ばんえい競馬田上美香厩務員

東京から移住を決めた田上美香厩務員が語る「ばんえい競馬」で知った人のぬくもり

2021.12.13

北海道民全体の宝物として選ばれた北海道遺産の中に、“北海道の馬文化”があります。現在、帯広市で開催されているばんえい競馬のばん馬たちもそのひとつです。ばん馬たちの多くは、明治の開拓時代に労働力として活躍した農耕馬の子孫にあたります。

今回お話を伺ったのは東京から帯広へ移住し、ばんえい競馬で厩務員として活躍する田上美香さん。彼女を北の大地へと導いた、ばんえい競馬の魅力を語っていただきました。

田上美香(たがみ・みか)1978年生まれ、東京都出身。厩務員。2008年、ばんえい競馬の世界に魅せられ帯広市へ移住。夫はばんえい競馬元騎手で現調教師の田上忠夫氏。

帯広に移住を決めた、ばんえい競馬との出会い

田上美香厩務員

今回の取材はオンラインで行いました。

北海道LikersライターKawahara:東京からばんえい競馬のある帯広市へ移住を決めたいきさつを教えてください。

田上さん:ばんえい競馬を知ったのは高校時代。卒業旅行で訪れた北海道のとあるサービスエリアで、ばん馬の大きな像を目にし「北海道には荷物を引っ張る大きな馬の競馬があるんだ」と強く印象に残っていました。いつか動物にかかわる仕事に就きたいと思っていましたが、東京に住んでいた頃は銀座にあるフレンチのお店で働いていました。

ばんえい競馬を初めて観たのは、ばんえい競馬の存廃問題が起こった2006年頃。「一度見ておかないと死んでも死にきれない」と思い立ち、お正月に一人で帯広競馬場を訪れました。ばん馬を初めて目にしたときは、その大きさや迫力に心を打たれました。

北海道LikersライターKawahara:初めて訪れたばんえい競馬で、とても印象深い出来事があったそうですね?

田上さん:翌日、帰る前にもう一度競馬場へ行ったら、お正月のイベントで調教師さんたちが大きな鍋で豚汁の炊き出しをしていました。「すごいな!」と思いながら見ていると、一人の男性が「15時くらいにできるから食べにおいで」と声をかけてくれました。

残念ながら帰りの飛行機の関係でその時間まではいられないことを伝えると「じゃあ一杯分だけ作っておくから顔出しな」って言ってくれて。ずっと東京に住んでいた感覚で、「一杯分だけ先に作ってくれるなんて、まさかそんな面倒なことしないだろう」と思っていたのですが、もしかしたらと帰る前に寄ってみたんです。そしたら、ちゃんと先に私の分を用意してくれていて、「寒いから食べて帰りな~」と言ってくれたんです。

都会にはない温かさや人情にとても感動し「ばんえい競馬が無くなったら、この人たちの生活も馬たちの仕事もなくなってしまう。何とかしたい」と、毎月帯広市に寄付金を送り続けていました。そのやり取りを続けていくうちにばんえい競馬にかかわる方々とのつながりができ、「帯広へ住み、ばんえい競馬を身近で応援したい」という想いが強くなり移住を決断しました。

田上美香厩務員

当時のお写真、ミルキーと 出典: ばんえい十勝

移住して数年は帯広市内のホテルで働いていましたが、ばんえい競馬のボランティア活動を続けるうちに調教師さんから「そんなに好きなら仕事してみないか」と声をかけていただき、厩務員になることができました。

ばんえい競馬でつなぐ馬文化への想い

北海道LikersライターKawahara:「かわいくてふわふわしていて、お人形さんみたい」と、ばん馬たちの話をするときに笑顔があふれる田上さん。実際にばんえい競馬の厩務員となってわかったことや感じたことはありますか?

田上さん:生き物と生活すると休みが一切ないんですよね。完全に今日は何もしなくていいよという日がない。初めて実際に経験してみて大変だなと思いました。でも、世話をしている馬たちが私を認識してくれると感じたときは、信頼関係が築けているのかなと思いうれしくなります。

パートナーである田上調教師と厩舎にて 出典: ばんえい十勝

また、お客さんとして競馬を観ていたときはわからなかったのですが、おっとりしている馬もいれば怖がりの馬もいたり、一頭一頭に性格の違いがあることにも気づきました。

北海道LikersライターKawahara:厩務員になってよかったと思うのはどんなときですか?

田上さん:馬の手入れをしたり、レース前にたてがみなどをきれいに飾ったり、なでたりと常に触れ合える環境にいられるときが一番よかったなと思います。

北海道LikersライターKawahara:これからの目標を教えてください。

田上厩舎

田上厩舎では馬の健康を第一に考えている 出典: ばんえい十勝

田上さん:常に馬が病気やけがをしないこと、レースで力が発揮できるように馬の体調を持っていくことを目標にしています。馬が心身ともに健康であれば結果がついてくるのではと思って接しています。

北海道LikersライターKawahara:全国の北海道ファン、競馬ファンにメッセージをお願いします。

田上さん:ばんえい競馬は、北海道の開拓の時代に行われていた農耕馬たちの力くらべがルーツだといわれています。ばんえい競馬を公営ギャンブルとしてだけではなくて、馬文化のひとつとして関心を持って見てもらえたらうれしいです。

住んでわかった帯広・十勝の魅力

北海道LikersライターKawahara:ばんえい競馬には広報馬のミルキーというばん馬がいます。その名の通り牛乳のように白く、おっとりとしてかわいらしい姿からファンの多い馬です。

ミルキーごはんの時間 出典: ばんえい十勝

帯広市から2008年に特別嘱託職員として任命されたミルキーは、ばんえい競馬のPRのために全国の競馬場へ出張し人間達と綱引き大会をしたり、たくさんの人々を背に乗せ写真撮影会をしたり、まさに体を張った活動をしてきました。そんなミルキーも18歳。現在は田上厩舎でお世話をしているそうです。ミルキーは元気にしていますか?

田上さん:今は元気いっぱいに過ごしていますが、実は生死をさまようほどの大病をした時期がありました。奇跡的に回復し、現在は重賞レースで誘導馬を務めています。

ミルキー

第53回ばんえい記念で誘導馬を務めたミルキー 出典: ばんえい十勝

厩舎で体調を管理するために競馬場内にあるふれあい動物園にはいませんが、コロナが落ち着いたら入場口付近で行うばん馬とのふれあいイベントなどでミルキーに会えるようになると思います。楽しみにしていてください。

北海道LikersライターKawahara:最後に田上さんが住む十勝・帯広の魅力を教えてください。

田上さん:北海道全体にいえると思いますが、十勝でとれるものは何を食べても本当においしいです。野菜は地元の直売所でいいものが買えるのが魅力です。また、ちょっと車を走らせるとたくさんの日帰り温泉があり、非日常が味わえるのもいいと思います。新得町のトムラウシ温泉、足寄町の芽登温泉、大樹町の晩成温泉がお気に入りですね。

 

―――住み慣れた土地を離れ、北の大地でばん馬とともに生きることを選んだ田上さんの決断。並大抵の覚悟ではできない、ばんえい競馬への深い愛情が伺えました。

ご主人である田上調教師と一緒にばんえい競馬を通して北海道の馬文化を支える田上さんと、田上厩舎のますますのご活躍を期待しています!

ばんえい女子とは:
世界で唯一、帯広競馬場でしか見ることができないばん馬によるレース“ばんえい競馬”。大きな馬と騎手が生み出す、力強い迫力は見る者を圧倒します。そんな「ばんえい競馬(ばんえい十勝)」を主催する北海道帯広市と、インターネット勝馬投票券(馬券)購入サイト『楽天競馬』を運営する楽天グループの競馬モール株式会社が実施する「ばんえい十勝応援企画」は、ばんえい競馬を通じた地域振興の取り組み。本企画では、騎手や調教師など、ばんえい競馬を盛り上げ、支える女性たちの活躍に迫ります。彼女たちだからこそ知っている、ばんえい競馬の魅力とは?

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【画像】ばんえい十勝

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