横浜から大好きな北海道へ移住!本に救われた店主が営業する「移動する本屋さん」
「憧れの土地に移住してみたい!」と思っていても、実現には至らないことが多いですよね。しかし、今回ご紹介する「月のうらがわ書店」の店主・長谷川彩(さい)さんは、高校時代から憧れていた北海道への移住を叶えました。
北海道移住を決断した経緯やエピソードとともに、気になる“移動する本屋さん”の営業にも密着。「移住をしたいのであれば、実行したほうがいい」と語る長谷川さんの想いにも迫ります。
移動する本屋さん「月のうらがわ書店」
長谷川さんが店主を務める「月のうらがわ書店」は、実店舗を持たない移動式の本屋です。そのため、店舗を間借りしたりイベント会場に出店するなどして、営業をしています。
今回の会場は、十勝にある幕別町駒畠の「里のあかり」というパン屋さん。
月に1度『月のあかりとかめ in 里のあかり』というパンと本、読み聞かせを楽しむイベントを開催していて、長谷川さんも本屋として参加中です。
古い民家を改装した店内は、初めて訪れた人でも不思議と居心地が良く、落ち着く雰囲気。
北海道や十勝にある身近な原料をもとに作ったパンが並びます。コーヒーと一緒に店内でいただきましたが、素朴で毎日食べたくなるような優しい味のパンでした。
こちらが、パン屋の一角に設置された「月のうらがわ書店」の陳列棚。本の表紙が正面に向いているものが多く、どんな本があるのかわかりやすい陳列です。
“移動する本屋”というと大量の在庫を持っていくイメージですが、実際には段ボール箱3つで、100タイトル程度の本なんだとか。会場の雰囲気や客層、季節に合わせた本を選んでいます。
長谷川さんとの会話を楽しみながら、知らない本と出会えるのは大型書店にはない魅力のひとつ。実際に、お客さまも次から次へと訪れ、長谷川さんと楽しそうにお話され、本を購入していましたよ。
北海道好きのきっかけは「水曜どうでしょう」
もともとは、本と同じくらい“お笑い”が好きな長谷川さん。高校生のときに友人からすすめられ、北海道のバラエティ番組『水曜どうでしょう』を観てから、北海道に興味を持ちます。
高校3年生のときに初めて北海道を訪れ、「この土地は自分に合う」と感じたんだそう。大学生時代に北欧スウェーデンへ留学した経験も、北欧の雰囲気に近い北海道への憧れをさらに増長させます。
新卒で入社した会社を退職したあと、憧れだった北海道で住み込みのアルバイトをします。場所は、ラベンダーで有名な中富良野町。
そのまま北海道に住むことも考えた長谷川さんですが、「長く住み続けるなら“自分で仕事を作れるスキル”が欲しい」と考え、一度地元である横浜市に戻りました。
地元に戻ったあとは、「手に職をつけるなら“本”にまつわる仕事がしたい」と考えます。
2014年、神奈川県の「湘南 蔦屋書店」のオープニングスタッフとして入社。それと並行して、2016年にはブックディレクター・幅允孝(はばよしたか)さんが代表を務める「BACH」に所属します。
「湘南 蔦屋書店」では書店のノウハウを、「BACH」では依頼のあった場所に合わせた選書の方法や、本の編集スキルなど多くを学びました。
やがて長谷川さんは、フリーランスとしての自力をつけ、北海道移住の計画を本格化させます。
北海道に強い関わりを持ちたい人を、北海道の自治体や企業が指名する“野球のドラフト会議”のような移住マッチングイベント『北海道移住ドラフト会議』への参加。そして、阿寒町のリゾートホテルでの2ヶ月間の住み込み勤務、運転免許の取得など、移住のための行動を起こしました。
そんななか、2020年に十勝・大樹町の“地域おこし協力隊”として着任することが決まりました。
“地域おこし協力隊”は北海道でも数多く募集していますが、大樹町ではほかの地域では少ない“フリーミッション型(企画提案型)”という形式。隊員自らが地域の課題やテーマを見つけ、活動方針や内容を決めます。
2020年9月に着任したあと、大樹高校の蔵書の見直しや、道の駅「コスモール大樹」の『まちなかライブラリー』開設に尽力。2023年には『大樹町子育て応援手帳』を制作するなど、“本”に関わる活動を広げていきます。
北海道は、ほかの都道府県に比べて公共図書館の設置率や書店がある自治体の割合が低く、読書環境がいいとはいえない地域。良質な本に出会ってもらう場が必要と考え、協力隊とは別に個人事業として移動する本屋「月のうらがわ書店」をスタートさせました。
明日がこないことも…ならば、好きなことをしたい
現在は、週4日大樹町で“地域おこし協力隊員”として働きながら、週末は書店の営業に携わる毎日。
“地域おこし協力隊”の任期は、通常3年。しかし、コロナ禍の影響で活動に制限があったことで、2024年3月末まで任期延長が可能となり、延長することを決めました。
長谷川さんがとくに好きな作家は、西加奈子さん。
自分が悩んでいるときに、ちょうどいいタイミングで答えが見つかるような本を出版してくれるんだそう。昨年(2022年)末に父親をガンで失い、悲しみに暮れるなか、同じくガンで闘病した西加奈子さんの新刊『くもをさがす』が寄り添ってくれました。
「そのときどきで、本に救われてきました」
そして、父親を失った経験から、「老後を考えても、こないことだってある」と、より強く思うように。
移住を考える人に向けても、「仕事や家族の事情などもあるかもしれませんが、移住をしたいという気持ちがあるのならすぐにでも実行したほうがいいです。仕事も選ばなければ、なんとかなりますよ」と笑います。
ちなみに、北海道の移住先として、十勝はおすすめなんだとか。
移住前は、北海道の冬の寒さと雪を心配していましたが、十勝は想像していたよりも雪が少なく、除雪する機会もそこまで多くありません。また、晴れた日が多く、食材そのものが美味しいのは魅力的だと語ります。
「とくに、アスパラと豆の美味しさに驚きました!」
長谷川さんの今後は、“本”に関する活動を主軸にしながら、「好きな場所で好きなことをしたい」といいます。英語や現在勉強中の韓国語を活かした仕事にも興味があり、ますます活動の幅が広がりそうな予感です。
「魅力的な書店が多い東京では、成り立たない仕事です」と、長谷川さん。
たしかに、移動する本屋さんは、書店のない地域が多い北海道ならではの仕事といえます。ただ、出会いの場が少ないからこそ、出会えたときの喜びは計り知れないのかも。
これからも、長谷川さんの好きな北海道で、道民と“本”が出会える場を提供し続けて欲しいと願います。
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