
「帯広競馬場を聖地に、ばんえい競馬には、ポテンシャルしかない」人気のキッチンカーを営む山中さんが抱く思い
世界で唯一、重種馬による『ばんえい競馬』が行われている帯広市。
その帯広を拠点とする『タコス屋シーガルキッチン』は、タコスとケバブをメインに提供するキッチンカーで、道東エリアを中心に出店しています。
聞くところによると、オーナーの山中大輔さんは『ばんえい競馬』に深い縁があるのだとか。今回は、ばんえい競馬好きの筆者が詳しくお話を伺ってきました。
食材が豊富に揃っている十勝の“おいしい”を届けたい

画像:北海道Likers
『シーガルキッチン』で使われている食材は、陸別町のウィンナー、中札内村の『田舎どり』をはじめ、十勝産のものばかり。そこにオリジナルスパイスを加えて仕上げているのだそう。
「以前、アメリカで食べたタコスの味を鮮明に覚えていたのですが、北海道はタコスを提供しているお店が本当に少ないのです。しかし、十勝は食材が豊富でおいしいものばかりですし、タコスに不可欠なサルサソースに使うトマトや玉ネギ、トウガラシ、牛肉、豚肉、鶏肉も全部揃っています。そこで、もともとスパイス料理が大好きだったこともあり、タコス屋を始めました。」とオーナーの山中さんは話します。

『ウィンナータコス』は陸別町にある『ゲゼレ工房』の贅沢ウィンナーを使用。
画像:北海道Likers
今でこそ各地で姿を見ることが増えたキッチンカーですが、山中さんがキッチンカー事業をスタートさせた2017年当時は、まだまだ珍しかったはず。しかし、固定店舗ではなく、キッチンカーを選んだ理由がありました。
「帯広は札幌のように人口が多くないし、冬場になるとどうしても売上が落ちてしまいます。“待ちの営業”よりも、各地にプロモーションを仕掛けることができるキッチンカーで十勝の“おいしい”を道内に全国に届けたいと思いました。」

開業当時のトレーラー
画像:タコス屋シーガルキッチン
「実は、以前いた『とかちむら』でも、キッチンカーがあればいいな、との構想を抱いていました。」と山中さんは話します。
「とかちむら」の村長として
山中さんはキッチンカーを始める前、ばんえい競馬を行う『帯広競馬場』敷地内にある観光交流複合施設『とかちむら』の運営統括マネージャー、いわば“村長”を務めていたのです。
過去に札幌でインディーズの音楽レーベルやイベントプロダクションの会社を経営していた山中さん。しかし、2011年の東日本大震災の影響もあり経営が悪化し、会社を畳まざるを得なくなってしまいました。
「いずれ地元に帰って何かしたいな、とも思っていたので、会社をたたんだタイミングで十勝に戻りました。そして食について学び始めた中で、当時『とかちむら』に携わっていた方との出会いがあり、それまでイベントを数多く手がけてきた経験も買われたのか、2012年から村長を任していただくことになりました。」

現在の『とかちむら』
画像:北海道Likers
ただ、振り返ると直前の2011年度はばんえい競馬の年間売上額が過去最低を記録。2010年8月に開業した『とかちむら』もまだまだ軌道にのる前でした。厳しい時期の舵取りを託され、相当の苦労があったのではないかと想像できます。
「大変でした(笑)。イベントプロデュース自体は慣れていましたが、予算も少なかったですし、最初はここでの勝手がわからず、時には周りの反感を買ってしまったこともあります。それでも、地元のFMラジオやフリーマガジンを利用して、とにかく情報発信を行っていました。」
すると、その姿を見てくれていたのか、当時の帯広市ばんえい振興室長の田中敬二さんが、「山中くんの思うとおり存分にやりなさい」と言ってくださったのだそう。
「それからは、ビアガーデン、音楽ライブ、キッズコーナー、農家さんのトークショー……。企画書を何枚書いたことかわかりませんが、“これだけやれるんだ”と思えるほどに、いろいろとやらせていただきました。中でも“石窯ピザ焼き体験”は、冷凍ピザを買ってもらいその場でお客様自身が石窯に入れて焼くというもので、札幌や旭川からも問い合わせがあるほどに好評でした。朝早くから準備をしなければならないし、窯の温度は300℃にもなるので、暑い日は特に大変でしたが、楽しかったですね」
他にも山中さんの発案から生まれたものの一つが、『十勝輓馬(ひきうま)神社』です。

画像:北海道Likers
「蹄鉄をご神体にした神社があれば面白いな、冬用蹄鉄は“滑らない”に通じて合格祈願になるなと思って。神主さんに来ていただいて、ちゃんと入魂鎮座式もやりました。」

滑り止めが施された“刻み蹄鉄”がまつられている
画像:北海道Likers
山中さんのパートナーの洋子さんも、当時、帯広競馬場の敷地内にある『馬の資料館』の館長を務めていたため、おみくじの文章やイラストを考えたり描いたりしたのだそう。
「ばん馬は可愛い!」
山中さんは十勝管内士幌町のご出身ですが、『とかちむら』の村長となるまでは、ばんえい競馬に触れる機会はなかったそうです。しかしすぐに、ばん馬に心奪われたと言います。
「ばん馬のことを知り始めると、抱きしめたいくらい好きになってしまいました。なんでこんなに可愛いんだろう?って。忙しく疲れていた時、『とかちむら』から見えるばん馬の姿に、癒やされ、救われたこともあります。競馬場内の『ふれあい動物園』にも、毎日ばん馬に会いに通い詰めた時がありましたよ。まるで会話ができるような気がして(笑)」

画像:北海道Likers
「なんだろう、なんか好きなんですよね、本当に。可愛いばん馬が頑張っているんだから、こっちも頑張ろうと思えるんです。」
今回お話を伺った後に、『ふれあい動物園』へご一緒させていただいたのですが、ばんえい十勝のPR馬・ハクウンリューと、たしかに“会話”をしているように見えました。
帯広競馬場をキッチンカーの“聖地”に!
ご家庭の事情などもあり、『とかちむら』村長を退いた山中さんは、2017年にキッチンカーを開業。
2019年には、現在も代表理事を務める『とかちフードトラック協会』を設立します。その頃から、帯広競馬場でイベントが行われる際には、キッチンカーやフードトラックが場内に並ぶ光景が見られるようになり、やがて今では当たり前のものとなりました。

画像:北海道Likers
そして、2024年10月には、帯広競馬場で『キッチンカーグルメグランプリ』が開催されました。この中心を担ったのも、山中さんです。
「ばんえい十勝さんから、ハロウィン関連イベントを前年以上に盛り上げたいというご相談をいただきまして、ぜひやらせてくださいとお願いしました。」
企画から始まり、協会員との調整、ミュージシャンのブッキングなど、そのすべてを山中さんが手がけました。準備期間も短い中ではありましたが、結果的に多くの来場者が訪れて大盛況でした。

“ばんえい音楽祭”も併催された
画像:北海道Likers
「でも、まだまだ膨れ上がらせたいなと思っています。協会員の中からも“競馬場を拠点にできれば最高”との声も上がっており、いずれは帯広競馬場をキッチンカーの“聖地”にしたいという思いもあります。」
人がいて、馬がいて、キッチンカーは生まれた
キッチンカーのルーツは、19世紀初めのアメリカで、荷台に調理用具や食材を積んでカウボーイとともに移動した幌馬車『チャックワゴン』であるとの一説もあります。
今はエンジンのついたキッチンカーに変わりましたが、昔はその手段が車ではなく馬だったのかもしれません。
「農耕馬としての文化を継承しつつ、ひき馬競馬としてのマネタイズを図っている帯広競馬場で私たちにできることは、“食”の側面だと思っています。競馬ファンだけでなく、ご家族で来てほしいと考えた時に、競馬以外にも楽しめる何かが必要になるはずです。キッチンカー運営によって、そのお手伝いができればと考えています。」と山中さんは話します。
さらに、「キッチンカー用のトレーラーをばん馬に曳いてもらって『チャックワゴン』のような風景を再現するのも面白いのでは!」など、考えていることはいろいろあるのだそう。
ばんえい競馬には、もっともっと大きな可能性がある!

山中大輔さんと、妻・洋子さん
画像:北海道Likers
「もちろん自分のキッチンカーに、皆さんが買いに来てくださって、“おいしい!”と笑顔を見せてくださるのは、本当に嬉しいことです。同時に、イベント作りに困っている、どうしたらいいかわからない、そういった時に手助けをして成功につながれば、何千人何万人が喜んで笑顔になってくれる。そういった場作りをやっていきたいとは、ずっと思っています」と話す山中さん。
キッチンカーのオーナーとして多忙な日々を過ごしながらも、自らの利益だけを求めるのではなく、ばんえい競馬を盛り上げたいという山中さんの気持ちが伝わってきます。
「北海道遺産であり世界で唯一の『ばんえい競馬』は、贅沢なくらいの特色と魅力を持っています。まだまだできることは無数にあると思っています。」山中さんの目には、“ばんえい競馬はポテンシャルしかない”と映っているようです。
北海道Likersライターのひとこと
筆者もばんえい競馬好きの一人として共感するとともに、山中さんの思いが今後どのように形になっていくのか楽しみにしています。
ばんえい競馬の最高峰レース、『農林水産大臣賞典第57回ばんえい記念』が行われる2025年3月16日(日)にも、『タコス屋シーガルキッチン』さんをはじめ、多くのキッチンカーが帯広競馬場で出店する予定です。
ばんえい競馬を楽しみながら十勝のおいしい食を味わって、これまで紡いできた馬文化とこの先の可能性に、思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。
文/古谷野 豪
【画像】タコス屋シーガルキッチン/北海道Likers
Sponsored by ばんえい十勝