先代から継いだ「ふわふわシフォンケーキ」に150人の行列!本別町で100年以上愛されるお菓子屋さん
みなさんは本別町(ほんべつちょう)をご存じでしょうか? 帯広市の北東に位置しており、人口6,300人ほどの小さな町です。“日本一の豆のまち”といわれており、多種多様な豆が栽培されています。今回は本別町で100年続く老舗菓子店「松月堂(しょうげつどう)」へ取材に伺いました。
大正時代から続く老舗菓子店「松月堂」
お店は帯広市街地から車で約1時間。道の駅「ステラ★ほんべつ」のすぐ近くにあります。お店に駐車スペースがないので、道の駅に立ち寄ったついでに車を置いて徒歩で来るお客さんも多いそう。
今回は4代目店主の佐藤隆史さんにお話を伺いました。
1917年、初代の竹次郎さん(隆史さんの曽祖父)が神奈川県から移住し、本別町で「松月堂」を創業。第二次世界大戦の本別空襲(1945年)でお店が全壊しましたが、翌年ごろに店舗を新設。1976年の改装、1993年に現店舗オープンという歴史を経て現在に至ります。3代目喜一郎さん(隆史さんの父)が洋菓子を始めたのが1995年。その6年後の2001年に現店主の隆史さんが4代目を継ぎました。
隆史さんがお店を継いだのは喜一郎さんの体調悪化がきっかけなんだそう。隆史さんは高校卒業後、すぐに札幌の洋菓子店で修業をはじめ、21歳のときに結婚。その結婚式に喜一郎さんが来られず、はじめて体調悪化で余命が長くないことを知りました。すぐに新婚旅行をキャンセルし、働いていた洋菓子店を退職して本別町にUターン。急な退職を許してくれた修業先の社長には今でも感謝しているそう。
「松月堂」の看板商品「シフォンケーキ」
店を閉めるつもりでいたお母さまの反対を押し切って、店を継ぐことにした隆史さん。「“松月堂”の名前がなくなることが嫌だったんです」と話します。菓子修業を始めてわずか2年ほど。店で働いたのは子供のころの手伝い程度で、喜一郎さんと一緒に仕事をしたこともありませんでした。和菓子も作れない隆史さんが店を継ぐことに、周囲は大反対。
それでもなんとか店を続けてこられたのは、地域の方々やお店に関わってきた人々の協力と、喜一郎さんがレシピを考えた「松月堂」の看板商品でもある『シフォンケーキ』のおかげなんだとか。『シフォンケーキ』を試作しては地元の方に試食してもらい、何十回も試行錯誤を繰り返して今の味にたどり着きました。
「特別なレシピではなく特別な材料も使っていませんが、シンプルだからこそ長く愛されるんだと思います」と隆史さん。値段が手ごろでボリュームもあるので、手土産として5個、6個とまとめ買いする人も多いんだとか。その『シフォンケーキ』も、隆史さんがお店を継いだ当初は全く売れていませんでした。
売れるきっかけを作ったのは、先日惜しまれながら閉店した「藤丸百貨店」での『菓子大国とかちフェスティバル』への参加。初日は全く売れなかったものの、販売していた奥さまの努力もあり、最終日には200個も売れたんだそう。「これがきっかけで、町外のお客さまにもたくさん知っていただけました。“藤丸百貨店”がなければお店は潰れていたかもしれないので、とても感謝しています」と話す隆史さん。
創業100周年を迎えた2017年にはお店でイベントを開催。その際に『シフォンケーキ』を無料で配りましたが、9時開店なのに朝7時30分から約150人のお客さんが列を作る大盛況。人が集まりすぎて入場制限をかけるほどでした。
『シフォンケーキ』のお味はというと、ふわふわで空気を食べているような軽い食感なのに、しっかり食べ応えもあって不思議な感じ。優しい甘さで、生クリームなどを添えて食べるのもおすすめです。少し時間を置くとしっとりとして、食感の違いも楽しめます。
魅力的なお菓子の数々
元気くん最中
隆史さんが開発に携わった『元気くん最中』は2013年に販売を開始。本別町のマスコットキャラクター『元気くん』をモチーフに、中の餡には本別町産のくり豆を使用し、仕上げられています。
「本別町を代表するようなお土産がないので作ってほしい」という声と、地元の豆農家からの依頼で誕生した最中。かわいらしい『元気くん』のキャラクターと、ほくほくとした栗のような食感のくり豆餡が人気の一品で、一時は生産が追い付かないほどでした。
お店や道の駅「ステラ★ほんべつ」で販売されており、人気のお土産になっています。これをきっかけにマスコットキャラクター『元気くん』も人気になり、グッズも続々と販売されるようになりました。
祝年ロール
創業100周年を記念して作られた『祝年ロール』。スポンジ生地で、きな粉入り生クリームを巻いています。『シフォンケーキ』とは違って、重みのあるスポンジ生地。きな粉には本別町産の『中生光黒』という黒豆を使用しています。
食べるとスポンジ生地やクリームの味に負けない、しっかりとしたきな粉の風味が口いっぱいに広がりますよ。冷凍で販売されているので、半解凍の状態で食べるとまた違った食感。写真のプレーン以外に、竹次郎さんの出身地・神奈川県足柄市(旧岡崎村)の特産品であるお茶をスポンジ生地に使用したバージョンもあります。
しいたけ最中
こちらは創業当時から作り続けられているお菓子『しいたけ最中』。昔、町内近隣で採れたしいたけをお菓子にしたことがきっかけで誕生しました。十勝産の『大手亡(おおてぼう)豆』を使った白餡と、2日間じっくり炊いたしいたけを合わせたロングセラー商品です。しいたけの味はほぼ感じないので、しいたけが苦手な方でも食べられます。
本高フィナンシェ
本別高校「放課後SOY倶楽部」の学生たちと共同でレシピ開発し、商品化した『本高フィナンシェ』。本別町「前田農産」の小麦『きたほなみ』、上士幌町「十勝養園」のはちみつ、清水町「あすなろファーミング」の無塩バターなど十勝産素材にとことんこだわっています。
2022年11月に道の駅やお店で開催された試食販売会は、行列ができるほどの大盛況で「藤丸百貨店」での販売会でも大人気でした。現在はプレーンのほかに『祝年ロール』と同じ『中生光黒』を使ったきな粉味も登場。本別町のふるさと納税返礼品にも選ばれました。
『本高フィナンシェ』の商品開発がきっかけで、製菓業の道に進んだ学生もいたのだそう。表面は固く、中は柔らかくしっとりした生地に、はちみつの優しい甘さとバターの風味が香ります。そのまま食べても十分おいしいですが、トースターで軽く温めるとバターの風味やはちみつの甘さが強くなり、おいしさ倍増です。
隆史さんが企画!おもしろイベントも開催
お祭り好きの隆史さんは、お店でさまざまな“おもしろイベント”を企画されています。2023年1月5日から1月14日までは『GO TO HAGE』と銘打ったハゲ割キャンペーンを開催しました。ハゲている人は1割引きで商品を購入可能。ハゲかつらなどでもOKで、20~30人の方がキャンペーンを利用してくれたそう。
札幌市のお店にもチラシを置いていため、札幌市からわざわざ来る人もいたのだとか。チラシの裏には正月のお餅販売広告を入れており、チラシを見てお餅を買いに来る人もいたそうです。
「家族には反対されますが、これからもイベントは続けます。お店を知ってもらい、来てもらうきっかけになれば」と隆史さんは言います。イベント情報はFacebookやInstagramで発信されているので、気になる方はチェックしてみてください。
「“店を継ぎたい”と言ってくれている息子に、最高の状態で引き継ぐのが目標です。自分の代で100周年を迎えたので、次は200周年を目指して頑張っていきたい」と隆史さん。
みなさんもぜひ「松月堂」を訪れてみてください。バリエーション豊かなお菓子の数々と、看板商品である『シフォンケーキ』のおいしさにきっと驚くはずです。
<店舗情報>
■松月堂
■住所:北海道中川郡本別町3丁目3-7
■電話番号:0156-22-2560
⇒営業時間など詳細はこちら
【画像】松月堂