「旭川なのにサッシもなし」唯一無二のお屋敷を動態保存。当時のままに蕎麦料理店を営む女将の想い
旭川市内中心部に建つ、元酒造家のお屋敷。外観は洋風ですが、玄関ホールや応接室は数寄屋づくりの座敷があり和風な造り。
秋になると美しい庭の紅葉が目を惹くこのお屋敷は、昭和8年に建築されました。大切に住まわれたこの住宅を、令和の今も“動態保存”しながら大切に守っているひとがいます。
ここは「蕎麦と日本料理 おかだ紅雪庭(こうせつてい、以下、おかだ紅雪庭)」。今回は女将の髙橋富士子(たかはしふじこ)さんにお話を聞きました。
美しい庭と和モダンな建築「蕎麦と日本料理 おかだ紅雪庭」
旭川市の中心部にあるお屋敷は、昭和8年に2年もの年月をかけ建てられたもの。「北の誉」という酒蔵のオーナー・岡田重次郎氏のご自宅でした。
岡田重次郎氏から三代に渡り、住まいとして使われた岡田邸は、昭和9年と13年には皇室の方がご宿泊されるなど、旭川の迎賓館のような役割も果たしていました。
洋風建築ながら、中へ入ると畳敷きのお部屋や作りこまれた欄間、建具、作りつけの総桐箪笥など、和モダンな造りです。今もなお、建具やインテリアは当時のままに大切に残され、そして使われ“動態保存”されています。
岡田邸の取り壊しの危機を救った「旧岡田邸200年プロジェクト」
岡田邸は2003年の秋に売却されましたが、その1年後に知り合いの経営者を通し、岡田邸を見に行ったのが「おかだ紅雪庭」の髙橋さんです。
「なんとか再生させる手立てを考えて、店舗にしたい、保存のお手伝いをさせてもらえないかと考えました。そこで『旧岡田邸200年財団』を設立、清掃をし、京都の資産家から旧岡田邸を買い取りました」
改修する際には、「もしも岡田重次郎さんがリフォームするとしたらどうするだろう?」と考えながら、佇まいをそのままにすることを第一に進めてきたといいます。
髙橋さんの心を動かしたのはいったい何だったのでしょうか。
「旧岡田邸を見たとき、本当に美しいと感じました。相当上等な暮らしをしていたはずです。この寒い旭川の地で、裕福でありながら、寒さから守るような改築はしていなかった。寒さや不便さを愛おしみ、不便さをよしとして暮らしてきたのだろうと感じました。もしもほかの方が暮らしていたのなら、このままの佇まいではなかったことでしょう。岡田邸のためになるなら……という気持ちが根底にありました」
動態保存を活動の柱に。蕎麦とお料理を楽しめる「おかだ紅雪庭」へ
髙橋さんが代表理事となり、『旧岡田邸200年財団』は200年先の未来へも旧岡田邸を残し続けるため、“動態保存”という方法で活用しながら再生・保存することとなりました。
「古い建物を残すという考え方をそのまま表現し、来店する方に楽しんでいただきたいと思っています。今後も建物に負けないような居心地を提供していきたいですね」
お蕎麦と天婦羅を楽しむ、限定「海鮮天ぷらセット」
「おかだ紅雪庭」のお料理は、旭川や北海道産の季節の食材にていねいに手をかけた、おいしく贅沢なお料理。筆者も美しい歴史的建造物のなかで美しいお料理をいただきました。
「おかだ紅雪庭」は、お昼と夜(予約のみ)の営業。筆者はお昼に訪問しました。
メニューはシンプルな『もり』『おろし』『鴨せいろ』などのお蕎麦と、『季節の天ぷら』『手作り豆腐』などの一品料理、『お昼御膳』(コース料理)など豊富です。
筆者がいただいたのは、『限定 海鮮天ぷらセット(冷たいお蕎麦)』2,750円(税込)。温かいお蕎麦も選べます。天ぷらは、えび・ほたて・お魚・ししとう・ウニの大葉巻き。お抹茶塩でいただきます。
天ぷらは、新鮮な食材をちょうどよい衣の量が引き立てています。大葉にウニが包まれているなんてなんとも贅沢!
お蕎麦は幌加内産の蕎麦粉で、やわらかな口当たり。お出汁はカツオが効いていてとってもおいしい! 普段あまり蕎麦湯はいただきませんが、お出汁をもっと味わっていたく、蕎麦湯を入れて最後まで堪能しました。
髙橋さんに今後の想いを聞きました。「次世代のひとも、ここで過ごしたい、食事をしたいと思っていただけると嬉しいです。旧岡田邸がこの旭川で愛され続け、維持・保存を継続していくことが願いですね」
旧岡田邸を見たときから変わらぬ想いの髙橋さん。
「おかだ紅雪庭」では、毎月イベントも開催しています。音楽会・講演会・写真撮影コンテストなど目白押し。お食事だけではなくイベントを通しても素晴らしい旧岡田邸を見て感じることができます。
お近くを通った際は、ぜひ足を止め外観やお庭を、そしてお食事をいただきながら、昔ながらの贅をつくした暮らしを見てみませんか?
<店舗情報>
■蕎麦と日本料理 おかだ紅雪庭
■住所:北海道旭川市5条通16丁目1099
■電話番号:0166-22-5570
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