、実はなにも変わらない。時代の流れで人の興味と動線は変化しましたが、釧路というところは、美しい年の取り方をしている街だと思うんです。

監督・武正晴さん「北海道に行くことで最大のオリジナリティが出せた」

監督の武正晴さんは、1967年愛知県出身。短編映画『夏美のなついちばんきれいな夕日』(06)の後、『ボーイ・ミーツ・プサン』(07)で長編映画デビュー。『百円の恋』(14)は、日本アカデミー賞、ブルーリボン賞など数々の映画賞を総なめにし話題を呼び、第88回アカデミー賞外国語映画賞の日本代表作品としてもエントリー。Netflixで配信中の話題作『全裸監督』では総監督をつとめています。

Q.原作を読まれた時の印象は?

―普段小説はあまり読まないのですが、本作はとても面白かったです。映画を撮り続けていると、こういう素敵な出会いがあります。原作ものをやるときは、その作家の著書は全部読みます。あらゆる文章を読んで、そこからヒントを得ます。原作の一番の魅力は、連作だけれど、実はひとつひとつが全部裏で繋がっていて、それを読み解くのがすごく面白いこと。ただこれを映画化するには、原作をいじらないと作れないと感じていました。そこを原作の桜木先生が快諾してくれたのは、本当に感謝しています。

Q.「ホテルローヤル」の世界観を作り上げる上で意識した点は何でしょう?

―小説を読んで、明らかにひとつの部屋が軸になっているのが分かったので、あの部屋での出来事が全部繋がっていることが読み取れた時に、このホテル、そして部屋をもうひとつの主人公にできないかと考えました。この部屋で起こる10年近くを描けたら、それはとても映画的だと。となった時に、今はもう実存していない実際のホテルローヤルと、今の釧路で出会ったロケーションとのマッチングで、美術的な設計図を考えました。本来は北海道に行かなくても東京でセットを組めばいいのですが、そういう作品でもなかった。北海道に行くことで最大のオリジナリティが出せました。行ってよかったです。

Q.ラストシーンでは過去と現在がクロスオーバーしていますが、その意図は?

―看板に明かりがついたところでエンディングを迎えるにはどうしたらいいか考えた時に、2台の車がすれ違うシーンを思いつきました。ただの回想にするのではなく、昔と今を並走させることができたらいいなと思いました。これは実は僕の経験が元になっています。前に子供の頃毎日歩いていた小学校の通学路を歩いたことがあって。やっぱり昔とは全然違うなと感じましたが、しゃがみ込んだ瞬間に昔の記憶が蘇ったんです。視点が違っていたんですよね。その瞬間まるで30年前の自分と今の自分が一緒に存在するかのように感じました。今と昔がシンクロする瞬間というのは必ずあって、それを映画で描けないかと思いました。つまり記憶の再構築ですね。ひとつの物語を作る時には、少なからず作り手の記憶が影響すると思います。

Q.監督の経験が元になっていたんですね。釧路の街を車で走る雅代が、まるで両親の時代を走っているような演出は印象的でした。

―やはり、ホテルローヤルの歴史は釧路という街自体にもリンクしているじゃないですか。昔は賑やかだったけど、今はシャッター商店街も多いですし。かつて活気があったのは間違いないけれど、今見るとそれは跡形もない。でも、さっき言った僕の経験と同じで、確かに記憶には残っているんです。そのコントラストを映画で描けたら面白いのではと思いました。さりげないですが映像でもそれを表現していて、過去と現在が入れ替わるタイミングで看板のオレンジの色彩を変えています。現在の色よりも過去の方が鮮やかに見えるようにしました。

Q.最後に雅代が自分の人生と向き合い、新たな人生を踏み出していくシーンは感動的でした。あのシーンに込めた思いを教えてください。

―僕は最後に雅代を救ってあげたかったんですよね。彼女はどこか自分の生まれ育った場所や家族、仕事など様々なしがらみによって、がんじがらめになっている気がしたんです。僕はそこから逃げてもいいんだよって言ってあげたかった。これは女性に向けてのメッセージでもあります。がんじがらめになって苦しむ必要はないし、逃げることが悪いことではないと思うのです。僕は「積極的な逃避」があっていいと思っています。最後に肩の力を抜いてふっと笑う雅代の決断には共感してもらえるのではないかと思います。

11月13日(金)全国ロードショー

釧路を舞台に繰り広げられる人間ドラマ。主演の波瑠さんの体当たりの演技も必見です! 公開は11月13日(金)。

ぜひチェックしてみてくださいね!

<映画詳細>

公式サイト:https://www.phantom‐film.com/hotelroyal/
Twitter:@hotelroyalmovie

【参考・画像】
『ホテルローヤル』
11月13日(金)より
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム

©桜木紫乃/集英社 ©2020映画「ホテルローヤル」製作委員会