店構えはそのままに味は極めた。父から息子へ引き継がれる「こだわりの道産そば」【札幌市南区】
札幌市南区真駒内通りに、歴史を感じる雰囲気の飲食店があります。その店の名は「道産そば一膳」。北海道産のそば粉を使った道産そばが評判で、遠方からもお客さんが訪れる人気店です。現在は親子二代で切り盛りしていますが、ここまでの道のりは平たんではなかったそう。店主の斎藤正典さんに話を伺いました。
大学受験のはずが料理人に!?
正典さんは名寄市で生まれました。父親は国鉄に勤務。幼少のころから道内あちこちを転勤していたそうです。写真を撮ることが好きだった正典さんは、東京の大学の芸術学部を受験します。しかし面接で聞かれたのは、夢や目標ではなく、親の経済状況ばかり。「なんだ、この大学は!」と憤慨して受験を取りやめてしまいました。
「他の大学を受ける予定はなく、この先どうしようかと考えていた時に、目に飛び込んできたのが飲食店の看板でした」
お客さんに喜んでいただいたことが自信に!
心機一転、正典さんは旭川市内で板前の道を歩み始めます。料理人としての筋の良さを認められ、武者修行のために東京の割烹で働いたこともありました。
「花板(調理場で最も位が高い人)が盲腸で一週間休んだ時に、宴会を任されたことがありました。食事が終わってお客さんに呼ばれたので、『叱られる、もうクビだ』とドキドキしましたが、『いつもより美味しかった』と言われ、チップをはずんでもらいました」
その後、さまざまな店で働いたのち、独立して市内に居酒屋「藤よし」を開業。全国から美味しいものを取り寄せて提供する人気店でしたが、「夜は家族と一緒にいたい」との思いから、長男の一輝さんが小学生になると同時にそば屋に転換しました。「東京で板前の修業をしていた時に、昼間にそば打ちを学んでいたので、これならやれると思いました」
理想のそばを求めて「一膳」をリニューアル
旭川市で数年間店を続けたのちに、知人の誘いで札幌市に転居します。中央区のそば店を任されるも、ライバル店との価格競争や家賃の高さに悩まされました。「職人として安価な粉は使いたくない。しかしそれでは割高になる」。そんな時に「郊外で承継者を探している店がある」という情報が耳に入り、2017年に現在の「一膳」を買い取ってリニューアルオープンしました。
天井に焼き肉用の換気設備があったり、内観が食堂風になっていたりするのも前のオーナーの名残。よく尋ねられるそうですが、札幌駅近くの「一膳」とは、店名が同じだけで別経営です。
「水の良さが、この店を承継した一番の理由です。そばを茹でるのも、かえしを作るのも水が命。自家製のそばつゆは半年寝かしています。屋号も内装もすべて引き継ぎましたが、そばだけは私が理想とする形に変えています」
「うまい」と唸ることしかできない。田舎そばと天ぷら
「道産そば」の名の通り、細麺は東神楽産、田舎そばには上川産のそば粉を使い、つなぎの小麦粉も北海道産を使用しています。今回は一日20食限定の『田舎そば』と人気の舞茸の天ぷらをいただきました。そばは弾力となめらかな食感があり、噛みしめるたびに旨味が広がります。
ワサビは辛口の寿司用を使用。細かな部分にも和食職人らしい工夫が取り入れられています。
舞茸の天ぷらは、まるで野球のグローブのような大きさ。「業者のサンプルを使ってメニューの写真を撮りましたが、実際に購入してみたらビッグサイズ。お客さんから“逆ドッキリ”と言われています」と正典さん。あまりに大きいので、カット用のナイフが付いてきます。
天ぷらは熱伝導が高い鍋で揚げられており、素材本来のおいしさが衣に閉じ込められています。「舞茸ってこんなにおいしかったんだ!?」と驚かされました。「お持ち帰りもできますよ」と言われましたが、冷めてしまっては勿体ない。全部美味しくいただきました。
一度は味わいたい「極上の穴子天ザル」
東川産の細麺も味わいました。上品に手繰るのではなく、ある程度の量を口に頬張ると、そばの旨味がダイレクトに伝わります。穴子の天ぷらもサイズ感十分。生臭さは一切なく、美味しく喉を通り抜けていきました。
9月からは幻のタマネギといわれる『札幌黄』の天ぷらが登場します。美味しいものを提供し続ける「一膳」から目が離せませんね。
そば打ちは力がいる仕事です。長年腱鞘炎に悩まされていた正典さんを思いやり、長男の一輝さんが「二代目」を襲名しました。「一膳は自分そのもの。跡を継いでくれて嬉しかったですね」と顔をほころばせます。これからも父親の背中を見ながら、変わらぬ味を引き継いでくれることでしょう。
<店舗情報>
■道産そば一膳
■住所:北海道札幌市南区石山東3丁目6-48
■電話番号:011-592-3422
⇒営業時間など詳細はこちら
【画像】道産そば一膳
⇒こんな記事も読まれています
■ 話題の新店も!おすすめテイクアウトグルメまとめ
■ 絶品グルメの宝庫!よらないともったいない道の駅