新しい戦略で勝つ&地元を盛り上げる「旭川ビースターズ」とは
北海道Likersの連載『情熱の仕事人』では、北海道のさまざまな分野の“仕事人”を取り上げ、その取り組みや志、熱い想いなどを紹介しています。
今回お話をお伺いしたのは『旭川ビースターズ』の代表・藤原尚也さん。北海道の野球チーム『旭川ビースターズ』で、さまざまな手法で選手の育成や地域貢献を行っています。
北海道の未来をつくる仕事人たちの情熱の根源とは……?
ビースターズ合同会社CEO兼球団代表 藤原 尚也(ふじわらなおや)
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)でTSUTAYA店舗、ツタヤオンライン事業、DBマーケティング事業を立ち上げる。その後、外資系化粧品メーカーのデジタルマーケティング責任者を経て、独立。アクティブ合同会社CEOに就任。マーケティング支援として、化粧品数社やアパレルブランドのドゥクラッセのCMOなどを兼務で歴任。現在は、青山商事にて「洋服の青山」のデジタル戦略などを推進する。
目次
旭川ビースターズとは?
『旭川ビースターズ』は、北海道旭川市を拠点とする独立リーグの野球チームで、『北海道ベースボールリーグ(HBL)』の一員です。地方の独立リーグチームとして、選手育成と地域密着を理念に掲げています。
独立リーグの特徴は、NPB(日本プロ野球)と異なり、地域ごとの特色を活かした運営を行う点です。『旭川ビースターズ』も、地元住民や企業と密接に連携しながら活動を続けています。試合の観客はもちろん、各市町に出向き地元の子どもたちや学校での指導などを通じて、地域と選手が自然とつながる環境を作り上げてきました。
選手たちの多くは、NPB入りを目指す若者や、さらなる成長を求めて挑戦する海外選手です。『旭川ビースターズ』は、こうした選手たちが次のステージへ羽ばたくための“育成の場”でありながら、地域に根ざした活動を通じて、旭川の活性化にも寄与する存在を目指しています。
藤原さんが「旭川ビースターズ」の代表を引き受けた理由
2024年、『旭川ビースターズ』の代表に就任した藤原さん。就任のきっかけは、息子さんが同チームでプレーしていたことにあります。試合を観戦した際、選手たちの全力プレーや地域とのつながりを大切にするチームの雰囲気に深く感銘を受けたといいます。
「選手たちは真剣にプレーし、地元の方々に愛されている。その光景はとても魅力的でした。」
一方で、課題も目の当たりにしました。運営体制や地域貢献、ファンサービス不足、リーグ全体の認知度の低さなど、まだまだできることがたくさんある状況だったのです。藤原さんは、自身が培ってきたビジネススキルを活かせば、この状況を変えられると考えました。
「地域密着型スポーツが抱える課題を解決し、もっと多くの人に魅力を伝えたい」その使命感から、代表の座を引き受けることを決意したのです。
データと国際化で競技力向上を目指す
藤原さんが『旭川ビースターズ』の代表に就任してから最も力を入れているのが、チーム全体の競技力向上です。
藤原さんは、「現場で努力する選手たちに最大限のサポートを提供し、競技レベルを引き上げ、NPBや海外プロリーグに1人でも多くの選手を送り出し、IPBL(一般社団法人 日本独立リーグ野球機構)に加盟することが、ビースターズの未来を切り開くカギになる」と語ります。
育成の方針として掲げるのが、「国際的な視点を取り入れた選手間交流」と「データ活用による選手育成」です。
方針(1)外国人選手の積極的受け入れで競技の幅を広げる
『旭川ビースターズ』が特徴的なのは、外国人選手の積極的な受け入れです。海外には、160km/hを以上を投げるピッチャーや圧倒的なパワーを持つ選手が多く存在しますが、その多くは指導環境や育成プログラムに恵まれず、潜在能力を十分に発揮できていないのが現状です。
藤原さんは、「日本の育成ノウハウを活用することで、外国人選手の才能を最大限に引き出すと同時に、日本人選手にとっても貴重な成長機会を提供できる」と語ります。外国人選手が持つ独特のプレースタイルや高い身体能力は、日本人選手に新しい刺激を与え、試合や練習の質を格段に向上させるといいます。
具体的には、以下の点が『旭川ビースターズ』の育成におけるポイントとなっています。
選手間の切磋琢磨
外国人選手との競争が、選手全体のモチベーションを高め、互いのレベルアップにつながる。
競技力の国際化
多様な選手とプレーすることで、国際大会や海外リーグに通じる実践的なスキルを習得する。
リーグ全体の注目度向上
外国人選手の活躍が、リーグそのものの価値を高め、ファンやスポンサーからの関心を引き寄せる。
「旭川から世界へ」という藤原さんの言葉には、『旭川ビースターズ』をグローバルな育成拠点へと進化させたいという強い思いが込められています。
方針(2)データ解析を活用した「見える化」の徹底
『旭川ビースターズ』では、データ解析ツール『ラプソード(Rapsodo)』を活用することで、選手の成長を数値として“見える化”する取り組みを進めています。このツールは、メジャーリーグをはじめ、世界中のプロ野球チームでも活用されており、投球や打球のパフォーマンスを細かく解析することができます。
以下の点が、『ラプソード』がもたらす育成効果です。
ピッチャーの成長支援
投球速度、スピン量、変化球の軌道などを数値化。選手は「自分の球の特性」を理解し、それを磨くための具体的な練習を行うことが可能になります。また、投球フォームの改良や球種の多様化にもつながり、選手個々のプレースタイルが向上します。
バッターの課題可視化
打球角度や飛距離、打球速度をリアルタイムで記録。これにより、理想のスイングを作り上げるための具体的な改善計画が立てられます。また、打撃コーチと選手がデータを基に議論し、最適なトレーニング方法を模索するプロセスが選手の成長を加速させています。
チーム全体の戦略立案
試合データを集積し、次戦の戦術を練る材料として活用。対戦相手の弱点を見抜き、試合ごとに柔軟な対応が可能になります。
藤原さんは「感覚だけに頼らず、データを根拠に練習や戦略を組み立てることが、現代野球の基本です」と語ります。『ラプソード』を活用したトレーニングは、選手の成長を加速させるだけでなく、競技力向上に対する選手の意識改革も促しています。
方針(3)室内練習場の整備で環境面の課題を克服
北海道特有の冬季の課題に対応するため、『旭川ビースターズ』では廃校を改装した室内運動施設『UBOOM(ウブン)』と提携しました。これにより、雪が降り積もる期間でも、年間を通じて選手がフルスケールの練習を継続できる環境が整いました。
全力投球・フリーバッティングエリアの確保
投手も打者も、実戦を想定した練習を行えるスペースを提供。
暖房完備で快適な練習環境
冬季の厳しい寒さを気にせず練習に集中できる環境を整え、選手たちが最大限のパフォーマンスを発揮できるよう配慮されています。
動画配信で広がる旭川ビースターズの魅力
『旭川ビースターズ』は、試合のネット配信を通じて北海道の魅力を全国、さらには海外に発信する取り組みも進めています。従来の“観客動員”に依存しない運営スタイルは、ネット時代に適した新しい戦略といえます。
ネット配信の特長は、試合映像に投球速度や打球の飛距離、打球速度や角度などのデータをリアルタイムで表示する点です。これにより、野球ファンだけでなく、スポーツ初心者やデータ好きの層にも楽しんでもらえる仕組みを実現しています。
また、スカウトの方々にも試合でのデータ提供することで選手の能力を客観的に見てもらえる環境が実現します。
さらに、動画には旭川の観光名所や地元グルメの紹介も含まれています。たとえば、試合の合間に旭川ラーメンや大雪山の美しい映像を流すことで、観戦が地域のプロモーションにもつながります。「スポーツの枠を超え、旭川の魅力を伝える手段として活用していきたい」と藤原さんは意気込みます。
支援に頼らない自立型の運営を目指して
藤原さんが『旭川ビースターズ』の運営で最も重要視しているのが、“甘えすぎない”という姿勢です。
地方スポーツチームは、地域やスポンサーからの支援に頼りがちです。しかし藤原さんは、それでは長期的な運営が難しいと考えています。「スポーツチームがただ支援を求めるだけではなく、どう地域やスポンサーに価値を提供できるかを考え続けなければならない。」この信念が、『旭川ビースターズ』の運営方針に深く根付いています。
選手が地域の課題を解決する存在になる
藤原さんは、「チームが地域に支えられる存在である以上、選手たちも地域に役立つべきだ」という考えを持っています。そのため、選手たちが直接地域の課題解決に関わる仕組みを構築しました。
(1)冬季の除雪作業
旭川は冬の積雪量が多く、地域住民にとって除雪は大きな課題です。選手たちは練習の合間を利用して、地元住民の除雪作業を手伝う活動を展開しています。これにより、地元住民との交流が生まれ、地域に深く根ざしたチームとして認知されています。
(2)学校での部活動支援
野球部をはじめとする地元学校の部活動に選手を派遣。選手たちは指導者として技術指導を行い、若い世代の育成にも貢献しています。また、部員たちにとっては憧れの選手と直接触れ合える貴重な機会となり、選手自身も「地元の子どもたちの成長を支えるやりがいを感じる」と言います。
スポンサー企業との共創を目指す新しい形
スポンサー企業との関係構築においても、藤原さんは“甘えない”姿勢を徹底しています。単に広告料や資金援助を依頼するだけではなく、スポンサー企業が直面する課題を解決するために選手たちが貢献する仕組みを作っています。
(1)人手不足の解消
選手たちが空き時間を活用してスポンサー企業で勤務することで、地域特有の人手不足を補います。特に冬季には、除雪作業や物流支援などの労働力が必要とされる業務に貢献しています。
(2)企業ブランドの向上
選手が働く姿勢や地域での活動を通じて、スポンサー企業が地域社会での信頼や好感度を向上させる効果が期待できます。選手が地域住民と接することで、スポンサー企業のCSR活動としても評価される事例が増えています。
藤原さんは、「スポンサーシップは、ただお金を出してもらうだけでは続かない。企業が地域貢献の実感を持ち、選手もそこで役立つ存在になることで、本当に強い関係性が生まれる」と語ります。
「与えられるだけではダメ」支援に依存しない姿勢の重要性
藤原さんが「甘えすぎてはいけない」と語る背景には、スポーツチームが支援を“当たり前”と捉えることへの警鐘があります。藤原さんは、自立した運営を目指すことが長期的にチームを成長させると信じています。
(1)収益構造の多様化
試合の観客動員に頼るのではなく、ネット配信の活用やグッズ販売の強化など、新たな収益源を確保する取り組みを進めています。
(2)地域密着を超えた価値提供
「地域に支えられるチーム」から「地域を支えるチーム」へ。選手たちが地域住民や企業に対し具体的な価値を提供することで、支援の先にある自立した運営を目指しています。
甘えない運営がもたらす持続可能な未来
藤原さんの“甘えすぎない”運営方針は、スポーツビジネスの新しい可能性を示しています。このアプローチにより、『旭川ビースターズ』は地域やスポンサー、ファンと強固な関係を築き、持続可能な運営を実現しつつあります。
「スポーツチームは地域のために何ができるのか。それを常に考えることが、これからのスポーツ運営の鍵になる」と藤原さん。地域課題に向き合い、チームとしての自立を目指す姿勢は、他の地方スポーツチームや自治体にとっても大きな示唆を与えるでしょう。
ふるさと納税型スポンサーシップの概要
藤原さんが提唱する“ふるさと納税型”スポンサーシップは、以下のような仕組みで成り立っています。
(1)ファンクラブの会費や寄付金の提供
ファンは『旭川ビースターズ』のファンクラブに加入したり、寄付金を提供したりすることでチームを直接支援します。また、寄付金や会費は、運営資金や選手の育成費、施設の維持管理費などに充てられます。
(2)地元特産品をリターンとして提供
支援額に応じて、旭川の特産品(お米、ジンギスカン、旭川ラーメンなど)、観光施設、ホテル宿泊など)をリターン品としてファンに届けます。また、周辺町の特産品は地域の生産者や企業から直接仕入れるため、地域経済への波及効果が期待されます。
仕組みが目指すもの
藤原さんは“ふるさと納税型”の仕組みについて、次のような狙いを語っていました。
(1)ファンにとってのメリット
旭川市や周辺町の特産品を通じて地域を体感
ファンは寄付を通じて、地元の特産品を楽しむことができ、「応援しているチームのある地域を身近に感じられる」という新しい体験を得られます。
応援の満足感を高める
支援がチーム運営や地域活性化につながることを実感できるため、ファンは「チーム運営に自分が貢献している」という満足感を得られます。
(2)地域経済への貢献
地元特産品の消費促進
寄付金の一部が地元生産者や加工業者に流れる仕組みのため、特産品の販売促進や地域の中小企業の活性化につながります。
地域ブランドの向上
リターン品を通じて旭川や北海道の魅力が全国のファンに広がり、観光誘致やふるさと納税の増加にも波及効果を与えます。
(3)チーム運営の安定化
安定的な資金確保
ファンクラブの収益が定期的に見込めるため、運営資金の安定化を図ることができます。
ファン基盤の拡大
特産品を目当てに加入する新規ファンが増えることで、チームの認知度向上やスポンサー獲得の後押しにもつながります。
具体的な運用と今後の展望は?
藤原さんは、この仕組みを『旭川ビースターズ』の運営の核に据えるとともに、地域全体を巻き込む取り組みとして発展させることを目指しています。
(1)特産品の多様化
地元の農家や加工業者と連携し、リターン品のラインナップを増やしていく予定です。たとえば、旭川の新しい名産品を開発するプロジェクトも検討されています。
(2)寄付金額に応じた特典の差別化
支援金額が多いファンには、特産品に加えて選手との交流イベントや試合観戦招待など、特別な体験を提供する仕組みを導入予定です。
(3)観光との連動
特産品の提供をきっかけに旭川への関心を高め、寄付者が実際に地域を訪れるきっかけを作る取り組みも視野に入れています。観光とスポーツを連動させた経済効果の最大化を目指しています。
北海道Likers編集部のひとこと
「ただ応援をお願いするだけではなく、地元の魅力を全国に広げる方法としてこのモデルを考えました。
特産品が全国のファンに届くことで、地元の人々もチームの活動に一体感を持てる。スポーツと地域経済が手を取り合う理想的な形を目指したいです。」と話してくれた藤原さん。今後の『旭川ビースターズ』から目が離せません!
文/北海道Likers
【画像】旭川ビースターズ
※この記事は取材時点の情報です。