
幕別に名種雄馬あり。名門・村田畜産が誇る経験と若い力とは
『ばんえい競馬』が行われている帯広市がある、北海道・十勝地方。その雄大な土地に根付く生産者の手により、数多くの重種馬が生まれ、大きく育ってきました。
今回は幕別町の『村田畜産』を訪れ、長きにわたり『ばんえい競馬』を見つめてきた村田律雄さんと、未来を担うご子息の堅馬さんに、お話を伺いました。
村田畜産(北海道幕別町)
北海道帯広市にあるばん馬の生産を行っている牧場。キンタロー、ニシキダイジン、インフィニティーなどのばん馬を繋養。村田律雄(むらたりつお)
北海道幕別町出身。「村田畜産」2代目として名種雄馬を擁し、ばんえい競馬の発展に寄与。村田堅馬(むらたけんま)
北海道幕別町出身。会社員を経て、2020年に「村田畜産」に戻り、3代目として生産の世界へ。
金看板コウシュハウンカイ

画像:ばんえい十勝
生産者と聞くと、繁殖牝馬が何頭もいる生産牧場をイメージするかもしれませんが、『村田畜産』は律雄さんが「父の代から種馬一本でやってきた」と言う、いわば『種馬場』で、これまでには1億円馬キンタロー、

画像:ばんえい十勝
『ばんえい記念』優勝馬ニシキダイジン、インフィニティーなど、ばんえい競馬ファンなら誰しもが知る名馬が種雄馬として繋養されてきました。

画像:ばんえい十勝
現在は2頭の種雄馬がいますが、そのうちの1頭がコウシュハウンカイです。競走馬として191戦50勝、重賞競走でも15勝を挙げるなど大活躍。2021年3月の競走馬引退後から『村田畜産』で過ごしています。

「もっと大きい馬は他にもいるけど、何より馬体のバランスが良い。気性が良くて、種付けも上手。」
そう律雄さんが評すコウシュハウンカイは、産駒の評判も良く、交配料は“いま一番高いと思う”ほどの金額に設定されていながら、道南や青森からも種付けに訪れる牝馬がいるほどの人気種雄馬です。
競走馬としての人気も高かった同馬ですが、見学も受け付けているそうで、「今日も東京からファンの方が来ていたよ。」と律雄さんが笑顔で教えてくれました。
会社員から転身し、父が待つ馬の世界へ

名種雄馬を擁し、ばんえい競馬の発展に寄与してきた『村田畜産』ですが、律雄さんの父・義雄さんから数えて三代目となる堅馬さんは、「小さい頃から祖父や父が馬産に携わっているのは見ていましたが、牧場の仕事には特に興味は持っていませんでした。」と言います。
現在31歳の堅馬さんは、高校卒業後にサラリーマンをしていた時期もあり、律雄さんと同じ道を歩み始めたのは、5年ほど前から。
「会社勤めをしていた頃に、父から“家の仕事を継がないか”と冗談半分のように言われたことが切っ掛けなのですが、それも面白そうだな、どんな世界なんだろうな、という気持ちでした。」
新たな世界へ足を踏み入れ、馬の血統について調べていくうちに、その奥深さに惹かれ始めるとともに、祖父と父が手がけてきた『村田畜産』の種雄馬への思いも芽生えてきたそうです。

画像:ばんえい十勝
「強い馬の血統表を見ていると、ダイヤテンリュウ、ジアンデュマレイといった名前が多く出てきて、ウチにいた種馬だと気づき、自分もこんな種馬を持ってみたいと思うようになりました。」
ちなみに、調べるのが難しい昔の馬については、律雄さんに尋ねるそうなのですが、決まって詳らかな答えが返ってくるとか。
「父は、なんでも知っているので。」と言う堅馬さんに対して、「そりゃあ経験が違うから(笑)」と返す律雄さんです。
重種馬生産者が抱える課題

近年は全国的な認知度も高まりつつあるばんえい競馬ですが、現在の喫緊の課題と言えるのが、重種馬の生産者数が減っていることです。一時期の売上不振によって馬主への賞金が大幅に減額され、それに伴い馬の取引価格も急落、その頃に廃業した生産者が数多くいるとも聞きます。また、他の第一次産業と同様に、高齢化と後継者不足にも悩まされています。
「自分の場合は、当たり前のように身近に馬がいて、本当に馬が好きだったし、早くから親の跡を継ぐという意志を持っていたけど、いまの若い人たちは馬に対する馴染みもないから。」と律雄さんは話します。

※昭和63年までは在来馬、ポニー、乗馬馬を含む。平成元年以降は重種馬(輓系馬)のみの頭数
生産者が少なくなれば馬が減るのも道理で、1990年代半ばから減少へと傾いた生産頭数は、2007年にばんえい競馬が帯広単独開催体制となった以降の20年ほどだけでも、ほぼ半減しています。現状の打破は難しいのでしょうか。
「それでも最近は馬の価格が上がり、採算が合うようになってきたことで、興味を持つ若い人も出始めている。」とも律雄さんは言います。
「もともと馬産をやっていて、一度やめた方が、また牝馬を購入して繁殖を再開したり、ほかにも牛農家さんが馬産を始めたりと、ここ数年はそういった話を聞くようにもなりました。少しずつですが増えている実感もあります。」と堅馬さんが言葉を継ぎます。
厳しい状況の中でも、徐々に光は見え始めているのかもしれません。
ばんえい競馬への思いと未来への展望

生産の現場にいる立場として、お二人は、ばんえい競馬の未来をどのように望んでいるのでしょうか。
「若い人が一人でも多く増えて、生産をやってもらって、頭数を確保して、ばんえい競馬を長く続けられるように携わっていきたい。その中で自分の持つ種馬の子どもから、ばんえい記念を勝つような馬が出れば最高。」と話す律雄さん。
「ばんえい競馬は、もっともっと盛り上がってほしい。生産者も馬主も増えてほしいし、そこに自分が加わることで、馬の生産現場の活性化にもつなげていきたいと考えています。」と堅馬さん。
その中で、『村田畜産』が目指すものとは。
「あの馬を付ければ強い馬が出る、と思ってもらえるような、良い種馬を持つこと。それが生産者の、一番求めていることだと思います。」
堅馬さんの、語り口は静かながらも力強い言葉に、名門の三代目としての確固たる意志を感じました。

古谷野 豪
種雄馬の繋養がメインの『村田畜産』ではありますが、現在は繁殖牝馬を置いて生産も行っています。
3歳牝馬のミオリブロッサムが競馬場で奮戦中、これから入厩を控える1歳の牝馬もいるそうで、どちらも父はコウシュハウンカイです。
筆者も、ばんえい競馬ファンの一人、競走馬時代のコウシュハウンカイに魅せられた一人として、その2頭の今後にも注目していきたいと思います。
取材・撮影・文/古谷野 豪 写真提供/ばんえい十勝
連載「ばんえい競馬ではたらく人」では、ばんえい競馬を支える仕事に就くさまざまな人の魅力に迫ります。お仕事と記事の一覧はこちらから。
Sponsored by ばんえい十勝
 




