200mに凝縮された十勝の歴史。「ばんえい競馬」帯広市単独開催20周年に寄せる、市長の想いとは

北海道・十勝の中心地、帯広。ここでしか見られない、世界で唯一の競馬、ばんえい競馬をご存知でしょうか?

体重1トンを超える巨大な馬たちが、重い鉄ソリを引いて2つの障害を越える姿は、圧倒的な迫力と感動を呼び起こします。今回は、単独開催から20周年という大きな節目を迎える帯広市の上野市長にインタビュー。

ばんえい競馬に込められた十勝の歴史、これからの観光・地域経済の展望、そして未来に向けた熱い想いを語っていただきました!

単に珍しいだけじゃない。原野を切り拓いた馬たちの「歴史と文化」を今に伝える

帯広市長にとって、「ばんえい競馬」とはどのような地域資源なのでしょうか?

ばんえい競馬は世界で唯一、ここ帯広にしかないものですから、当然きわめて重要な地域資源です。しかし、ただ「珍しいから価値がある」というわけではありません。

画像:一般社団法人ばんえい十勝

そもそも、ばんえい競馬で活躍するばん馬(挽馬)たちは、十勝の原野を切り拓き、重い木を運び、畑を耕してきた農耕馬の系譜です。ここには十勝の開拓の歴史、農業、そして何より“人と馬が共に生きてきた文化”そのものが息づいています。

それを今も直に体感できる場所が帯広競馬場であり、ばんえい競馬なのです。

帯広市にとって、ばんえい競馬が果たす役割とは何ですか?

私は馬を生産し、その文化をきっちりと未来へ繋いでいく『馬産振興』、十勝の歩みや歴史的な背景を伝えていく『開拓の記憶と文化の継承』、地域に多くの人を呼び込むきっかけとなる『観光への入り口』と大きく3つの役割、使命があると考えています。

この3つの役割を大切にしてきたからこそ、20年前に他の自治体が撤退していく中で、帯広市が単独で開催を継続するという決断を下し、今日まで続けてこられました。

200mのコースは「十勝の歩みそのもの」。山あり谷あり、最後までやり遂げるドラマ

ばんえい競馬のレース展開には、サラブレッドの競馬とは違った独特のドラマがありますよね。

そうなんです。もともとは農閑期に人々が集まって楽しんでいた『お祭りばん馬』がルーツとされています。

ばんえい競馬のコースは全長200m。その途中には2つの大きな山(障害)があります。山があるから、手前で立ち止まって息を整え、力を蓄えてまた登る。これって、文字通り十勝が歩んできた開拓の歴史そのものだと思いませんか? “山あり、谷あり、馬あり、人あり”。あの200mのコースには、十勝の歴史と人々の生き様が凝縮されているのです。

画像:一般社団法人ばんえい十勝

また、サラブレッドの競馬は鼻先がゴールに入れば勝ちですが、ばんえい競馬は、ソリの最後尾がゴールラインを越えるまでゴールになりません。途中で立ち止まることがあっても、最後までソリを引き、仕事をやり遂げて初めて完結する。その泥臭くも力強いストーリーがあるからこそ、私たちは馬の姿に自分たちの人生や地域の歩みを重ね合わせ、深く感情移入してしまうのだと思います。

通過型から滞在型へ。夜の十勝を楽しみ尽くす、観光の新たな主役

観光や地元経済、十勝の誇る食や農業との結びつきについてはいかがでしょうか?

農業の分野では、今は自動運転トラクターなどAI化が進んでいますので、馬が直接関わることは少なくなりました。しかし、馬が“十勝農業の始まりの象徴”であることに変わりはありません。そして観光の面において、ばんえい競馬は非常に大きな可能性を秘めています。

ばんえい競馬は土・日・月曜日の、昼から夜間にかけて開催されています。これは今、私たちが注目している『ナイトタイムエコノミー(夜間経済)』の強力な入り口になるのです。

画像:一般社団法人ばんえい十勝

これまでの十勝観光は、寄るけれど宿泊せずに抜けてしまう“通過型観光”が課題でした。しかし、夜9時頃まで競馬を楽しんでもらえれば、そのまま市内に宿泊する流れが生まれます。レースの後に『北の屋台』などの街中へ繰り出して美味しい食や地酒を堪能し、温泉に入って、翌日の昼までじっくり街中を回遊してもらう。

競馬場は中心市街地から徒歩で行ける抜群のアクセスにありますから、この強みを活かして“滞在型観光”への転換を強力に進めていきたいですね。

単独開催20周年のその先へ。現場と市、そして市民みんなで育てる未来の競馬場

来年は市単独開催となってから20周年という、大きな節目を迎えますね。

存続か廃止かで揺れていた当時、私の父が市議会の『ばんえい競馬特別委員会』の委員長を務めていました。全国から「なんとか残してほしい」という熱いメッセージがたくさん届いていたのを覚えています。当時の砂川市長が「単独でも続ける」と英断を下し、多くの方々の想いを繋いで20年が経とうとしています。

20周年は、単に「おめでとう」で終わるイベントではありません。これからの持続可能性と、さらなる広がりを考えるスタートラインです。

画像:一般社団法人ばんえい十勝

現在は現在は開催業務を『一般社団法人ばんえい十勝』が担い、現場運営をしていただいています。彼らには、若い世代やファミリー層など、これまで競馬に馴染みのなかった新しいファンが楽しめるような競馬場づくりを期待しています。

画像:北海道Likers

競馬場には、『ふれあい動物園』や『馬の資料館』、十勝の美味しいものが集まる『とかちむら』などもあります。実は、競馬というエンターテインメント、十勝の歴史、そして豊かな食が一体となった、まるで“IR(統合型リゾート)”のようなポテンシャルをこの規模感で既に持っているのが、帯広競馬場なんです。

市民の皆さんとの繋がりにおいて、これから取り組みたい課題はありますか?

実は近年、ばんえい競馬の収益から、帯広市の一般会計への繰り入れができるようになりました。つまり、ばんえい競馬の頑張りが、市民の皆さんの福祉や教育、生活向上のための予算として直接役立っているのです。

ただ、一般会計に入ると予算の“色”が消えてしまうため、市民の方々からは自分たちの生活に“ばんえい競馬がどう役立っているか”が見えにくいという現状があります。

これからは、この貢献を分かりやすい形で“見える化”していきたい。競馬に直接興味がない市民の方々にも、「ばんえい競馬が地元にあって本当に良かった」と実感してもらえるようにすること。これが、20周年を迎えるこれからの私たちの大きな挑戦です。

ぜひ現地へ!馬たちの熱い息遣いと、大迫力のドラマを体感してください

最後に、北海道ライカーズの読者へメッセージをお願いします。

映像やネットで観るのも便利ですが、ばんえい競馬の本当の魅力は、現地でしか味わえない、馬の息遣い、力強い足音、そして騎手たちの熱気にあります。

10代目帯広市長 上野庸介
画像:北海道Likers

ゆっくり歩いて馬と並走しながら応援できるのも、ばんえい競馬ならではの楽しみ方です。ぜひ帯広競馬場へ足を運び、あの200mのコースに凝縮された十勝のドラマを生で体感してください。美味しい十勝のグルメや温泉、そして温かい人々が、皆さんをお待ちしています。

北海道Likers編集部のひとこと

今回のインタビューを通じて、普段何気なく見ていたばんえい競馬の景色が、ガラリと変わって見えてきました。

特に印象的だったのは、200mのコースを「十勝の開拓史そのもの」と表現された市長の言葉です。坂の手前で一度止まり、息を整え、泥臭くも力強く坂を乗り越えて、最後の最後までソリを引ききる馬たちの姿。それはまさに、厳しい自然と向き合いながら原野を切り拓いてきた十勝の先人たちの歩みそのものであり、現代を生きる私たちの“山あり谷あり”な人生にも不思議と重なり、胸が熱くなります。

実はインタビューの最後、市長から「実は十勝は牛も熱いんだよ!」と、十勝で開催される『全国和牛能力共進会(和牛オリンピック)』のワクワクするようなお話も伺いました。馬に牛に、十勝の動物と人との深い絆、そしてそこから生まれる豊かな食文化は、無限の可能性がありそうです。

夜風が心地よいこれからの季節、ぜひ帯広競馬場で馬たちの温かい息遣いを感じたあと、美味しい十勝のグルメを味わう”ゆっくり滞在する旅”に出かけてみてはいかがでしょうか?

取材・文/北海道Likers編集部