「なくすわけにはいかない」守り続けて創業60年。今も行列が途絶えない老舗惣菜店(旭川市7条通)
旭川市の中心部にはJR旭川駅から約1キロメートルも続く、恒久的歩行者天国『買物公園』があります。
1972年からスタートした『買物公園』には、デパートや商店、喫茶店や雑貨店が立ち並び、車の往来を心配することなく安全に買い物を楽しむことができました。
それから約50年の時を経たいま、『買物公園』は週末も人の姿はまばら。JR旭川駅前から遠く4条から6条通りまで見渡せるほど、人がほとんどいません。車社会の普及により、市民は郊外の大型店舗へでかけるようになっていったのです。
そんな『買物公園』のはじっこに、『買物公園』と旭川市の歴史を見続け、60年以上人気の続くお惣菜屋さん「七福弁当 鈴木商店(以下、鈴木商店)」があります。今回は、2代目店主・市中秀昇(いちなかひでのり)さんにお話を聞きました。
「なくすわけにはいかない」妻の実家を継いだ理由
2代目・市中秀昇さんは、妻・利佳子さんと二人三脚でお店を営んでいます。今年で結婚28年。「鈴木商店」は、利佳子さんのご実家だそうで、24年前に1代目である義父の後を継ぎました。
結婚したころは札幌市内で営業のお仕事をしていたそうですが、妻の実家である「鈴木商店」にはもちろん何度も足を運んでいて、地元お客さんに愛されているお店様子をよく見ていたといいます。
あるとき、1代目店主である義父が年齢的なこともあり、お店を閉めるという話をきいた秀昇さん。「それなら自分が受け継いでお店をやろう!」と、誰にいわれるでもなく決意したんだとか。
「お客さんに愛されているお店をなくすわけにはいかないと思いました。決意したときは、札幌では主婦だった妻も忙しい日々になることを覚悟したと思います。旭川へ戻り家業を継ぐことになれば、自分も店を手伝わなければならないことはわかりきっていたので(笑)」そんな話を聞きながら、利佳子さんは笑っておられましたが、夫の家業を継ぎたいという意思はうれしかったのではないでしょうか。
お店でのお二人はさほど言葉を交わさないものの、阿吽の呼吸。営業しながら、それぞれの担当のお惣菜を仕込み、常に忙しく動かれていました。
朝は5時過ぎから仕込み。お休みも仕込みをしていることがほとんど
「鈴木商店」は、午前10時にオープンします。10時にはお惣菜を揃え、ご飯を炊き上げておかなければならないので、秀昇さんは毎朝5時過ぎから仕込みを始めているのだとか。
開店してすぐがお客さんのピークです。行列がお店の前から外の『買物公園』まで続くことも。
「1日に40~50品のお惣菜を作っています。売れ行きや、時間帯、お客さんの様子を見ながら、これまでの経験もふまえ作っていきます。お米は1日20kg以上は炊いているかもしれません。売り切れてしまう日もあれば、残る日もありますよ」
秀昇さんは主に揚げ物類を、利佳子さんは巻きずしや煮物を作りながら、ほかの従業員さんが対応しきれないお客さんも、待たせることなく接客もします。目の回るような忙しさ。なのにお客さんへの挨拶は、はつらつとしています。
一人ひとりのお客さんが会計を済ませると必ず顔を上げ、欠かさず「ありがとうございました!」と声をかけていました。作るだけではなく、お店全体を見ながら動き、お客さんにもお礼を尽くす姿は、お客さんもうれしくなるはず。お店が繁盛している理由は、おいしさだけではないなと感じるひとこまです。
鈴木商店の魅力は、安さとボリュームとおいしさ!そして、速さ!
「鈴木商店」には手作りのお惣菜がショーケースの中と上にずらりと並びます。
慣れたお客さんは、「お弁当・500円で・ごはん普通・揚げ物多め・あとはお任せ」など、店員さんに声をかけます。呪文のような注文に初見のお客さんは戸惑いますが、読んで字のごとく、「500円の予算で揚げ物の入ったお弁当を作ってください」とオーダーしているのですね! 店員さんたちは手際よく素早く、バランスよく、お惣菜をパックにつめていきます。
詰めたり、よそったり、袋に入れたり、お会計をしたりと、一人のお客さんに対して一人の店員さんが最後まで対応します。混雑と行列があっても、あっという間に自分の順番がくるので、待たされている感覚はありません。素晴らしい手際のよさと気持ちのよい接客です。
筆者は、「のりメンチ・ささみフライ・かにかま天・焦がしザンギ・煮物・マカロニと卵のサラダ・ごはん普通」でお弁当を作っていただきました。揚げ物は半分にカットしていただくことも可能なので、いろいろ食べたい方や少しだけがいい方にも優しいんです。
このボリュームで500円くらいだったかと思います。炊きたての温かなご飯。できたての揚げ物。優しい味わいの煮物。家庭の味がぎゅぎゅっと詰まったお弁当は、手作りの愛情を感じるおいしさ。毎日でも食べたくなるほどです。
いいお客さんが多いんです。お客さんの応援が励み
1代目のお義父さんから秀昇さんに代が変わり、お客さんの反応はどうだったのでしょうか。
「本当にいいお客さんが多くて。みなさん応援してくださいました。長くやってね、頑張って!と声をかけてくださる。ずっと通ってくださる常連さんの中には、味が変わったと仰る方もいますが、おいしいものをさらにおいしくするために、少しずつ味わいは変えています」
30歳から「鈴木商店」を継ぎ、24年。55歳になった秀昇さんに今後の展望を聞きました。
「最近は、SNSの普及で遠く市外・道外からもおいでくださる観光客の方も増えました。レトロなブームもあってか、若いお客さんも増えていて嬉しいです。ただ人員不足という課題もあって。お惣菜を選んでいただくだけではなく、お弁当をあらかじめ作っておいて販売する方法も視野に入れて、今も試験的に販売しています」
また、旭川市の『買物公園』については、「買物公園には人が全然歩いていなくて、シャッター街どころか建物が取り壊され、コインパーキングになっていくばかりです。それでも周辺には新しいカフェやカレーショップ、レストラン、和菓子店など元気なお店もいくつもあります。お客さんが来てくださる限りは、長くやっていきたいです」
昔からほとんど値段を変えず、もちろんボリュームも味わいもそのままに努力を重ねる「鈴木商店」。地元民からは「七福」(しちふく)の愛称で呼ばれている市民の大切なお店です。
多くの人に旭川の味と風物詩を届けてくれる市中さんご夫妻。明日のお昼も行列ができていることでしょう。
<店舗情報>
■七福弁当 鈴木商店
■住所:旭川市7条通7丁目 七福ビル1F
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