若木日出夫さん

83歳、目指すは日本のスミソニアン博物館。登別「古趣 北乃博物館」の野望

温泉の街として名高い登別に、全国にも珍しい“私設博物館”があります。市内で玩具店を経営する若木日出男さんは、自身や知人が集めていたコレクションを展示するために、2014年4月に『古趣 北乃博物館(以下、北乃博物館)』をオープンしました。

1階には骨とう品や古い映画のポスター、2階には昭和40年代以降を中心とした玩具がところせましと展示されています。目標は“日本のスミソニアン博物館”。さまざまなモノをコレクションする理由と、今後の野望をお伺いしました。

すべてのモノが文化的資産

若木日出男さん(83)は、30歳まで鉄鋼関連の会社に勤め、その後さまざまな仕事を経験しました。当時(昭和40年代)は子どもが多く、プラスチック製のおもちゃが流行。「その前に手がけたアパレルの仕事は売掛が多く、回収に苦労したけど、おもちゃなら現金収入になると思って」という現実的な理由もあり、市内におもちゃ屋を開店しました。

『北乃博物館』の展示物は1万点以上、バックヤードのストックも含めると膨大な量のモノがあふれています。さまざまなモノが混在しているように見えますが、「人間が作ったものと自然が作ったもの、有形と無形に分けている」と言います。

「人間にはモノを作る力があります。たとえば神様も人間が作り出した無形の概念です。その存在は目に見えませんが、像などモノとして形にされています。音楽はレコードに、映画はフィルムに、無形のモノを有形にすることで、芸術となるのです。この世にあるモノには作られる理由があり、作った人がいる。すべてのモノが文化的資産だと思っているので、一般的な価値にとらわれず、あらゆるモノを収集しています」

ここだけの話、奥さんはコレクションにのめり込むことや、博物館の運営に難色を示しているそうです。「我慢を強いてばかり」と反省する一方で、「こんなことは信念がないとできない」と言います。『北乃博物館』をオープンしたとき、若木さんはすでに76歳。バイタリティがなければできるものではありませんね。

おもちゃだけではない!北乃博物館の本当の凄さ

『北乃博物館』は“おもちゃ博物館”として知られ、ソフビ(ソフト塩化ビニール)人形や超合金、ミニカー、お面など、誰もが懐かしくなる品々が並んでいます。

「お客さんのほとんどが、2階のおもちゃを見ただけで帰ってしまいますが、本当は1階の展示物の方が驚くべきものが多いんです」と若木さん。「今日は時間があるかい?」と言い、一つひとつ説明してくれました。

広告入りのタバコの箱

広告入りのタバコの箱 出典: 北海道Likers

モノは役割を終えて捨てられたり、手が加えられて異なるものに変化します。一度消えてしまったモノは、二度とこの世に生まれることはありません。お酒のラベルや蓋、タバコのパッケージなど、すぐに捨てられるような小さなものも、時間が過ぎれば貴重な資料になります。

手にしている日本酒『北の錦』の瓶は、製造元にも残されておらず、蔵元に寄贈すると大変喜ばれたそうです。

藤女子大学で使われていた古いオルガンが、なぜか『北乃博物館』にありました。捨てられる予定のオルガンがあると聞き、引き取りに行ったそうです。「当時の職員がいれば希少性を評価できたのでしょうが、今の職員さんには、ただの壊れたオルガンにしか見えなかったのでしょうね」と若木さん。大学とともに歴史を歩んできたオルガンが、失われずに済みました。

無造作に置かれた希少な品に頭の中が「???」

札幌の骨とう品店で安価に入手 白枠なし

札幌の骨とう品店で安価に入手 出典: 北海道Likers

展示品の中には、歴史的価値があるモノも含まれています。公的な博物館ではガラスケースに入れられ厳重に保管されていますが、ここでは無造作に置かれています。そのため「これ、ホンモノですか?」と聞いてくる人も多いのだとか。「ここは博物館。ホンモノか、ニセモノか、見分けがつかない人こそニセモノ」と、若木さんは言い切ります。

販売は行っていません 

販売は行っていません 出典: 北海道Likers

また、来館者の中には展示物を売ってほしいという方も多いそうです。「博物館に行って展示品を買う人はいないでしょう。ここでは“モノを見ること”を楽しんでほしい」と、ムチャなリクエストに難色を示します。

名品・珍品が混在。「実はこの書の作者は…」

数多い展示品の中でも、この色紙は珍品中の珍品。

登別に近い壮瞥町に昭和新山という活火山があります。1943年に畑だった土地が噴火し、1年で10階建てマンションに相当する高さまで隆起しました。 世界的にも私有地で火山活動が起こるのは珍しく、郵便局長・三松正夫氏が買い取って記録を続けていました。

何とこの色紙は、昭和新山所有者となった三松氏のものなのです。昭和新山が観光地になってから、当時86歳の三松氏がバスガイドにプレゼントしたものだと伝えられています。

「面白いエピソードですが、たしかに説明がなければ何だかわかりませんね」というと、若木さんは、いたずらっ子のような顔で、「そうでしょう。数多く出回っていないものを展示しているから博物館を名乗れるんですよ」と微笑みました。

今は入手できないラッコの毛皮のベスト

今は入手できないラッコの毛皮のベスト 出典: 北海道Likers

これだけ多くのモノに囲まれながらも、「まだスタートラインに立ったばかり」と、収集に終わりはありません。目標は日本のスミソニアン博物館。世の中にあるあらゆるモノを収集したいそうです。

そんな若木さんを直撃しているのが“資金難”。1日10人を想定していた入館者数が、新型コロナウイルスの影響を受けて激減。維持することが苦しくなっています。たくさんの“文化的資産”を後世に残していくために、保存会を立ち上げたいと考えているそうです。

 

『古趣 北乃博物館』は、まるで若木さんの頭脳に迷い込んだような場所でした。訪れた際はおもちゃだけでなく、さまざまな展示物にも目を向けてくださいね。

<施設情報>
■施設名:古趣 北乃博物館
■所在地:北海道登別市登別東2丁目27番地3
■電話番号:0143-83-1730
■開館時間:10~16時
■休館日:水曜 ※12~2月は土・日曜のみ開館
■入館料:大人500円、高校生以下200円

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