「もっと、豆と、生きる。」開拓時代の記憶を繋ぐ、上士幌の多種多様な豆づくり

北海道Likersの連載『情熱の仕事人』では、北海道のさまざまな分野の“仕事人”を取り上げ、その取り組みや志、熱い想いを紹介しています。

今回は、十勝・上士幌町で「もっと、豆と、生きる。」をコンセプトにこだわりの豆を栽培する『オリベの豆や』の関口さんにお話を伺いました。関口さんは庭先に蒔いた珍しい豆との出会いをきっかけに、在来種の栽培を始められました。開拓時代から続く希少な豆を守り育てる情熱や、現代の食卓へ“豆のある生活”を届ける工夫について語っていただきました。

画像:オリベの豆や

関口よしこ(せきぐち・よしこ)。
本州出身。上士幌町の畑作農家に嫁いだことを機に農業に携わる。道の駅で見つけた珍しい豆を庭に蒔き、それをきっかけに、在来種の豆の栽培を始める。現在は、北海道の歴史を感じる希少種を育てており、さらに、多種多様な豆を栽培・販売している。

偶然の出会いから始まった「もっと、豆と、生きる。」

十勝の中でも特に寒暖差が厳しい上士幌の大地で、こだわりの豆をつくられていますね。この場所で農業を始められたきっかけや、「もっと、豆と、生きる。」というテーマの原点について教えてください。

農家を始めたきっかけは、単純に言うと畑作農家に嫁いだからです。もともと農業に興味があったわけでもありません。また、在来種の豆を作り始めたきっかけも偶然です。どこかの道の駅で、珍しい模様の豆を見つけました。それを家の庭にまいてみたのが始まりです。

画像:オリベの豆や

なんとなく始めた在来種の豆栽培ですが、町のプロジェクトでコピーライターの方と知り合い、その方に「もっと、豆と、生きる。」というキャッチコピーを作ってもらいました。これが、自分の中にある豆への思いを改めて考え直すきっかけになりました。

豆たちが語りかけてくる“北海道の歴史”

『姉っこ豆』『くり豆』『パンダ豆』などの希少種から、開拓期の人々の生活に欠かせなかった豆まで多種多様な豆を栽培されていますね。豆たちが語りかけてくる“北海道の歴史”とは、どのようなものかお聞かせください。

歴史的に、豆と人は応援し合う関係だと思っています。行事食や日常の食卓で、豆は人の命と健康を支えてきました。そして、人は豆を栽培して食べることで、世の中に豆を広めてきました。

現在、スーパーマーケットなど大きいお店で売られている豆は、大豆・小豆・金時など数種類だけですが、世の中には数えきれないほどの種類の豆が存在します。開拓時代の北海道では、寒いこの地でどの豆がちゃんと育つのか、多くの種類の豆が試験的に栽培されました。

画像:オリベの豆や

栽培試験のために海外から輸入された豆や、入植してきた人が故郷で食べていた豆もあります。その中で、寒さに負けた豆や、土地に合わなかった豆もありました。つまり、北海道では実をつけず、消えていった豆がたくさんあったのです。

逆に言うと、いま北海道で栽培されている豆は、寒い北海道で覚悟を決め、生きようとした豆です。その豆を見た人たちもまた、ここで生きる覚悟を決めたのではないでしょうか。生き伸びて北海道に根付いた豆は、開拓民の命を守りました。さらに、食文化を作り、経済を支えてきました。

時代とともに姿を消した、北海道の礎を作った豆たち

開拓民の命を守ってきた多くの豆がある一方で、現在私たちが普段目にする豆の種類は限られていますね。

時代が進むにつれ、それまでの豆を基に品種改良が繰り返されました。その結果、“より多く収穫できる”“病害虫に強い”“栽培の手間がかからない”など機能性に優れた豆が開発され、栽培が奨励されてきました。

それと同時に、開拓時代に作られてきた豆はどんどん姿を消していきました。どちらが大切かは私にとって重要ではありません。どの豆も、北海道の礎を作った大切な豆だと思っています。

百年前の人の思いに触れる。希少種を育て続ける情熱

姿を消しつつある在来種など、希少種を作り続ける情熱の源は何でしょうか。

百年前に栽培されていた在来種の豆を畑に蒔き、その成長を見ていると、会ったことはない百年前の人の思いに、少しだけ触れられるような気がします。私が百年前の豆を栽培できるのは、その豆に人の思いが込められ、誰かの手に渡り続けたからです。

画像:オリベの豆や

今栽培されている豆も、いつか消えるかもしれません。それでも、人の思いが込められていれば、その豆が完全に無くなることはないと信じています。 そんなことを考えながら豆を栽培していると、やめられないなと思います。

私自身も本州出身です。そんなこともあり、毎年豆を眺めながら、ここで生きる思いを新たにしています。もしかすると、豆に自分自身を投影しているのかもしれません。

多種多様な豆を育てる苦労と、美味しさへのこだわり

非常に多くの種類の豆を栽培されていますが、それぞれ異なる個性や特徴があるかと思います。栽培において一番苦労されていることや、豆の美味しさを引き出すためのこだわりがあれば教えてください。

特に手間がかかるのは、ツルが伸びるタイプの豆の栽培です。3m近い竹を立てるのも撤去するのも、すべて手作業で行います。そのため、ツルが伸びないタイプの豆とは手間ひまが全然違います。

画像:オリベの豆や

また、美味しさへのこだわりもあります。どの農家もしていることですが、豆が根をはりやすいように土を柔らかくすることを心掛けています。また、土壌分析から肥料の量や種類を決めています。

「豆のある生活」への第一歩。手軽に楽しめる加工品の提案

生豆だけでなく、『豆の定期便』や『すぐに希少種の豆ごはんセット』など多彩な商品を手がけられています。現代の食卓で手軽に“豆のある生活”を始めてもらうための工夫や、消費者の方にどのように豆を楽しんでほしいかお聞かせください。

乾燥豆を手にしても、これを一晩水に浸して、翌日茹でて……と思うと、令和の感覚では「やってられない」と感じる人が多いのではないでしょうか。私もそう思います。しかし、茹でたての豆の甘さや、自分で作ったあんこの味は格別です。最終的にそこに繋がれば良いなと思いながら、加工品を作っています。

画像:オリベの豆や

一番手軽なのはふりかけです。また、豆ごはんセットはお米と一緒に炊くだけという手軽さです。炊く前に“豆を炒る”というひと手間を加えることで、より美味しい豆ごはんにできるという提案をしています。さらに、多品種の豆で作るピクルスにも思いがあります。豆の品種の豊富さに気付いてもらい、そこから豆への関心を持ってもらえたら良いなと思っています。

加工品は“豆のある生活”のファーストステップという位置づけです。繰り返しになりますが、“自分で豆を炊いてみる人”が増えることが、『オリベの豆や』のゴールのひとつです。

定期便の会報誌では、毎月の豆畑の様子や豆料理のレシピ提案などをしています。豆についてもっと知りたい、豆の畑に行ってみたいと思ってもらえるような内容を心がけています。

畑で生きる豆の姿を届けたい。今後の夢

『オリベの豆や』の豆を食べてくださる方々に一番伝えたいことと、今後、北海道の農業や豆づくりを通じて実現したい夢や目標をお聞かせください。

お客様には、豆がビニール袋に詰められてお店に並ぶ前の姿をぜひ見て欲しいです。畑で豆がどうやってできているのか、豆が畑でどう生きているのか。豆の生命力で満ちている畑を見ると、たぶん元気が出ると思います。

夢や目標は……昔と比べて、豆の消費が減っています。そのため、たくさんの人にとって、豆が食卓に上ることが普通になれば良いなと思います。さらに、家庭で茹でてもらえると、尚良いと思います。

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また、誰もいない道路や広い畑に、大きい雲の影が映るのを見るのも好きです。

北海道Likers編集部のひとこと

スーパーでは見かけない希少な豆一つ一つに、厳しい寒さの中で生きる覚悟を決めた開拓時代の生命力が宿っています。そして、先人たちの思いが込められていることに気付かされました。

令和の現代においては、“自分で豆を炊く”という行為は少し手間に感じるかもしれません。しかし、『オリベの豆や』さんが手がける手軽な商品から始めれば、無理なく日常に“豆のある生活”を取り入れられそうです。ぜひ皆さんも、北海道の歴史と豊かな味わいが詰まった豆たちに出会ってみてはいかがでしょうか。

取材・文/北海道Likers 取材協力/オリベの豆や