コックが豚を追う看板が目印。母子二人三脚で想いを繋ぐ「国道37号線沿いのレストラン」(伊達市萩原町)
国道37号線の伊達市郊外に、出刃包丁を持ったコックが豚を追いかける看板を掲げている飲食店があります。その店の名は「レストランこだま」。しっぽをつかまれ「もう、ダメだ」という切なそうな表情が人々の目を引きます。
お腹と心を満たしてくれる「レストランこだま」の歴史や料理、看板に込めた想いを伺いました。
ホテルの厨房を飛び出して理想の店を開店
「レストランこだま」は、1970年に初代店主の小玉巌さんが虻田町にオープンした「ドライブイン清望」が前身です。巌さんは洞爺湖畔のホテルの厨房で働いていましたが、「高級なイメージの洋食よりも、大衆料理こそ本当の料理」という信念のもとに独立しました。
巌さんは、当時噴火湾で始まったばかりの養殖ホタテを使った『ほたてめし』を考案するなど、現在にも通ずる地域の名物料理を生み出しています。一般家庭でも車を所有できる時代が到来すると、物流も列車からトラックに変わり、「ドライブイン清望」はお客さんが絶えない日々が続きました。
1973年に立地条件や賃貸料などの問題から伊達市に移転。店名も新たに「レストランこだま」として再スタートしました。現在は長男の元司さんが引き継ぎ、母親の元子さんと一緒に店を切り盛りしています。
2代目店主、苦悩の日々
東京の焼き肉店で修業を終えた元司さんが「レストランこだま」に戻ったのは1994年10月のことでした。親子で厨房に立つ予定でしたが、巌さんは体調を崩し入院してしまいます。「昔ながらの職人気質で、見て覚えろという性格。父から教わった料理は、ほとんどありません」と元司さんはいいます。大鍋で作っていたカレーは失敗すると損失が大きいので、細心の注意を払っていたそう。
苦悩は料理だけではありませんでした。市街地にチェーン店やコンビニなどが増え、ドライブインの流れを汲む「レストランこだま」を利用するお客さんが減少し始めたのです。
「当時は店を建て替えたばかりで、支払いがあるのに客足は遠のく。焼き肉の修業をしたのに、店舗の構造がそれに適さない。母の持病も再発するなど、まさに四面楚歌でした」
ドレッシングの成功が流れを変えた
元司さんは、「おいしいものを作っていればお客さんがくる」という考えを捨て、攻めの姿勢に変更しました。週末には高速道路のサービスエリアや、各地のイベントに出向いて焼き鳥やお弁当を販売することもありました。そのような状況のなかで誕生したのが『雪の下にんじんドレッシング』でした。
販路を求めて東京・有楽町の道産品アンテナショップの新商品募集にエントリーすると、レギュラー商品化が決定。そのころはラベルを外注する資金がなく、自分で描いて色鉛筆で塗っていたといいます。味はもちろん、素朴さも評価されたのかも知れません。
メイン料理の前に前菜で満腹「こだま流もてなし」
「レストランこだま」では、料理を頼むと前菜に数々の小鉢が運ばれます。この日は、にんじんドレッシングがかかったサラダ、農家直送のアスパラガス、燻製たまご、地元で採れたよもぎを使ったよもぎ餅など、「これでもか」といわんばかりに小皿が並びました。
撮影用などではなく、いつも通りの無料サービス。太っ腹なもてなしで、祖父母の家に遊びに行ったような感覚になりました。
人気メニューは、巌さんの時代から続く『ほたてめし』と、伊達産のブランドポーク『黄金豚(こがねとん)』を使ったハンバーグ『黄金豚トンバーグ』など。『ほたてめし』はホタテの旨味が米に交わっていて、お焦げの香ばしさが食欲をそそります。ハンバーグは噛みしめると上質な肉汁がじわっと流れ出し、口のなかが歓喜に包まれます。
「母が食べ物などに注意して持病を克服したので、体によさそうな食材を使うようにしています」と元司さん。その言葉通り、どの料理にも生きる力が内包されています。食べることは喜びであり、明日に命を繋ぐこと。いずれもおいしくて、お腹はいっぱいなのに、舌が「もっと食べたい」と騒いでいました。
先代から引き継いだ看板を背負う
ユニークな看板の由来を伺うと、「主人が看板屋さんにインパクトのあるデザインを頼んだところ、あの絵になった」とのこと。何がモチーフになったのかなどは一切わからないそうです。
地域では「野蛮」という声も聞かれ、それが理由で元司さんは子どものころに心ない言葉を浴びせられたそうです。そうしたことがありながらも「あの看板は私たちの歴史。変えることは考えていません」と、巌さんの意思を守り続けています。
小玉さんはレストランのほかに、委託販売や通販など販路を拡大しています。どれほど忙しくなっても母と子の二人三脚。「不遇な時代もあったので、仕事ができるのはありがたいこと」と、涼しい顔で膨大な業務をこなしています。
「レストランこだま」は、居心地がよく、配達にきた業者の方々も、つい長居してしまうアットホームな雰囲気。飾らない笑顔と料理でもてなしてくれます。過剰とも思える小鉢のサービスも、あたり前のもてなしです。
こんな素敵なレストラン、素通りする理由は見当たりませんよ。
<店舗情報>
■レストランこだま
■住所:北海道伊達市萩原町107-4
■電話番号:0142-23-4661
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